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《メリス家の闘法士と記憶喪失の男》

 昼食を摂った後、林檎亭の裏手に有る少し広めの洗濯場兼裏庭は暇を持て余した冒険者達の鍛錬の場になることが有る。

 大抵は近場の公園まで足を伸ばしたりするのだが、依頼待ちだったり、人目を憚る立場だったりすると、格好の素振りの場だったり、立会稽古の場になったりするのだ。

 そして、アスパーンとリチャードもまた、時間が合えばたまに剣を交えるようになっていた。

 稽古と言っても、どうせお互いに自分の間合いを確認したり、動きが鈍っていないかを確認したりする程度の軽いものだ。

 とはいえ、最近になってリチャードは覚えたての『気術』を試していたりするので、アスパーンとしては決して気を抜けたものではないのだが。

 良く考えると、これもまた、周囲の人間が自分達を見る目が変わってきたことの一因なのかも知れない。

「せいぃっ!」

「おっと!」

 リチャードの大剣が空を切る。

 その膂力は明らかに増し、剣の速度が上がっていた。

 リチャードは『気術』で肉体を強化することを憶えて以降、以前よりも鋭い攻撃を、しかも連撃で放つことが出来るようになった。

 加えて、自分の攻撃の鋭さを確認するためだろう、積極的に仕掛けてくるようになった。

 一方でアスパーンはと言えば、盾を用いずに長柄の長剣を両手持ちにして、出来るだけそれを最小限の動きで躱す訓練をしている。

 本当は受ける訓練をしたいのだが、今のリチャードの膂力を剣で受け流し続けていては、いずれ実戦で使う前に剣がヘタってきてしまう。

 本来、剣は防御に使う際には刃の部分より『平』と呼ばれる側面の部分を使うものだが、普段通りにそれをしても『気術』によって『肉体強化』をしたリチャードの膂力で剣の芯が歪んでしまう恐れがあるのだ。

 前回姉からせしめた金が残っているとはいえ、自前の銀剣は実家から持ってきた僅かな自前のものだ。家を出て僅か一月で破損してしまうような事態は避けたい。

 リチャードの戦い方は、基本はアスパーンが教わった通りの防御中心のものだったが、現在は立合稽古ということも有って、明らかに手数と細かい技が増えていた。

 対するアスパーンは防御のバリエーションを増やす意味でもリチャードのように『気合』を使わず、『寸で見切る』方向に少しシフトしている。

 アスパーン自身、大剣の剣技は長柄の長剣バスタードソードの剣技ほど得意ではないので、特にリチャードの放つ技に口を挟むような真似はしていないが、リチャードが予備で使っている小剣の技術がそれなりに生きているのか、こちらがたまに出す攻撃を絡めとるように受け流してから攻撃を仕掛けてきたり、或いは出ると見せかけるためにフェイントを織り混ぜてきたりと、中々堂に入っている。

(何か、連日見物人が増えてきてるような……)

 周囲の観客がこちらのやり取りを目で追っている。

 お手並み拝見ということなのか、単純に見学なのか、暇つぶしなのか、それともその全部なのか、アスパーンには判断が付かないが、時折頷いている者などが居ることなど見ると、目的は各自で違うながらも、各々がそれぞれの視点で興味を持って見ているのは間違いなさそうだ。

(それにしても……)

 リチャードの歩幅を見極めながら、髪に触れるかどうかの距離を作るアスパーンに口笛が吹かれた。

 長柄の長剣を扱うために自前の大剣を実家に置いてきてしまったのは、或る意味失敗だったかも知れない。

 新しい種類の大剣の剣技を学ぶことで自分の実戦感覚を磨き直すのなら、やはり手に馴染んだ重さの大剣を用意する必要が有る。同じく手に馴染んでいるとはいえ、リーチにしてみればやや短く、重さにしてはやや物足りないとも言えるサイズの、長柄の長剣を両手持ちにした状態で、リチャードがする大剣と同じことを擬似的に体験するには、その半分ほどの成果しかないように思えた。

 単純にリチャードの武器をアスパーンが借りて練習するという方法が有るが、アスパーンより明らかに体格の大きいリチャードの得物を借りては、今度はリチャードの剣に振り回されることになってしまう。

