ブランエール[1]
聞こえますか、この声が
あなたに、届いていますか
・・・聞こえていたら返事をください、レイネ様・・・
数多の生命が乖離ざすこの世界の遥か上空、何処までも拡がる無数の雲、重力という束縛から解き放たれ超状かつ不明瞭な力で浮く瓦礫と大陸、まるでこれが正常であるかのように平々凡々と生きる人々
雲海を割くように飛び交う数隻の飛行商船が大陸に接岸し有りとあらゆる物資を運び、空の男たちは今日もまた大いなる風に身を委ねて生計を立てる
第214天空都市グランディネ
飛行船による貿易が盛んな交易都市の一つでドーナツ型の大陸で中央の穴部分には飛行船の巨大造船所会社がありグランディネの総首長本宅もその場に居を構えている。
飛行船一隻の製作期間は軽く見積もっても半年以上の時間を要する、基本は商船型アーバレスト号を一括受注で造ることが多く、日々の仕事に不満を漏らす技師や職人は多い。
本島、第2首都ベイリンにある造船所で造られている飛行船は最新鋭の高速船や個人運用タイプの飛空挺などが数多く影の薄い商業貨物船であるアーバレスト号が軒を連ねることはまずまず無いに等しい
精々世代交代という意味でのアーバレスト号改や長距離輸送船型ローラルが年に1・2件増産依頼が舞い込むくらいだ、図面や技術的にもそういった物は殆どが本島の技師たちにばかりに回り、世界の端に位置するグランディネに舞い込むことは等しく0に近い。
技術力が本島の造船所に劣るということはまず有り得ないのだが、このグランディネには正設計士が居らず本島からもたらされた設計図通りのものしか造る他ないというのが真実
星暦749年、黒(12)の月、17日
グランディネに荒々しくも新しき風が舞い込む
その年の日はいつになく真夏のような炎天下だった。
天空都市グランディネはいつになく賑わいを見せていた、本島ベイリンに属する正設計士の孫娘がこの都市に正式な手順を踏んで着任されたからである。
この異例の事態にグランディネの造船技師はこう語っている
「我が世の春が来た!」と。