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元王妃は追い出されない

 久しぶりに投稿しました。最近時間が取れなかったのでリハビリ作品みたいなものですね。

「――誠に残念ではありますが、あなたには王妃の座を退いていただきます」

 言葉とは裏腹にその表情に浮かぶのは侮蔑。


「……わかりました」

 王妃は一度だけ王、自分の夫へと視線を向け彼の沈痛な面持ちを窺うと了承の意を示した。

 それまでは座っていた椅子から立ち上がり、首を垂れるという形で。

 これはそれまでの上下関係がひっくり返ったことの証明。

 どこまでも見下している男よりも自分の立場が低いことを表していた。


「くっ…!」

 王妃の態度に王は心からの悲嘆を抑えきれず、その口からは小さな悲鳴が漏れていた。

 臣下たちには王の悲しみが届かない。ようやく役立たずの王妃を引き摺り下ろしたことによる快感が彼らの脳内を占め、響く笑い声がその声を掻き消していたのだ。

 唯一、王の声を聞き届けた王妃だけが王に対して感謝と喜びを含んだ微笑みを浮かべていた。




 国王と王妃が結婚したのは、王が即位してから半年後。

 幼少の頃より婚約関係にあった二人が結婚したことは国民にとって喜ばしい報せとして国中をにぎわせた。

 それから早10年。

 祝福された結婚をしたはずの二人の間には未だ子がいなかった。

 これには初めこそ二人の結婚を祝福していた大臣たちも焦りを禁じ得なかった。王国とは血で繋がる歴史。王族の血が途絶えることなどあってはならない。

 次第にその考えは広がっていき、時には王に対して側室を娶ることを提案する者もいたが王は断固として首を縦に振らなかった。


『余は王妃を愛しておる。他の側室なんぞいらん!』


 王の強硬姿勢に為す術なしと受け入れるしかなかった臣下たちではあったが、彼らも黙して滅びを待つわけにはいかない。

 そこで王妃には内密に王に一つの提案――賭けを持ちかけたのだ。


 内容は当然のことながら、王妃に子が出来なければ側室を娶るというもの。

 王は断固拒否の姿勢を崩さなかったが、大臣たちはもしも王がこの申し出を断るというのならば王妃には死んでいただくと脅してきたのだ。


 王は国の頂点に立つ存在ではあるが、国は王だけで動くわけではない。

 むしろ、王は最終的な命令を下すだけでその下の行動は様々に細分化して多くの人の手が加わって国は運営されている。

 申し出を断っても王妃が殺されないようにすることは出来るだろう。

 だが、国が成り立たなくなるおそれがある以上王にはこの要求を呑む以外の術は残されていなかった。


 ――そして、王が三十路に差しかかろうかという今日、王妃の追放が決定した。




「ご安心下され。王妃の座は退いていただきますが、あなた様には王宮に留まっていただきます」

「王妃様は体調を崩されて、療養のために離宮に移られたということにしておきましょう」

「それがよいですな。子が出来ぬという病なのは確実なのですから!」

 嘲笑が最愛の王妃を傷つけているというのに、何もできない。

 王は自らの無力を呪いながら王妃が離宮へと移されていくのを黙ってみているしか出来なかった。

 王妃は一度も振り返ることなく、離宮の中へと消えて行った――。



「王妃の様子はどうだ?」

「……お変わりなく、元気に過ごしておられます」

 離宮勤めの女官が大臣に呼び止められ、足を止めるとしばし見つめた後に返事を返した。

 大臣は女官の態度を不遜に感じながらも、表向きの立場を考慮して不快気に鼻を鳴らすだけに留めた。


「…? 御用がそれだけでしたら、失礼いたします」

 いつもならネチネチと嫌味を言う大臣の態度を不思議に思いながらも女官は仕事に戻ろうと踵を返す。


「王が側室をお選びになられた」

 しかし、歩き出そうとした一歩は背中からかけられたたった一言で止めざるを得なくなった。


「…………」

 無言で続きを促す女官に満足気な笑みを浮かべ、大臣は自慢げに語り出す。


