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不死者が捧げる鎮魂歌  作者: エドモン
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Ⅰ部 絶望と力 0章 常識の崩壊

残酷な描写があります。

お気を付けください。


追記)読みにくさを改善いたしました。これでいくらか読みやすくなったかと、、

ご指摘ありがとうございます。また何かあれば仰って下さい。

Ⅰ部 絶望と力


0章 常識の崩壊




 認めたくなかった。唯、今までのような平凡で幸せな日々が続くと思ってた。しかし、目の前の現実がそれを否定していた。リビングでは父と母が血まみれで横たわっており、もうすぐすれば残った家族である妹も自分と同じく殺されるだろう。彼女は必死に兄である自分の名前を叫んでおり、涙を流しながら誰かの助けを求めていた。20分前には皆笑って一緒にテレビを見てたというのに、、


 ~20分前~

 「それじゃ、買ってくるのはジュースと舞の読んでる雑誌と明日の朝飯になりそうなものだけでいい?」    

 

 「ええ、それじゃお願いね。」


 「んじゃ、ちょっと行ってくる。」


 目当てのものを買いに近くのコンビニへ出かけていく。冬の夜の空気はひんやりとしており、熱い風呂に入った後のほてった体には気持ちよかった。周囲もあまり人影はなく、静謐としている。



 「ありがとうございました~。」

 コンビニの店員に見送られ、帰路へとつく。およそ5分の家までの道をゆっくりと帰って行った。しかし、家の目の前まで行ったところで家の雰囲気がどこかおかしいと思った。行く時には聞こえなかった家の中のテレビの音がやけに大きく外へと響いていた。他人との付き合いに異常なまでに気を配っていた両親にしては、あり得ない家の状態に嫌な胸騒ぎがしていた。


 玄関のドアを開けた時、それは確信に変わった。空気に鉄さびのような匂いが混じっている。


 胸の内に逸る不安に突き動かされる。

 鼓動は次第に早くなり、冷や汗が出てきた。


 「お父さん!お母さん!舞!」


 リビングへ走って行くと、そこには絶望があった。

 父と母が血まみれで横たわっていた。

 先程、テレビを見ながら妹と楽しく談笑していた姿がまだ記憶に新しいというのに。


 「父さん!母さん!」


 近くに駆け寄り、状態を確かめる。

 その体は何度も刺されたのか、血が出ていた所が複数あった。その目に光は無く、涙が流れていた。周りをみると暴れた後の部屋の様子があったが、妹の舞の姿は無かった。

 

 「舞!」


 必死に呼ぶが、反応は無かった。いや、テレビの大きな音にまぎれて妹の声が聞こえてきた。それは2階の妹の部屋から聞こえてきているように感じた。急いで階段を駆け上がり、妹の部屋へ向かった。妹の部屋のドアは半分開いていた。


 「舞!大丈夫か!」


 ドアを開けると、妹が押し倒されている姿と妹の上に馬乗りになってナイフを振り上げている男の姿があった。


 「お前!妹から離れろ!」


 男に体当たりをして、妹を助けようと試みた。その試みは成功して男を壁にぶつける事になった。


 「お兄ちゃん!後ろ!」


 妹を助けることに必死になっていて、ドアの後ろに隠れていた2人目の男の存在に気付けず、後ろを振り向いたときにはもう遅かった。


 「がはっ!」


 2人目の男に棒のようなもので何度も殴られ、立ち上がることも出来なくなってしまった。


 2人目の男が壁にぶつかった男に声をかける。


 「おいおい、大丈夫か。」


 「お前なぁ、もっと早く助けろよ。来るのはわかってただろ?何のために分かりやすく、ナイフを持ち上げてたと思うんだよ。」


 「悪ぃ悪ぃ。なんかお前のクズっぷりが堂に入ってたからよお。見入っちまったぜ。」


 「はっ。わざわざ父親の目の前で母親を殺して絶望させていたお前に言われたくはないな。しかも、その後に来たこいつの前で母親を殺し、何度も死体を刺して冒涜したしな。」


 「そりゃ、仕方ないだろ。父親が死ぬところを見せれなかった分、他にこいつの絶望を深める材料がなかったんだから。でもよ、俺らついてるぜ。なんせ、こいつには肉親の兄がいて駆けつけてくれたんだからよ。」