 そもそも、リチャードの大剣は巨大で鞘から抜剣出来ないため、特注のカバーをしているほどのサイズなので、アスパーンには扱いきれないだろう。

 それはそれで、筋力トレーニングと強制的にリチャードのような防御法を身につける訓練にはなるだろうが、本来の意図とはかなり違う。

 一方で、『神を飲む蛇』との一件で姉から貰った金で大剣を購入するという手も有るが、『林檎亭』に間借りしている身としては、あまり私物を買い漁って、出掛けるときに置きっ放しにするわけにも行かない。

 時期をもう少し置く必要があるかも知れないが、そろそろティルトやブラフマンのようにアパートなどを借りることを考えてもいいのかも知れない。

(まぁ、これだけでも体捌きの勉強にはなるんだけどなぁ)

 アスパーンにとって、今のリチャードの攻撃を見切るのは、実はさほど難しくない。

 本人が当てようとしていないのも有るが、肉体を強化しただけでは、結局のところ速度と跳躍の歩幅を上げただけなので、踏み込みの幅さえ計算が出来ていれば腕や腰の回転量から生まれるリーチの限界値が見切れているからだ。

 『気術』による肉体強化は、筋力の強化、肉体の頑健さには繋がるが、筋力の柔軟さや可動域を直接的に広げるわけではない。

 正確には、肉体の頑健さを強化することで可動域を広げることは不可能ではないが、知識としてそのように動かす方法を知っていることと、それを身体が憶えていることが必要になるのだ。

 腕の長さや脚の長さから基本の長さが決まっているリーチを伸ばす、或いは誤魔化すには幾つか技術というか、手法が有るが、リチャード自身の攻撃からそういう意図が見受けられない以上、リチャードにはそういう技術がないか、或いは温存しているかのどちらかだろう。肉体強化の訓練中であるということは、その辺りの技術は肉体強化の限界値を見極めてから試みるつもりなのだろうとアスパーンは見ている。

 単純に、『リーチを伸ばす技術』と言いはしたが、具体的には、シルファーンが扱うような細剣の技術を学んでいれば、その辺りは充分以上に応用が利く。だが、アスパーンの見たところ、リチャードは武芸百般というよりは両手持ちの武器に特化した技術の持ち主特有の思考が見え隠れする。

 その内細剣の扱いもレクチャーしてみると、大剣の動きにフィードバック出来る部分が有るかも知れない。

 尤も、筋骨隆々のリチャードが身体の柔軟さを利用する細剣の技術を何処まで自分のものに出来るのには多少の疑問が有るし、本人に提案したときに断られる可能性も有るが。

(俺みたいなタイプだと、色んな技術が他のことに応用出来るんだけどなぁ)

 アスパーンは次々と繰り出される攻撃を軽くいなしながら、リーチを誤魔化す方法について考える。

 例えば先程の細剣の例をとれば、究極的な話をすれば関節を軽く『緩める』ことでリーチを伸ばすような極端な技術も存在する。だが、それを実践するには、肩周りの筋肉があまり頑丈についていると、骨の周囲まで筋肉が密集している為、却って筋肉や肩の腱を傷つけてしまうことが多い。

 つまり、この辺りは、リチャードにはフィードバック出来ない技術だろう。

 アスパーンのように引き出しの数で勝負するタイプならば筋肉の付け方、身体の使い方からして偏らないように調節しているので応用の引き出しも増えて行くが、リチャードのように両手持ちの武器に特化したタイプにとっては知識以外の何者にもならない。

 勿論、知識が有ることが無駄になることは決してないが、その間に何かもっと優先したい課題が有るのなら、そちらを優先するのは当然の選択だ。

 リチャードのようなタイプなら、例えば、『徹し』の技量向上とか。

 『徹し』はメリス家の闘法士の間では、両手持ちの武器に特化したタイプが良く使う技術の一つで、打撃力を相手の体に反響させて内部に残したり、或る一点に重点的な打撃を与えるための技法だ。

 メリス家では、技量的に『或る段階』に達すると、どんな武器でも『徹し』を含め、数種類の攻撃が出来るように教育されるが、特に『徹し』に関しては本来、打撃力を重視する武器用の技術で、物体を破壊することに関しての威力は覚えてしまいさえすればかなりのものになる。

 達人になると、『徹し』の技術だけで、剣で板金鎧を破壊出来る程だ。

 しかし、これまでのところ、リチャードがこのような技術を使ったような場面は見たことがない。

(……いや、アレは『徹し』だったよな?)