「王妃が離宮に入ってから3カ月。長かったが、ようやく王も観念したようだ……とでも言うと思ったか?」

 一瞬、浮かんだ女官の安堵。それを見逃すほど大臣は甘くない。

 彼は女官を――しいてはその主を地獄のどん底へと落とすべく追い打ちをかけていく。


「陛下は初めこそ悩んでいたものの、ある娘。――そう儂の孫に対して大層懸想しておられてなぁ…。今では、元王妃など足元に及ばないほどの溺愛ぶりよ。クククッ」

 先程までの呼び方から元王妃という呼び方に変わっていた。それはまるで勝利宣言のように聞こえる。


 女官はよりにもよってと思わずはいられなかった。

 この大臣は元から王妃に悪感情を抱いていた節があり、なんとかして王妃を追い落とそうと躍起になっていた。

 そのことを王が知らないはずがないというのに…!

 女官はとうとう憤りを隠し切れなくなり、足早に離宮へと引っ込んでいった。


「あの女によく言っておけ! 貴様が戻れる場所などどこにもないのだとな!!」

 執拗に追いかけてくる声から逃れるためにも女官は礼儀など気にしておれず、姿が見えなくなった段階で駆け足になっていた。



「妃殿下!」

 女官は離宮へと戻るとすぐに主である元王妃のもとへ飛び込んだ。


「……あら? どうしたの?」

 王宮に輿入れするよりも前からの付き合いの女官の動揺っぷりに王妃は眉を顰め、怪訝な表情を浮かべる。


「陛下が、陛下が側室を御定めになられました!!」

「っ!!」

 悲鳴のように伝えられた言葉に、どうしたの?という言葉は出てこなかった。

 何も言えなくなっていたのだ。


「……そうなのね」

 自分の代わりに泣いてくれる女官に胸を貸し、ようやく落ち着いたころになって王妃は自分に言い聞かせるようにそれだけを呟いた。




 ――王妃が病に倒れたという報せを受け、沈んでいた国内は数年ぶりに喜びに沸いた。

 王に待望の男児が生まれたというのだ。

 しかし、その知らせを受けて数日後には国民はまたもや落胆の色を浮かべることになる。


 王には側室との間に既に3人の娘がいた。

 長年、子どもが出来なかった王に世継ぎの可能性が出てきたことに初めこそ湧いた国民だったが、生まれたの女児であったこと以上に彼らは落胆を示した。

 それは生まれた子供が王に似ても似つかない容姿だったからに他ならない。


 王の容姿は整った顔立ちと光り輝く金髪。

 この国の国王は代々そういう容姿に恵まれていた。

 そして、側室はよく言えば可愛らしい顔立ち、悪く言えば童顔な大人の魅力にかける女性だった。


 しかし、生まれた子供は3人が3人ともに、父親である王の子どもかと疑いたくなる容姿だった。

 両親が影響で顔立ちこそ悪くはないものの、歴代王族の中では明らかに見劣りする平凡な顔。さらには誰一人として光り輝く髪色を受け継いでおらず、全員が全員がくすんだような髪色だった。

 側室の祖父が似たような髪色であることから母親は辛うじてわかるが、事情を知らない第三者がみれば誰の子だろうと疑問を抱くのは間違いないだろう。


 そして今回生まれた子供も似たような容姿だった。

 違う点と言えば、男児である点とそれまでのくすんだ色とは違い、綺麗な紅色の髪色をしていることだろう。


 それでも王は喜んだ。

 ようやく待望の男児が、世継ぎが生まれたと。

 そして、この喜びを真っ先に伝えたい相手がいた。


「離宮へ行くぞ! 王妃に世継ぎを見せるのだ!!」

 王はこの日、数年ぶりに王妃に会いに行く決意をした。



「門を開け!」

 王の呼びかけに応じ、ゆっくりと門が開いていく。

 しかし、その開き方に逸る気持ちを抱く王以外はギョッとした。

 門は内側からの開閉式であるが、内にも外にも動くように作られていた。

 もちろん、ここの正式な主は元王妃であるが、国の主である王が来たのならば歓迎するように内側に開くのが通常。だというのに、門はまるで王の来訪を拒絶するかのように王たちに対して押し出されて開いたのだ。