 「確かに。はははっ」


 2人の男は俺たちの前で親の死ぬ経緯をわざわざ話していた。それに対して、妹は尚悲壮な顔になったのを見て、俺は心を燃やしつくすような憎しみを抱いた。妹は泣きながら、男たちに訴えた。


 「どうして、、どうしてこんなことをするの。私たちが何をしたっていうの。どうして私たちなの。」


 「ん?そりゃあ、俺たちの業みたいなものさ。」


 「俺たちはな、人の絶望する姿に感動を覚えるのさ。ああ、絶望ってのはいい。特に涙が涸れ果て、笑う姿は。ああ、こいつはこれから生きていても死んだのと一緒の生活を過ごすんだなって思うと、普通に殺すのよりよっぽど気持ちいいし、芸術的だ。なぁ、そう思うだろ?これこそ、本当に死を与えたって思える。」


目の前の男が言っている事が全く分からなかった。

つまり、こいつらは唯自分が感動するために人を、親を殺したのだ。


 「こんなこと、いつか絶対見つかる。絶対あなたたちは将来いつか後悔する時が来る!」


そう妹が叫んだ。


 「見つかるって?どうやって?俺らとお前らには何の関係もない。警察は必死にお前ら周辺の人間関係を探すだろう。あとはこの家の近くにいた不審人物を探すだろうが、俺らがこの家に決めたのは偶々だし、入ったのなんか一瞬だ。どうやってたどり着ける。あと、後悔する時が来るって?さぁ、どうだろうな。そんなことは万が一にでもないだろうが、もし将来後悔する時がきたらその時は適当に後悔して、後は適当に生きていくさ。」


 「まぁ、警察に見つかったとしても、お前の親が助けてくれるしな。」


 「こういう時こそ、親の社会的地位が役に立つな。まぁ、それ以外は糞の役にも立たなかったが。」


 「そ、、そんな、、」


 俺は信じられなかった。こんな事が許される世界が。こんな奴が存在する事が。男たちを睨む。


 「う~ん。やっぱりまだだな。まだ足りない。」


 「だな。こいつはまだ泣けて、声が出せる。ちょっともったいないが、兄の方を殺すか。こいつも絶望させてやりたかったが、ちょっとこいつは憎しみの方が強すぎる。絶望させるには時間も材料も足りないな。」


 そう言って男たちはナイフを手に持ち、こちらに近づいてきた。


 「やめて!もうやめて!」


 妹が必死に叫んだが、男たちは構わず歩いてきた。妹が泣き叫んでいる姿に俺は憎しみの炎が更に激しく燃えた。


 「お前らぁ、絶対殺してやる!」


 時間が経ちある程度動けるようになった俺は、横にあった椅子を男達へと蹴った。


 「くっ、お前!」


 男の一人が椅子を当てられてひるんだ隙に、筆立てにあったペンを手にとりもう一人の男へと振りおろす、が避けられてしまった。更に振りおろしたすきに殴られて倒れてしまう。


 「あぶねぇ。こいつもう動けるようになってたのか。もっと殴っとけばよかったぜ。」


 「お兄ちゃん!」


 「これはお仕置きだな。」


 椅子をぶつけられた男が妹へ向かっていった。


 「さぁ、妹ちゃん。こんな悪い子なお兄ちゃんにお仕置きをしなきゃな。どこを切ってあげればいいと思う?」


 「そ、、そんな、、」


 「さぁ、選んでくれ。」


 「無理、、そんなの、、、」


 「そっか、それじゃ、さっと殺しちゃうか。」


 「だめ!やめて!お兄ちゃんを殺さないで!お兄ちゃんが死んだら、、、私、、」


 「そうだよなぁ。それに死ににくそうな所を言ってけば、もしかしたら誰かが駆けつけてくれて助けてくれるかもしれないぜ?」

 

 「・・・」


 「おっと、時間稼ぎでもしようものなら、おれらが適当に切っていっちゃうぞ。ほら。」


 「あらよっと。」


 「ぐあああ!」


 ナイフを肩に刺され、激痛が走る。


 「やめて!」


 「じゃあ、次のところを言ってくれよ」


 「う、、そ、それじゃ、指で。」


 「腕か?足か?」


 「足、、で」


 男たちはニヤニヤと笑いながら言った。


 「足ね。そりゃまた、妹さんもえぐいところをいくねぇ。」


 「そんな!」


 「まぁ、それだけ生きていてほしいって思ってんのかね。素晴らしい兄弟愛だねぇ。なあ、お兄ちゃん!」


 「あがあああ!」


 足の小指を切断された激痛が走り、眼から涙が出てくる。


 「お兄ちゃん!」



 その後、何時間も経ったかと思われるほどの時間にわたって、苦しみは続いた。後半は意識が朦朧としていたが、刺されるたびに激痛が走り、現実に戻された。そして、その激痛もあまり感じられなくなった時が来た。


