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ブランエール[3]




 移り変わって商業貨物船アーバレスト号船倉二階


 造船所に運び込む予定の追加資材や建材に保存食の入った樽の傍ら、資材搬入表とにらめっこしながら数量確認を行うのはアーバレスト号船員のフィリップであった。


 歳は灰(11)の月29日に18歳になったばかりでトビーとは同期の新人である、乗り物酔いになることはないが高所の作業となると途端に臆病風に吹かれまともに働くことが出来ないせいか、先輩たちに船倉での仕事を押し付けられたのだった


 誰もやりたがらない仕事に親身に打ち込むフィリップは実に真面目気質で普段からサボり癖のついた先輩たちに不満を感じてはいるが、自分よりも体格が優れた相手に見下ろされた挙げ句に凄まれてしまえば彼は何も言えない人形になる。


 船倉は機関室の向かい側にあるせいか、甲板や操舵室や食堂に比べると湿度は高いし気温も熱を帯びている、長く同じ場所に留まっていればあっという間に乾物に成り果ててしまうだろう、だから誰も近寄りたがらない訳だ




 商業貨物船アーバレスト号船長、アドモスは苦悩していた、第2首都ベイリンにて乗せた少女の素性について、ベイリンエアドック社に属する正設計士、ランベルト・クレセインはアドモス船長の昔馴染みの堅物オヤジであり叔父であった


 孫娘である件の少女が第214天空都市グランディネが有する大型造船所、グランディネ=ブランエールに武者修行ならぬ留学へと送り出したということであるが、道中の足を他ならないアドモスをランベルト自らが指名してきたのである。


 留学の手続きなどは事前のやり取りで既にグランディネ総首長セルゲイ・オースティンに伝わっているが、顔見せは初のことでグランディネ=ブランエールまで自分が送り届ける務めとなっていることはつい先日聞かされたばかりでアドモスはそれについて激しく悩んでいた。


 総首長セルゲイ・オースティンはその手腕でグランディネ=ブランエールを一から築き上げてきた豪傑で飛行船革命の先駆者の一人として第1首都アークトゥルスでも有名な政治家として名を馳せている、更に付け加えると第1級造船技師としての裏の顔も持つ、そんな豪傑に何の縁もない自分が会わなきゃならんというのだから、苦悩くらいはするだろう。


「ルーオはいるか・・・」


「御呼びですか、アドモス船長!」


「重ね重ね済まない、胃薬を貰えぬか」


「“また”ですか?」


「胸焼けで吐きそうだ・・・」


「何だか船長この一ヶ月で一層老けましたね」


「儂もいい歳だからな・・・」


「や、歳っていうか。トビーみたいです」


「あいつはまだ・・・?」


「今は船室で寝てます」


 ルーオは食堂から胃薬の入った小箱を持ってくると適量の粉薬をスプーンで掬うと、グラスによく冷えた水を並々に注いでアドモスへと差し出す。


 オウルベアのような大柄な体格で伝記や古代の絵巻などに出てくる海賊のような口髭を生やしたアドモスからは到底想像し得ない小心者的な印象が窺える。


「仕事さっさと終わらせてまたいつもみたいに気楽な船旅に戻れると良いですね、船長」


「全くだな・・・」



※オウルベアはフクロウの頭部にヒグマの体格を持ち合わせるグランディネ特有の原生生物です。気性は大人しく滅多に人を襲うことはありません。

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