 敵として出会った当時、リチャードがシルファーンの使った精霊魔術を大剣の剣圧一発で叩き潰してみせたことが有る。

 アレはメリス家では『当て』の中でも『徹し』と呼ばれるものだったと思う。

 但し、見たのはそれ一度きりで、それも偶然なのか意図的に放ったものなのか、今ひとつ確信がない。

 『当て』の技術はアスパーンの感覚だと、衝撃の向かう方向をコントロールする技術という説明が近いが、これもまた例によって『何となく出来た』ものなので、正確なところはシルファーンが説明した方が正しいのかも知れないし、リチャードの感覚もアスパーンのそれに近い可能性は充分にある。

 理論を叩き込まれるより、身体で覚える物だとも思うが、知識は知っていて邪魔になる場合と、そうでない場合が有るとも思うし、そういう種類の攻撃が存在すること自体は知っていて損になるものではない。

(……と、いうか)

 そもそも、リチャードは何処かの流派に属しているのだろうか。

 ザイアグロスに来る様な連中は自己流も含めて何らかの流派に属しているものが多かったが、農夫が誰に習うでも無く農具を扱うように、剣もまた、取り敢えず生活の糧になればいいようなご時世だ。

 このジークバリア島に限らず、大陸でも、戦の種は尽きないと聞いている。

 マレヌとともに大陸から渡ってきたというリチャードも、或いは何処の流派に属することも無く、自己流や何処かの国家で、軍隊方式の教育で武技を修めた可能性も有るだろう。

 特に、国家単位の軍隊方式だと、武器について習熟することは有っても、その武術としての奥部に至る部分についてはあまり教えられないことが多いと聞いている。

 習熟に時間がかかるので育成にかなり手間がかかるし、それよりは生還を基本とする為の集団戦の知識や『軍学』と呼ばれる用兵術を学ぶ方が軍隊全体の役に立つからだ。

(速くて強くて上手いから、まぁ、良いんだけど……)

 次の一撃を見切りながら、アスパーンは試しに自分から誘うような動きをしてみた。

 リチャードはピクリと反応したが、それ以上は何もしない。

 何もしないことを解っているのか、それとも誘われたことに気付いていないのか。

「……ちょっと、いい?」

 アスパーンは、思い切って訊いてみることにした。

「ん、どうした?」

 リチャードが、アスパーンの声に答えて剣を操る手を止める。

「リチャードはさ、何処で剣を覚えたの? 実戦オンリー?」

「? ……どういう意味だ?」

 逆に訊き返されて、アスパーンは返答に困った。

 隠しておきたいのなら無理に暴く必要もないが、何だか今のまま続けられるのはなんとも勿体無い気がする。

 アスパーンは『教えグセ』なんてモノは持ち合わせていないつもりだったが、折角『気術』の基礎も身につけたわけだし、出来るのならば出来ることは手助けしたいというか、応用範囲は広げておいてやりたい気がする。

 というか、もし知らないのだとしたら、これほどの素材が非常に勿体無い気がするのだ。

「身体慣らしもいいんだけど、そろそろもう少し色々試してみるのもいいんじゃないかと思って」

「色々?」

「他の流派だと何ていうんだろう……」

 アスパーンは手近な所にあった薪を数本手に取ると、リチャードに手渡し、自分も一本、手に握る。

「ちょっと持っててくれる?」

「?」

 リチャードが困惑した表情のまま、アスパーンが数歩離れるのを待って身構える。

「そのままね。ちょっと打ち込むから」

「ああ」

 アスパーンはリチャードが持った薪に、『徹し』で一撃を打ち込む。

 『徹し』で打ち込まれた薪が、潰れた音を立てて粉々に砕け散る。

「!?」

「次、二本持ってくれる?」

「あ、おう」

 リチャードは左手にしていた大剣を一端下ろすと、薪二本を両手で手にし、構える。

 アスパーンはその薪に、『貫』で一撃を打ち込む。

 『貫』で打ち込まれた薪の奥の片方だけが、アスパーンの打ち込みで折れた。

「うおっ!?」

「次、折れたの捨ててそのままね」

「おう」

 リチャードは言われるまま、折れた薪を捨てて一本をそのまま持つ。

 アスパーンはその薪に、『居抜き』を掛けた一撃を打ち込んだ。

 今度は何も起こらなかった。

「……?」

 リチャードが違和感を覚えたのか怪訝そうな顔をする。

 それはそうだろう。

 手に痺れを感じたくらいの筈だ。

「そいつで近くの石を小突いてみ?」

「…………」

 怪訝そうな顔のままリチャードが足元の小石を突付くと、薪は突然腐ってしまったかのようにリチャードの手を離れてボロボロと崩れ落ちる。

「……っ!? 何これっ!? 気色悪っ!?」

「こういうの、何処かで習ったことない?」

「ねぇよ! というか、怖いよ、お前!」

 リチャードは明らかに驚いた様子で、目を丸くしていた。

 周辺のギャラリーも、その殆どが明らかに驚いた様子で、逆にアスパーンの方が目を丸くする羽目になった。

(……俺がおかしいの?)