 「残念ながら、間に合わなかったなぁ、妹ちゃん。」


 「グスッ、、そ、、、そんな、、」


 「長く苦しめただけだったなぁ。」


 「うぅ、、、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、、、お兄ちゃん、許して、、」


 「許してって、お前が望んだんだろう?これも、お前が生きていてほしいと思ったから、こんな結果になったんだ。ああ、可哀そうに。さっと苦しまずに死ねたら幸せだっただろうに」


 「私が、、望んだから、、」


 「おいおい、死んで楽になろうとは思うなよ?こんなことをしたんだ。生きて償わないとなぁ。」


 「・・・」




 「ああ、やっぱりいいなぁ。この絶望した顔。この生きていても幸せとは程遠い存在。ぞくぞくするなぁ!」


 「即興にしては、まぁまぁいい出来になったな。」


 「さて、おしまいだ。このまま生かしておいても何ともないだろうが、芸術とは一瞬のものであるべきだ。何度も見れるものは完璧じゃない。」


 「飽きが来るからな。」


 そう言って、男たちは笑い、妹を殺した。





・・・・


 少し時が遡る。


 

 「ハッ!ここは、、、どこだ?俺は、、死んだのか?」


 そこは一見すると何もない部屋だった。壁は唯白く無機質で、上から照らされる光も温かみは感じられなかった。


 「ここは、死んだ人が訪れる場所だ。」


 いきなり後ろから声が聞こえ、振り向くと、質素な白い椅子に座った長髪の真っ白な男がいた。


 「そうか、、おれは死んだのか、、」


 一瞬助けが来て、病院で生き残ったのかと思ったが、そんなことはなかった。


 「待てよ。舞はどうなった!?」


 「君の妹の事か?気になるなら、少し様子を見せてあげよう。」


 そういって彼は指を鳴らした。すると、空中に妹の部屋とその内部の様子が映し出された。


 (「残念ながら、間に合わなかったなぁ、妹ちゃん。」)


 (「グスッ、、そ、、、そんな、、」)