 門の一件から違和感はあったものの、王を先頭にして離宮を進んでいく。

 一行の中には側室やかつて王妃を離宮へ追いやった大臣たちも含まれている。

 彼らは一度も離宮勤めの者に会うことなく、王妃がいる部屋へと到着したのだった。


「王妃! 見てくれ! 世に跡継ぎが――」


 王が言葉を途中で止めたのは無理からぬことだった。

 元王妃は王が来たにも関わらず、椅子から立ち上がっておらず、またその周りには離宮勤めの者たちが完全武装で立ちはだかっていたのだ。

 王への敬意からかは不明だが、辛うじて王妃の姿が見える程度の防衛陣の中で王妃は悠然と微笑んでいた。

 ただ、その異様な光景以上に王の口を縫い付けたのは王妃の隣にいる少年だった。


 離宮には王の命令で一切の男性の出入りが禁止されている。

 今日、この時までいかなる役職、いかなる身分の者であってもこの離宮に足を踏み入れた男性は皆無なのである。

 だというのに、王妃の隣には少年がいる。

 それだけでも驚きだが、それ以上に驚いたのはその容姿だ。


 まるで王の生き写しのような美しい少年だった。

 それでいて王妃に見られる凛々しさもある。

 誰がどう見てもその子どもが王と王妃の子であることは明らかだった。


「お、王妃…? その子はいったい……?」

 王はそれが自分の子であると確信しつつも、問い掛けずにはいられなかった。

「この子ですか? 私の子ですが、何か?」

 質問に対する王妃の回答は極めて単純明快。質問にこそ答えているが、その言葉の端々にそれが何の関係があると詰問しているかのような口調だった。


「余の子か?」

「ええ。もちろん」

 続いての質問に対しても同様。

 ただ、この時は王の態度が変わっていた。


「素晴らしい!」

 王は抱いていた我が子を放り投げ、王妃に駆け寄った。


 放り投げられた赤子に対して周囲の者たちが慌ててキャッチしたが、赤子の泣き声が響くのは止められなかった。

 そんなことは一切知らんとばかりに王妃に駆け寄った王はというと、王妃の守りを固めていた女官たちによってその行く手を遮られていた。


「何をする!」

 これには堪らず憤慨する王。

 しかし、女官たちはまるで敵を見るかのような目つきで王を睨みつけるだけで理由を説明しようとはしない。


「……彼女たちは職務を全うしているだけですよ?」

 声をかけたのはその様子を見かねた王妃だった。


「なんだと? どういう意味だ?」

 しかし、王には意味がわからない。

 だから、王妃は優しく諭すように語りかけた。


「陛下。我が国の法をお忘れですか? 我が国では一度別れた男女は二度と一緒になることは出来ません。もしも、触れ合おうとすればそれは法を犯すことになります」

「何を言う! 我々は別れてなど――」

「それは世間の話でございましょう?」

 別れていないと告げようとする王の言葉をバッサリと切り捨て、王妃は現実を突きつける。


「私は離宮に入る前に神の前で離婚を成立させております。それは陛下もご存じのはずですよ?」

 言われてようやく王はハッとした。

 たしかに、大臣たちに表向きは王妃は療養という形で引っ込むが、実際には元気なので外交などに出ないのはバレたら事だと告げられていた。

 そのため、王妃が離宮へと入る前にたしかに神の前で離婚を成立させていた。

 つまり、王妃ではなくあくまでも元王妃という肩書が今の彼女なのだ。

 まあ、それを言ってしまうと王への態度が不遜すぎることになるが、それはまあご愛嬌というもの。


「だがっその子は私の……!」

「それも法で決められておりますよ? 我が国では離婚前に誕生した子供の親権は両親の話し合いで決められ、離婚後に誕生した子どもの親権は母親が持つと」

 なおも言い縋ろうとする王に往生際が悪いと一刀両断した。


 子供の親権については生まれた後ならばどちらもが面倒を見られるが、生まれていなかった子供、離婚してから一人で産んで育てた子供は母親以外は面倒を見る者がいない。

 そのような理由で離婚後に誕生した子どもに対して王は一切の権利を持っていないことになる。


 絶望で膝を着く王を女官たちがなおも元王妃から引き剥がそうとする中、元王妃は王が連れて来た集団へと目を向ける。集団からは気まずげな視線が向けられいるが、中に数人敵意を向けている者がいることに気付いていた。