 何処かで剣を習えば必ず通る道だと思っていたのだが、冒険者というのは存外そういう流派や門派に類しないものらしい。

 とはいえ、全員がそういう表情を浮かべているわけでもないところを見ると、全員がまるで知らないということでもないらしい。

「アスパーン、ここじゃそういうの、一般的じゃないぞ」

 ギャラリーの一人、先日街の案内をしてもらった古株の一人が声を掛けてきた。

 確か……『戦争帰り』のパーティに居る人だったと思う。

 名前は、そう、ジェイクと言ったか。

「戦争帰りでも軍人でも、相手は人間じゃなくて魔族や妖魔だ。自前の身体が人間より固いからか、知能的な問題なのか、あまり鎧を着る習慣がないんだ」

 ジェイクが続ける。

 アスパーンは一端ジェイクの方へ向き直って歩み寄る。

「そういうのを相手に、『当て』の技術を覚えても時間の無駄ってこと? ていうか、ホントにそうならウチらだってこんなの使わないよ」

 リチャードの足元の薪には、興味を持ったギャラリーがゾロゾロと集まって来ていた。

 アスパーンはジェイクとその様子を眺めながら、溜息をつく。

 つまり、リチャードも含めて彼らはそういう技術が存在することを知らなかったわけだ。

「……まぁ、そういうことだな。お前のところではそう呼ぶのか。」

「うん、最初のが『徹し』、次のは『貫』、最後のが『居抜き』だね。今やったのは衝撃の伝わり方をコントロールする技法の一部だけだけど。ウチではこの分野のことを『当て』って呼んでる。用途によっては何が相手でも使える技術なんだけどなー」

 実際に、鎧こそ着ていなくとも骨格そのものが外骨格だったり、厚い筋肉に覆われていたりする魔物は山と存在する。

 先程アスパーンがやってみせたような技法は、そういう相手に対峙するために開発されたものだ。

 勿論、戦争において『数が力』だという根本的事実には変わりが無い。

 メリス家の戦術も、人海戦術で対抗することが優先だが、状況がそれを許す場合と許さない場合が有る。その時のための技術であり、切り札でもあった。

 生還率を上げるこれらの技術が、次戦での戦力の増加を促し、更なる戦力を生み出す。

「そりゃそうだ。だが、習得にも時間がかかるし、残念ながら先の戦争ではそれを許すだけの育成時間の余裕が、人間の側には無かった。実戦を積んで自分で気付いてやり始める奴も居るが、大半はそれに至らず死ぬか、戦争が先に終わった」

 ジェイクは腰に両手を当てると、昔を懐かしむように溜息をつく。

「アンタは? アンタもこういうの知らないクチ?」

「俺は実家の方に古流の道場があって、そこで育ったからな。基礎だけ学んで、幾らかは使える。……『メリス家の闘法士』に敵うとまで自惚れてはいないが」

「俺のことはともかく、ああいう人たちはそういうの関係ないからなあ。アンタ確か、ジークと知り合いなんだよな? あの凶悪なの、見たことあるんでしょ?」

 『凶悪な次兄』と言うと聞こえが悪いが、『破壊の王』という二つ名で呼ばれる次兄は魔導魔術を固定して両腕から電撃の剣を生やすような化物だ。

 アスパーンのように『当て』や『揺らぎ』、蛇歩などの『歩法』、所謂『メリス家の闘法』に頼る必要は殆どないと言っても良い。

「『破幻の両腕』のことか。アレは反則だよな」

「ああいうのばかりだと、中途半端な出来損ないの末っ子は苦労するばかりだよ……」

 剣や武器の技量だけ競えば、アスパーンは他の兄弟に負ける気になったことは殆どないが、ああいう反則まで入り始めるとアスパーンは他の兄弟に勝てる気になったことがない。

 ああいう反則技を使える人間が兄弟の中には数人いる。

 或いは、旅に出て実家に帰ってきたらいつの間にか身につけていたような人間も居るが、『そりゃないだろ正直』と思うような技の使い手が何人も居ると、兄弟喧嘩などはする気にもならなくなる。

