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虚構の中の日常を

虚構の中の日常を ~寝起き編~

作者: 霧間愁

 まさかありえん漏らした、だと。


 現在、明け方まだ外も暗く布団の外は死の世界といっても過言じゃない。

 宇宙空間で船外活動をする飛行士を守るのはその服であるが、暖房機器がないこの薄暗い寒冷の部屋での生命線は包まっているこの羽毛布団に他ならない。

 目が覚めるが、とある緊張感で寝返りさえうてないでいる。

 白状しよう。

 でた。

 なにがだって?

 あれがだ。名状し難いあれだ。

 出た、…出てしまった感覚とともに目が覚めてしまったのだ。

 こういう場合は大抵、夢現ゆめうつつが曖昧になって夢の中で“もよす”というのが筋というものではないだろうか?

 所謂、腹をくだしてトイレに籠った夢を見た、重い何かを支えていて下半身を踏ん張ったとか、赤ん坊になってオムツをしていて、…いやなんとも名状し難い。

 しかし、その感覚はあったのだ。

 これはもう覚悟して、それを決めるしかあるまい。

 ゆっくりと顔を布団の中に入れてみる。

 よし、臭いはしない。大丈夫だ。

 いや待て。

 あれが無臭という場合もありえるし、まだ臭気が布団内部に籠もっていない可能性もありうる。

 確かに食事には気をつかっている。野菜中心だし、某有名乳酸菌飲料は毎日飲んでいる。

 こうなれば次は感触で確かめるしかない。

 仰向けで寝ている為、とりあえず腕の位置を確認する。両腕とも布団の中で怠惰を貪っているようだ。

 動かしてみて右手の中指薬指に違和感を感じる。

 羽毛から少しはみ出しているせいで冷気を帯びてしまっていた。

 ビックリするぐらい冷たい。

 右手を布団の中にいれて、手を握り締めると一部分だけ冷たく感覚がおかしい。

 これは今からの任務活動に支障をきたすかもしれない。

 尻、もしくはその付近の状態を正確にはからねばならないのだ。

 触覚が冷気で麻痺していて、触っても感触が解らなければ、被害が拡大してしまうだろう。

 利き手ではないが、左手で行おう。ゆっくりと左腕を肩から動かして、肘へと可動をさせていく。

 この場合、左手は威力偵察と言えばいいのだろうか。それとも査察団だろうか。尻にナニが漏れたかそうでないかを査察って、IAEAもびっくりな状況だろう。

 結論から言えば、任務は呆気なく失敗した。仰向けに寝ているため目的地にたどりつけなかったのだ。

 寝返りをうつにも、羽毛布団の中であれを拡散させるわけにもいかない。

 ここまできて、もしかしてアレは出てないかもしれない、という発想に至る。

 あれは夢のなかの出来事で、このうつつにはなんの影響もなかった、なんて希望的観測をしてみたくなる。出した感覚も夢の中の出来事。

 そうだ、あえて仰向けに寝ていて助かったと考えよう。床が尻をある程度圧迫して栓をしたのだと思う。うつ伏せだと栓がなかっただろう想像をするとなんとも情け無い。が、あの感覚は夢だったのだ。

 胡蝶の夢法則で、夢の中の出来事は夢の中では真実で、現の事は現での真実といことに当てはめる。

 と、そこまで考えて、はたと結局のところ、うつつでのコトは現でしか確かめられないのではないかと思ってしまった。

 そう確かめるしかないのだ。

 臭いも駄目。手による確認も駄目。

 こうなれば寝返りか。

 これは最後の手段だ。

 人間の知覚というのは、外部刺激によって行われている。見ることも匂いを嗅ぐことも、音を聞くことも、舌で味わうことも、そして何かに触れてもだ。

 ナニを排泄した感覚で目覚めてから身体は一向に動かしていないせいで、何かに触れている感覚はあれど、触れている何かは判らないし自分がどの様な態勢なのかぼんやりとしか想像イメージ出来ていない。

 そんな中、寝返りをうてば自分の態勢や自分の状況も解るのだが、問題なのはナニが布団の中で拡散する可能性が大ということだ。

 住んでいる地域は極寒で羽毛布団とこの敷き布団でなければ明日からの睡眠に支障がでることを考えれば初めから寝返りの一つや二つうつのだが、現実は実に不条理に出来ている。

 しかし、ここは覚悟を決めるしかない。

 そして被害が合った場合最小限に押さえなければならない。

 まずは羽毛布団を手で持ち上げる。と言っても、布団の外は死の気温なのでこの身体を外気にさらせない。ちょうど尻の部分の羽毛布団の途中を押し上げてサーカスのテントの様にするのだ。片手ではなかなかに厳しいがこれは仕方なのないことだ。

 両手だと寝返りがうてないと判断した。少なくとも個人的にはだが。

 寝返りを打った後素早く手で確認。

 もしも夢の中だけの出来事でなかった場合は、そのまま素早くトイレに駆け込む。手順としてはこれでゐい。


 緊張の時だ。

 自分の中でカウントが始まる。

 宇宙に飛び立つ飛行士の様に。

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