訓戒
「あなたは次の瞬間、笑っていられるか」
街の至る所に張られた警醒文が、今日も今日とて風にたなびいている。
街を行く車はすべて自動運転であり、物を乗せ今日もピカピカに磨かれた車体で街を行く。
一面ガラスが貼られたこの街一番のビルには、米付虫のような黒く小さい掃除ロボットがせかせか動いていた。
その室内を覗くと、犬型と猫型のアニマロイドが追いかけっこをしていた。
クローム社製の第三世代アニマロイドは、本物より本物らしいと専らの評判であり、肉球が銀色の事を除けば確かに動物のようであった。
そして、その二頭が立てた埃を探知し掃除婦が動き出す。
掃除婦という大層な名前は付いているが人ではなく、元は長細い筒型の産業機械であったものを少し筐体を縮め空気清浄総機能を添加したものである。
暫くソファーの置かれた応接間をぐるぐると回った後、定位置である部屋の隅に戻っていった。
暫し間が空き、壁掛け時計から仕掛けが飛び出す。
丁度正午を知らせる青い小鳥の人形は、少しだけ錆びているのが見て取れた。
更にやや間を置き、壁に埋め込まれたテレスクリーンが起動した。
お気に入りに登録されていたチャンネルが開き、砂嵐が画面いっぱいに広がっている。
備え付けのカウンターバーでは、合成パンを焼くトースターの音が響いている。
ここにも人の姿はなく、機械達が時間通りに昼食を作っているだけである。
微かな甘みを含み含んだ蒸気のトーストと、バター炒めの根野菜の添えられたプレートがコンベアを通して隣の部屋の机の上に置かれた。
そして、椅子に座るスーツ姿の人、いや人であった髑髏に向かって食事を切り分け歯の間に放り込んでいく。
その光景を見透かすように、テレスクリーンはCMを映し出す。
男の野太い、しかし良く通る声で。
至る所に張られたあの言葉を。
「あなたは次の瞬間、笑っていられるか」と。