ブランエール[9]
グランディネの中央街を抜け交易港を尻目にレンガ造りの家屋が立ち並ぶ住宅街を通り過ぎ、やがて見えてくる四棟、三階建てのグランディネ=ブランエールの社員宿舎
五年前に建てられたばかりのまだ新築らしいその宿舎を見上げながらカリンは頬を綻ばせる、今までは両親と祖父、自分の四人暮らしで自分の部屋などない小さなアパートメントだったので、存外に楽しみにしていた。
「まだ空き室が多くてね。とりあえず一号棟に二号棟と三号棟は男性宿舎、四号棟が女性宿舎ってなっているよ。グランディネ=ブランエールには少なからず女性技師も所属しているし。まぁカリンさんに比べたら、おばちゃんばかりだけど」
「そうなんですか・・・」
「うん。整備班に三人、技術班に二人、だったかな」
「少なっ・・・いんですね・・・」
「島外からの出稼ぎに来てるんだよ、賃金はいいから」
四号棟の一階、AからDまであるうちAの共用玄関を抜けAの102号室へと誘導されて着いていく、部屋の間取りは1DKと手狭であるがシャワーとトイレは完備、簡易的ではあるがキッチンも配備されている。
ベッドやテーブルに椅子は何故か二脚、衣装ケースに備え付けの通信機器、空調もしっかりしているようだ。窓からは日が燦々と差し込まれていて日中は暖かくて過ごしやすいのだろう、夏場は・・・かなりキツいかも知れない。
「今日から此処がカリンさんの部屋だよ」
「ふわあ・・・!」
「月々の家賃だけど、これはもう前払いで一年分支払われてるからその間は気楽に暮らしてくれていいよ。留学という立場でグランディネに出向してきているけれど、グランディネ=ブランエールで見習い設計士として勤めている間は給金も出るから安心してくれていいよ」
「い、一年分!?」
「あー、うん。ランベルト技師名義でポン、とね」
やはりグランディネに来ても祖父の名前は嫌でも出回るのだと思うと先行きが不安になるカリン、確かに今日来てあと数日で家賃を支払えと言われてもお金は大して所持していないし荷物は書きかけの設計図五枚に二・三日分の着替えと羊皮紙に万年筆に着崩れた作業着だけ。
「それでも一年分は払いすぎだよ、おじいちゃん・・・」
「せめてもの手向けってことじゃないかな。確かに過保護が過ぎるけど、着の身着のまま家から追い出された俺に比べたら遥かにマシなお爺さんだと思うよ」
「えっ、と・・・あ、ありがとうございます・・・?」
「あぁ家は18歳、つまり成人したら独り立ちしろっていう親だからね。分かってはいたけど18歳になったその日の朝に家を追い出されてしまったよ」