1章 異世界での目覚め
続きを投稿しました。
何かありましたら、どうぞご連絡ください。
気が付くと、騒がしい町中にいた。
周りの人達は自分達が見えないかのように、通り過ぎていく。
「ここは、どこだ?」
周りの人や家を観察すると、西洋風の服や建築物である事がわかる。
「まさか、異世界か?」
何度か小説でそのようなものを読んだ事があり、それに一致するように思えた。
とはいえまず、状況を知らなければ、と露店を開いている男性に声を掛けてみた。
「あの、すいません。」
しかし、反応はなかった。
横では新しい客である女性が店主に声を掛けて、野菜を買って、自分の体を通り過ぎていった。
「あぁ、死んだままなのか。」
そう言って落胆していたところ、声を掛けられた。
「おい、そこのお前。」
「?」
振り向いてみると、ボロボロの服を着た半透明の霊がいた。
「お前、他所もんか?」
自分と話せる人がいて安心する反面、ギラギラとする相手の目に不安を覚える。
しかし、他に頼れる人もおらず、相談してみる事にする。
かといって、別の世界から来た事を正直にしゃべっても信じてもらえないだろう。
「あ、はい。死んだばかりでして、どうしたらいいのか、、」
「へぇ、お前正気を保ててんのか。珍しい。いや、好都合か。」
そう言って男はゾッとする笑みを浮かべた。
「悪いが、俺の正気の為に食料となってくれ。」
そういって自分に飛び交かり、首に噛み付いてきた。
想像を絶する痛みの感覚が走り、魂が軋みを上げているのが分かる。
「うめぇなぁ。お前。なんて新鮮な魂だ。それに何か力が漲ってくる気がするぜ。」
そういって、どんどん噛み付いてくる。
「そこまでよ。そいつは私の獲物なの。」
突然そんな声がかけられる。
そして、声の方向を見ると、悪魔の女性がいた。
コウモリの翼、尖った細い尻尾を持ち、空中に浮かんでいる。
容姿は悪魔に相応しいまさに男性を誑かすための色気のある体型をしており、年齢は少女から大人へと変ろうとしている年頃である。しかし、雰囲気は既に大人びている。
「うげ、悪魔の嬢ちゃんじゃねぇか。なんだ、あんたもこいつを食べてぇのか。」
「ふん。あんたの知ったことじゃないわ。ほら、さっさ散りなさい。」
そして、今まで自分を食べていた悪霊は去っていった。
「あの、ありがとうございます。」
「ん?あなた悪魔にお礼を言うの?珍しい奴ね。」
「助かったのは事実ですから。」
苦しみの中に一筋の救いの光が射したように、彼女は悪魔というには神々しかった。
「あ、そう。それより、あなた達どこから来たの?随分綺麗な魂をしているけど。」
この悪魔には真実を話しても良いかもしれない、そう思った。それは助けてくれたという事と、助かったという安心感から来てしまったのだろう。これが俗に言うストックホルム症候群というやつだろうか。後で後悔するとは知らずに。
「実は、、」
そして、異世界から来たこと、死ぬ前にあったことを正直に喋ってしまった。
すると、悪魔はとても同情的になり、また、励まそうとしてくれた。
「そんなことがあったのね。可哀想に。」
「あなた達は、今度こそ幸せになるべきだわ。私も協力する。」
「あ、ありがとうございます。」
今まで誰も味方になってくれなかった身として、この言葉は本当に心に沁み、感動で涙ができそうになった。それを誤魔化すために、お辞儀をした。
「そのためには、とりあえず何か体を持たなければいけないわね。そんな無防備な魂だけの存在なんて、さっきの男みたいな悪霊にすぐ食べられちゃうわ。」
もし、彼女がいなければ、自分も妹も食べられていたのかと思うとゾッとした。
「あなた達は幸い、別の世界から来たからこの世界の身体にすんなりと入っていけそうね。」
「入っていける?むしろ拒絶反応を示すんじゃないんですか?」
臓器移植をする際に、他人の体の臓器はなかなか合わず拒絶反応を示すことが多い、と聞いたことがある。
「それは身体の話ね。魂で問題になるのはその世界で生まれたかどうか、よ。一度その世界で生まれ、育つと魂の形が決まってきて、他の身体に入らないようになるの。でも、あなた達は違う世界から来たからこちらでの姿がまだ決まっていないの。」
「それで、あなた達さえ良ければ、どんな身体でも入れるわ。生まれる前の赤子でも、死体でもね。流石に魂がある程度定着した成人は難しいけど。」
「まぁ、身体の移植も案外魔法でどうにかできるのだけど。」
「へぇ、そうなんですか。」
この時、自分にとって彼女はとても賢く、正しいように思えた。
だから、彼女が浮かべていた笑みの本当の理由が分からなかった。
「さて、それじゃまず妹さんが入る身体を決めましょうか。」
「はい。」
そう言って、辺りの家の中、街道を見て回り、妊婦さんがいないか探してみることにした。
流石に妹を死体に入れることは躊躇われた。
「この家の人とかはどう?お父さんお母さんも中々優しそうな人だし、家もそこまで貧しくないわ。」