「――陛下がお越しくださって助かりましたわ」

 まるで王に会えることを願っていたかのような言葉に、王は許されたと思い顔を上げる。

 王と王妃の視線が絡み合う――なんてことはなく、王妃の視線は集団に向けられている。いや、もはや集団ではなくある人物と睨み合っていた。


「陛下、こちらに来たご用向きをお忘れではありませんか?」

 集団の中から、声がかかる。

 その声の主は義理の祖父にあたり、放り投げられた赤子の曽祖父でもある大臣である。

 彼は睨みつけそうになるのをなんとか押さえ、代わりに憎悪の視線を元王妃に向け火花を散らしている。


「あ、ああ…」

 なんとかその言葉で気力を取り戻したのか、女官に尻を叩かれる形で追い立てられふらふらと赤子を取り上げようと側室のもとへ近付いていく。


「お待ちください」

 側室が一瞬、明け渡すのを嫌がる素振りを見せるも赤子が王の手へ渡る直前、王妃が凛とした声を上げた。


「…何の真似だ?」

 これに声を荒げたのは大臣だ。

 一刻も早くこの場を離れたいと考えている彼は元王妃の妨害を苛立ちを浮かべていた。

 なにも怒りを顕わにしたのは大臣だけではない。

 赤子を抱きかかえる側室は王に伸ばした手を引っ込め、赤子を胸に抱きよせ、他の重臣たちからも元王妃を非難する視線が飛び交う。ここで声を荒げなかったのは、元王妃の扱いをどうすべきかの結論が出ていなかったからに他ならない。


「王妃…? いったい、どうしたというのだ?」

 王だけは困惑の表情を浮かべて元王妃と赤子の間で視線を右往左往させている。

 ちなみに、未だに元王妃を「王妃」と呼ぶことで側室から睨まれていることには気付いていない。


「――女官長、例のモノを」

 元王妃を守るように固まっていた集団の中から、一際威圧感がある女性がスッと前に出て来る。

 その女性は王もよく知る人物である、宮廷女官のまとめ役だった。

「陛下、こちらをご覧ください」

 役職に相応しい態度で差し出されたのは数十枚に及ぶ紙の束だった。


「それはそちらにいる大臣の不正の証拠。ならびに側室の浮気の証拠です」

「「「なっ!?」」」

 元王妃から告げられた言葉に王や側室、集団からどよめきが上がる。


「貸せ!」

 真っ先に動いたのは件の大臣だったが、女官長が渡すはずもなく王妃を守るようにしていた女官たちの後ろに隠れてしまった。

 その行動を見て、彼らは感づいてしまう。

 もしかしたらではなく、間違いないと。


「大臣、下がらぬか!!」

「グッ…! へ、陛下…!?」

 なおもまだ追いかけようとしている大臣だったが、王からの叱咤により止まらざるを得なくなった。


「……ぬっ!! 大臣!! これは真かっ!!」

 パラパラと紙をめくる音が聞こえる間、大臣はまるで処刑宣告を待つかのような心中で青褪めていた。

「それに、側室…! これは本当か? その子も、他の子も……すべてが余ではない者の子だというのか!!」

「ひっ…!」

 王の気迫に当てられ、側室はへたり込む。赤子を離さなかったのは母の意地というよりは先程、力強く抱きしめていたことが原因だろう。


「すべての証拠もそちらに記載してあります。裏付けはここではないところで行ってくださいね?」

 言外に見苦しいものを見せるなと告げる元王妃の横では女官たちによって目と耳を塞がれた少年がいた。

「…ただ、一言だけ言わせていただきますが…」

 勿体ぶった言い方になったのは彼女にとって我慢ならないことがあったからだ。


「私に子が出来ぬように薬を盛っていたことに関しては直々に処罰を加えさせていただきますので……楽しみにしておいでなさい?」

 これがトドメとなり、大臣はがっくりと項垂れることしか出来なくなってしまいそのまま連行されていった。



「王妃! 王妃! 入れてくれ~」

 離宮の前で中に入れてくれと情けない声を上げる国王。この光景は最近になって連日みられている。

 離宮では元王妃が息子と仲良く暮らしているが、王が元王妃に会えるのは彼女が気紛れを起こした時だけ。それ以外の場合は彼女の味方である女官たちによって完全にシャットアウトされていて姿も見れない。

