《侵入》
白いドーム状の建物には、一見どこにも隙間が存在しないように見えた。
「ねぇ、ホントに此処に、何処かから入れるような場所があるの?」
シルファーンは思わず訊ねずにはいられなかった。
『透明化』の魔術は基本的に発声や駆け足など、派手な行動を取ってしまうと解けてしまう。従って、今現在は既に全員の『透明化』は解けていた。
幸いにして、アスパーンが引き受けた『遺跡守り』以外には今のところ何にも遭遇していない。
「この場所にあるかは分からんが、入る方法がなければこの場所を隔離し、『遺跡守り』を配置する意味も無かろうて」
ブラフマンがシルファーンに答える。
「……こっちには入口が無いかもしれないってこと?」
「いいえ。『入口がなくても入れる場所は必ずある』ということですね」
シルファーンの言葉に、マレヌが小走りのまま眼鏡をツイと吊り上げる。
「あぁ。それに、此処に施設があるってことは、必ずなければならないものも一つ有るだろ?」
ティルトの言葉に、シルファーンは首を傾げる。
「必ずなければならないもの?」
「非常口だよぉ」
「あぁ、なるほど」
ラミスの言葉を聞いて、ようやく納得した。
例えば先程までいた建物『ヴェルフルタワー』。
アレほどの高層建築にも関わらず階段が設置されていたということは、昇降機が動かなくなった際にも脱出するための手段が確保されていると言うことだ。
それは当然、この建物に関しても言える筈である。
「それに……」
ティルトが言いながら、立ち止まる。
「…………『最悪、無ければ作ればいい』って言おうと思ってたんだが、有ったな」
ティルトの目が、『言われてみればそうかも知れない』という程度の、シルファーンでも見逃してしまうほど僅かにしか存在しない壁面の継ぎ目を発見していた。
「ティルト、足元じゃ」
ブラフマンが戦斧槍の石突で、足元を示すと、ティルトの足元には昨日も見かけたような、地下収納用の扉のようなものがある。
こちらも、うっかりしていると見逃してしまうほど小さな鉄製のプレートに、小さな鍵穴のようなものが付いていた。
「手順はいっしょだが、大分簡略化されてるな」
ティルトは足元の鍵を弄ってあっさりと開けると、蓋を開く。
非常口は『非常時に開いてこそ』意味がある。
つまり、場所さえ分かれば誰でも開けられなければ意味がない。
例えば、ヴェルフルタワーで使われていた電気を利用した仕掛けは、停電時に開けなくなってしまうので意味が無い。
この扉は、『鍵』というよりは、小さな穴に物を突っ込んで引っ掛ければ開く仕組みになっているらしい。
蓋の中には、古代文字で『非常用』と書かれたマークとともに取っ手が付いていた。
「ビンゴ」
ティルトが取っ手を引っ張ると、ボールから空気を抜いた時のような音と共にドームの継ぎ目が僅かに手前に押し出され、横にスライドして開く。
「扉はこのままにして行く。シルファーン、マークを忘れるなよ。後からアスパーンが来る」
リチャードの確信に満ちた口調は、メンバーを心苦しさと不安から、僅かに解放する効果があるようだった。
『遺跡守り』をやり過ごしたら右手に進むということは、昨日の打ち合わせの段階で決められていたことだ。アスパーンが『遺跡守り』を引き付けてメンバーを追いかけてくる場合、間違いなくこのルートは守られる。そのためにも、此処からはシルファーンがマーカーを務めて、アスパーンを誘導してやらなければならない。
「了解」
シルファーンはチョークを手に、先ずはリチャードの入った方向に向けて印をつけた。
(あの子、ちゃんと来れるかしら……)
シルファーンは、アスパーンの無事こそ確信していたが、迷う方の心配だけはせずにはいられなかった。