 というか、これで本気の兄弟喧嘩になれば、それは殺し合いとほぼイコールだろう。

 まぁ、長姉と長兄を中心に、兄弟が全体的に末っ子のアスパーンに対しては甘いのが幸いしている、本当に。

「他人事みたいに言うなよ。さっきみたいなのを見せられれば、俺たちから見ればお前も充分に『ああいう人たち』の一人だよ」

 ジェイクが呆れたように肩を竦める。

「えーっ!? 全然違うよ! 努力っていうベクトルは一緒でも、『開発』とかいう世界なんだよ、あの人達!」

 ジェイクは呆れているが、アスパーンの方は同じ枠で括られるのには不満があった。

 長兄曰く、『自分に合った戦い方に特化し、効率の良い術を身につけるのは当たり前』で、長兄が双鞭を良く使うのも、次兄が魔術を固定化した剣を使うのも、先日帰ってきた四兄がいつの間にか『遺品使い』になっていたのも当たり前らしい。

 元来複数の魔術を扱う教育を受ける姉たちが各々得意の魔術を磨いて帰ってくるのは話として分かるのだが、兄たちは何故に魔術と剣術を融合したような変な技を開発して帰ってくるのか、実家を出てまだ日の浅いアスパーンには理解不可能だった。

 加えて、兄たちの開発してくる技の一つ一つがまた、エゲツないのだ。

 薪を破壊する程度の自分との差を実感する。

 アスパーンはリチャードが破壊された薪の周囲に集まる人間を見て、溜息をついた。

「取り敢えず、リチャードが次に何をするべきなのかは見えたな」

「うん……。ちょっと腑に落ちないんだけどね」

 本人が知らないと言うのなら、今後のためにも『当て』の技術は覚えておくべきだろう。

 一方で、アスパーンは、初めてリチャードと対峙した時の回避技術を考えても、彼が何の流派にも染まっていないことは考えられない様な気がしていた。

 反射神経や人の意識の裏を付くのも、剣術という物の立派な特徴だからだ。

 本来、相手の視界を遮って内懐から放たれる九式・突(柄打ち・突き上げ)の様な攻撃は、何かしていることに気付いていなければ避けられる筈がない。

 アレは一体なんだったのだ。

(……それに)

 先程も少し考えたが、初めて対峙した時、リチャードはシルファーンが操っていた大地の精霊を、力任せに叩き伏せていたではないか。

 アレは間違いなく、只の膂力による仕業ではなく、『当て』の技法によるものだ。

 偶然にその角度と打ち方になることも稀に有りはするのだが、もしかして、リチャードは自分でも知らないうちにこの技法に辿り着いているのではないだろうか。

「なぁ、リチャード。アンタ前に、シルファーンが使った大地の精霊を剣で叩き潰してたよな? アレはどうやってやったんだ?」

「ん? 咄嗟に、何となく」

 リチャードは首を斜めに傾けると、思い出しながらも釈然としないような表情を浮かべる。

 アスパーンが見る限り、リチャードのその表情は意図して隠蔽を図っていたり、韜晦とうかいしているといった感じではない。

 単純に『いつのことだったっけ?』という表情だ。

「……アレが多分、『徹し』なんだが。……どうやってやったのか憶えてないの?」

 うねり、盛り上がる地面の外部を破壊して無理矢理平坦なものに戻す。

 強烈な剣圧の拡散や、特徴的な身体の使い方を考えても、『徹し』の技法だ。

「うーん、それがなぁ……」

 リチャードは困ったように首を傾げる。

「お前と一回やったときにも、『反射的に何となく』ってのが有ったんだが、俺、たまにそういうの有るんだよな。もしかしたら、身体が覚えてるのかも知れん」

 リチャードは足元に下ろしていた剣を手に取ると、拾い上げて剣の腹をなぞる。

 何か言いたげだったので、アスパーンは黙ることにした。

 リチャードは言っていいものか、悩むように頭を掻いて、やや有って結論が出たらしく、口を開いた。

「まぁ、今更だから教えておくか。実は、二ヶ月以上前の記憶がないんだわ、俺」


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