 「舞!」


 妹の舞が絶望して、殺されようとしていた。


 「頼む!舞を助けてくれ!あんたならできるんだろう!?」


 死んだ後に会える存在が神だとするならば、彼はきっとそんな力も持っていることだろう。


 「その答えなら可だ。しかし、それはしない。」


 「どうして!?」


 「それがルールだからだ。私たちは君たちに干渉しない。唯、死んだものを別の体に入れ、また転生させるだけ。」


 「何がルールだ!目の前に苦しむ人がいるのに助けない理由はないだろ!」


 「いや、ある。もし、私が彼女を助けたとして、私たちは何を得る?君は指をちょっと切っただけで、大袈裟に騒いだり、切る事になった紙や刃物等の他の道具を捨てるのか?」


 「あんたが神ならば、人を助ければ、それをみて信仰を持つ人がいるかもしれないじゃないか!」


 神様なら信仰というものは重要なはずだ。


 「いや、人々は私たちの存在を知れば利用しようとするだろう。むしろ、無暗に助けたり、姿を現さないほうが人々は信仰を持てるのだ。それが人の業である。」


 彼はそう言い、断固として助けに動こうとしない。


 「それに、彼女の望みは家族の生き返りだ。それもまた自然のルールに反している。」


 「ふざけるな!」


 目の前の存在は神なんかじゃない。唯の感情を持たないくそったれな野郎だ。そう思い、彼を睨む。


 「君はうるさいな。少しは心に平和があるように努めなさい。それだから心に憎悪が生まれるんだ。」



 「なんだと!」


 そんな応酬を返しているうちに、妹は殺され、その魂がこちらへやってきた。


 「舞!」


 傍に駆けより、妹の魂を呼んだが、反応は無い。


 「ふむ。やはり、その娘も絶望の虜となったか。」


 男がそう言った。


 「さて、本来はこんな場所に呼ばず、さっさと別の身体に転生させるはずなんだが、何でここに呼ばれたか分かるかね?」


 「何が言いたいんだ?」


 「君達の魂の状況を確認するためだ」。


 「魂?」


 「たいていの魂は、別の身体に移る前の処理で元々の何もない状態まで戻る。しかし、偶に強い感情、特に憎しみや絶望などが処理を行っても残留してしまう時があるのだ。」


 「そういうものは、新しく生まれてくる命に対して悪影響となる可能性がある。特に君のような死んでも感情が残っている魂は特に。」


 その時、この男が何をしようとしているのか分かってしまった。

 悪影響を及ぼしうる存在をこの男は許すだろうか。いや、そんなことはない。


 「そんな馬鹿な!そもそも、こんな事になったのはあんた達にも責任があるだろう!?」


 「そうだ。だから、廃棄せねばならない。安心しなさい。塵から生まれたものが塵へと還るだけだ。いつかまた魂となり生を持つ事になるだろう。」


さらにこう言われ、悟ってしまった。神は本当に自分達を道具のようにしか思っておらず、唯捨てようとしているだけなのだと。

助けようなどとはかけらにも思っていない事を。


神から見捨てられ、絶望するかと思ったが、横で座っている妹を見ることでそれは憎しみへと変わった。


憎い。心にあったのはその感情だけだった。許せなかった。目の前にいる感情のかけらも持っていなさそうな神が。自分たちの助けが来なかった、こんな事が許されている世界が。助けに訪れなかったあらゆる人が。1つの家族が絶望の果て苦しんでいるのを傍目に、今ものんびりと生きているものが。


そして何より、家族を救えず、家族に向けていた愛情すら今は憎しみの炎の燃料とした自分の心が、存在が。


そんな感情が魂の奥底から湧き出てくる。自分でもの何故ここまで憎く思っているのか分からない程の感情が激流のように溢れてきて、おかしいと思う心さえそれに流されていく。


「とは言っても、他人に言われただけではどれほど穢れているか分からないだろう。」


「実際に見てくれれば納得しておとなしく受け入れてくれるだろうか。そうすれば、少しは憎しみが薄れるだろう。」


「今<鑑定>のスキルをお前に与えた。それで一度自分の状態を知ると良い。自分の体、鑑定、と頭の中で念じれば頭の中にその情報が入ってくるはずだ。」



名前: 春日 社 かすが やしろ


種族 人


レベル3


生命力:-/-

魔力:0/0


体力:0

筋力:0

耐久力:0

敏捷:10

知力:12

精神力:9

才能:5


魔法

なし


スキル

鑑定レベル9


状態

憎悪 lv.3



睨んで殺す事が出来たら、どれだけ良かっただろう。しかし、神を睨んで出てくるのはステータスの差という大きな壁だった。もしくは力の差と言っていいか。


(主人公は体を持たず、スキルも持っていなかったので攻撃する手段は無かったわけですが。)



名前: 輪廻転生を司るもの


種族 神(天族)


レベル99


生命力:999/999

魔力:0/0


体力:350

筋力:320

耐久力:335

敏捷:280

知力:370

精神力:355

才能:30


魔法

なし


スキル

鑑定レベル9

輪廻転生レベル5


状態

特記事項なし



「理解できたか?それでは、そろそろ眠ると良い。」


そう言って男が手をかざすと、だんだん意識が無くなり始める。しかし、完全に意識がなくなる前に、異変が起きた。


バリバリバリッ、と音をたてて部屋全体に亀裂が走る。

すると、神が焦り、喚き出した。


「そんなばかな、、何故この空間が崩れる、、ここは幾つもあるとはいえ、仮にも魂を扱う場所だぞ?」


「まさか、主が私を見捨てたのか?そ、そんな、、、主よ!私は唯ひたすらに忠実に役割をこなしてきたではないですか!私が何をしたというのです!?」


そして、何かを探すようにして、周りを見渡し、此方を見て縋るように天に向けて言った。


「お、お待ちください!主よ!私はまだ役目を果たしきれておりません!この者らを処分せねば!」


しかし、亀裂は更に大きくなっていき、止まる様子はなく、とうとう神と俺たちを吸い込み始めた。


神は此方を見て言った。


「こんな事になったのも、お前らのせいだ。絶対に滅してやる。」


そう言って、男は亀裂に向かって吸い込まれていった。そして、自分達も含めて部屋全体が吸い込まれていく。


「舞!」


そう叫んで妹の手を掴み、離れていかないように抱きとめる。



もう絶対に悲しい想いはさせない。

そう心に誓った。

読んでくださり、ありがとうございました。

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