 こと女性同士の結束は男性の立ち入る隙がないものである。


「陛下~! いい加減に戻って下され! 国務が溜まっておりますゆえ!!」

 そんな王を追いかけては臣下たちが仕事を大量に持ってくる。

 彼らの顔色は一様に悪い。

 元王妃に子供が出来ないのは大臣が暗躍していたためだったが、そんなことを知らずに子が出来ない役立たずとして離宮へと追い立てたのは間違いない。

 ただでさえ最大の不祥事を元王妃の命を受けた女官たちが井戸端会議のごときネットワークを用いて解決したことで今やこの国で女性に逆らえる高官は誰一人として存在しない。


 彼らの胸中はここで騒いで元王妃の不興を買わないかということで占められていた。


 王が何度も抜け出して離宮にやってくることを危惧した臣下たちによって離宮の隣接する形で宮殿が移転されてる間ではそう時間を要することではなかった。


 さて大臣や側室はどうなったかというと、まあそれ相応の罰を受けた。

 大臣は地位や財産の剥奪はもちろんのこと、元王妃に毒を盛っていたので処刑は免れないところだが、元王妃がそんな生易しいことで許してはならないと過酷な鉱山での強制労働を一族全員に課し、それから解放された後にようやく処刑されたのだった。


 側室も同じように強制労働に加えられたわけだが、彼女は元王妃が離宮に移されてから表に出ていたこともあり労働は王宮内部でのものとなっていた。

 そこで女官たちから徹底的にしごかれ、二度と逆らう気力がなくなったという。

 側室の子どもたちは彼女が本当に愛した者の子であったのだが、身分が伴っていなかった。

 それでも諦められないと祖父に頼み込み、王の側室に慣れた暁にはこっそりと逢瀬を重ねさせてくれと頼みこんで実現していたようだ。

 結果的に側室は愛する人と一緒になることは出来た。だが、代償として彼との愛の結晶である子供たちは全員取り上げられ、娘は王宮で下働きを。まだ赤子である男児だけは女官が面倒を見ることとなるのだった。




「……妃殿下、いつごろ陛下をお許しになられるのですか?」

「あら? まるで許すのがわかっているみたいな言い方ね?」

「それはまあ、昔から見てますからね」

「ふふふっ」

 女官長が元王妃のことをわかっていますよ?と告げると彼女はおかしそうに笑って、離宮の扉。その向こうにいる王へと視線へを向ける。

 その横顔には怒りが見えるものの、どこか慈しむような感情が見て取れる。


「まあ、まだしばらくは放置かしらね」

「……左様ですか」

 放置宣言に、内心でお可哀想にと王への同情を滲ませつつ仕事へ戻っていく。

 言い出したら聞かないのはわかりきっているので取り合うのも面倒になったのだ。


「――だって、私に愛を誓ったのに数か月で別の人間を選ぶなんて駄目でしょう?」


 元王妃が意固地になっているのは、王が側室を選んだと報告を受けた時からだ。

 ちょうどその頃に妊娠がわかったが安定するまではと黙っていた時に舞い込んできた側室決定の報せ。これには王を信じていた元王妃の心に波紋を起こすどころか、嵐を吹き荒れさせた。

 爆発しなかったのは、子どもがいたこととまだなんの力もなかったから。

 今は抑えに抑えていた怒りが徐々に小さな火になっている最中。


「愛を誓ったのに、他所の女にうつつを抜かしたのだから自業自得よ」


 王が許されるのはまだ当分先になりそうだった。

 登場人物の名前を一切出さないことに若干の心苦しさを感じつつ、まあいいかとしか思わない作者の心情もどうしたものかと…。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 正直、こんなに女性本位な小説は酷いと思います。 [一言] 側室って言うのは、正室がいて初めて言えることで、側室に正室としての資格が足りない場合「正室がいない側室だけのハーレム」はありえ…
[一言] 世継ぎを産むのは王族の義務。それに側室に本気になった云々は大臣の口先だけの可能性すらあったのに(男児が生まれた直後に王妃に会いに行った事や、王妃と自分の息子がいると解った直後に側室との子を放…
[一言] 恋愛ジャンルとして読み通せるかどうかで、感想はかなり変わってしまいそうですね。 私は楽しめました。 王様へ一言、 簡単に誓っちゃダメ!
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