《目覚める》
空気が抜けるような音がすると、カプセルの蓋が開いた。
カプセルの中にはネコミミの半獣人が、未だ眠っている。
「イルミナ……起きれるか?」
カプセルの管理をしていたルイゾンが、心配そうにイルミナの顔を覗き込む。
その寝顔は、今までのいつにも増して健康そうだった。
「ん……にゃぁ……。終わったの??」
「あぁ、終わった。無事に終了だ。これでお前は、もう病気に怯えること無く生きることが出来る」
「……あぁ、ウチ……身体がすごく軽い気がするよ、ルイ」
「あぁ……。良かったな」
ルイゾンがイルミナの手を取ると、イルミナもゆっくりその手を握り返す。
「ねぇ、ルイ。……リッチー達。皆は?」
「終わったよ、全部」
イルミナの問いに答えたのは、ルイゾンではない。
リチャードである。
「……終わった?」
「あぁ、終わった」
イルミナのオウム返しに、リチャードが頷く。
「報告させてもらう。『ワークアウトフロア』の地下四階に、ここと同種でもっとバカでかい施設があった。単独起動する型の『ライフワーカー』が三基と、持ち運び不可能なものも含めれば二十基以上が見つかった。後は、必要な薬剤を聞いておいた『アンプル』とやらについてだが、そちらも充分過ぎるほど調合出来る施設だった。アンプルを摂取した上で、こっちで治療するも良し、お前の集落で治療するも良し。どうやって治療するのも、これでもう思いのままだ」
「あぁ……ありがとう」
まだ眠そうなイルミナの瞳の端から、涙が滑り落ちる。
「……リッチー達は、皆無事だった?」
「血が足りなくて死にそうなのに無茶をして、身内にボコられた奴が一人いるけどな。その馬鹿以外は全員五体満足だ」
イルミナが険しい顔で問いかけ、リチャードが肩を竦める。
「……悪かったな、バカで」
アスパーンは思わずムッとしながら答える。
正直不服ではあったが、確かに、あの後のシルファーンの怒りようといったら、筆舌に尽くし難いものが有った。
挙句、そこにティルトとラミスまで加わったもので、色々と後始末をしている間、アスパーンのその後の役目はずっと『ヴェルフルタワー四十階』での見張り番である。
逆に言えば、『静養命令』という奴だ。
シルファーンの場合、本気で怒りすぎると言うだけ言って手も出した後、口を利かなくなるので始末に負えない。
ラミスの取り成しで何度も頭を下げた後、冷ややかに言われたのが『イルミナの見張りを命じます』という絶対的長姉顔負けの一言だった。
尚、他のメンバーは一端ルイゾンに休息がてら『ライフワーカー』の現物を『無尽の宝物庫』に収納させた後、アンプルの作成に勤しんでいる。
「アーちん、怪我したの?」
イルミナが心配そうに訊ねてくる。
アスパーンは軽く手を振って、元気であることをアピールしてみせた。
「あくまで『した』だけだよ。もう治ったし、今は血が足りないだけ」
アスパーンはイルミナの声に、苦笑する。
『生命が惜しいからあっさり帰ってくるかも』などと言っておいて、結局一番無茶をしたのは自分だったのだから苦笑も隠しようがない。
しかし本当に、イルミナにそこまで心配されるほどのことではない。
翼竜との闘いで無茶をしたのは確かに問題があったかも知れないが、アレ以上の方法はアスパーンには思いつかなかったし、行動範囲を限定された上に、相手に弾切れが有るなどとは思いもしなかった『遺跡守り』との闘いで、傷を負わずに時間稼ぎをするのには無理があったのだから。
「そう、良かった……大丈夫なんだね」
「鎧の修理代は翼竜の死体バラした奴とか『遺跡守り』のパーツ代から充分捻出出来るみたいだし、問題ないよ」
差し当たって、アスパーンの問題はこの貧血気味の状況だけだ。
「良かった……。ホントに、良かったよぅ……」
イルミナのすすり泣く声だけが、暫く部屋に響いていた。
『憑き物が落ちて行く』。
そんな印象を抱かせる、すすり泣きだった。