言われて見てみると、確かに中々良い家庭だと感じた。今いる子供も男の子1人だけで、子供が2人になったとしても充分暮らしていけそうな身なりをしている。
男の子もしっかりしているし、きっと妹を守ってくれることだろう。
「そうですね。此処なら妹も幸せになれるでしょう。」
「へぇ。あなた、妹思いなのね。」
「死ぬ前はそれなりに仲がよかったですから、、」
ここまで来て、心の余裕ができたのか、他人の心配ができるようになった。
「あ、この赤子に入る魂は大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ。魂ってのはその器が入るのに十分な条件が満たしていなければ元々入らないようになっているし、器ができてもすぐに魂が入るわけではないわ。」
「幸い、これから生まれる子には器ができたばかりで魂はまだ入っていなさそうね。」
「そうですか。それは良かった。」
この世界へ来る前の憎悪はある程度薄れ、他人の幸せまで意識できるようになっていた。
「さて、取り敢えず入れてみましょうか。」
妹の手を引き、お腹が膨らんでいる女性のところへ連れて行く。
そして、妹の手を女性のお腹に触れさせると妹の魂は吸い込まれていった。
「生まれ変わった後にまた会おうな。その時は、俺ももっと強くなっておくから。」
そう言って、家から出る。
「さて、次はあなたの番ね。」
彼女がこちらを見ながら真剣に言った。
「あなたは死体の方が良さそうね。」
「え、どうしてですか?」
「あなた、、強くなって妹を守るんでしょう?それなのに同じ年に生まれて、守れるほどの力をつけれるの?」
言われてみてハッとした。
「確かにそうですね。えっと、、」
お礼を言おうとして、相手の名前を知らない事に気がついた
「ああ、名前を言い忘れてたわね。リリニールよ。リリィと呼んでいいわ。」
「分かりました。リリィさん。ありがとうございます。それと、身体探しよろしく願いします。」
お礼を言われた彼女はニコっと綺麗に笑った。
「はい。よろしくね。」
ここまで考えてくれるなんて、本当に自分達の幸せを考えてくれているんだと感じた。
その後は死体を探しに墓地へ行った。
墓地では新しく埋葬されるのであろう、少年の姿があった。年若く、恐らく病で死んだのだろう。痩せ細り、肌は白かった。
周りには関係者であろう人たちが泣いていた。
「あの子にしましょう。」
そう言ってリリィさんは近寄っていった。
まさか、生きている人たちの、それも関係者の前で復活させるのではないかと心配になる。
「ちょっと、待って下さい。まだ、関係者の人たちがいますよ。流石に目の前でするのは、、」
「ああ、本当ね。それじゃ、居なくなるまで待ちましょうか。気付かなかったわ。ありがとね。」
リリィさんがそう言ってウィンクをしてきた。
思わず、顔が赤くなってまい、下を見て隠す。
しばらくすると、その身体は埋められ、関係者たちが帰った頃にはもう夜遅くだった。
「埋められちゃってるんですけど、大丈夫ですかね。」
「心配いらないわ。一度掘り返すし、流石にもう腐り出しているわけじゃないでしょう。それに棺の中に入っているわけだから、土まみれにもなっていないはずよ。」
そう言ってリリィさんは棺を掘り起こした。
「待って、死体に入る前に一度私と契約しましょう?」
いざ、死体の身体に触れようとした時、彼女が言った。
「契約?」
まさか、これが噂の悪魔が行う魂の取引だろうか、そう思った。
「念の為よ。死体に入って合わなかった時に魂を繋ぎとめておくために。流石に死体には一度魂が入っているから、保険としてね。」
「なるほど。」
理には適っていた。それに、今まで助けてくれたこの人が悪い事をするはずがないと思った。
きっと、死ぬ前の世界での悪魔のイメージはこちらでは違うのだろう。
「それで、どうすればいいんですか?」
「わたしの手の甲にキスをしてちょうだい?」
綺麗なこの人にそんな事を言われ、顔が赤くなった。
リリィさんはそれを見て笑う。
僕はこれ以上笑われないように、早く終わらせようと務めた。
リリィさんの手の甲にキスをすると、自分の胸の中が熱くなり、胸の中心に文様が浮かび上がった。胸の中はまだ熱いものが残っている。
「これで良いわ。それじゃ、行ってらっしゃい。私はここで待っているから。」
「リリィさん、ここまで本当にお世話になりました。ありがとうございます。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
おやすみ、というリリィさんの最後の笑みに何だか怖くなったが、夜の暗闇のせいだと思い、死体に触れ、入った。
ありがとうございました。
次はもう書きあげておりますので、また後日に。
反響が良かったらこれから上げていくペースを速めるかもです。
まだ趣味の範囲なのでご容赦ください。