アイスクリームセカンド『死んだ記憶と伝承者』
「俺は、大工。朝っぱらからトントンしているのさ、ははは!・・・うっ」
あるお盛んな秋の土曜日、仕事熱心な大工は、容易く閃いた。
次の日、時間は、早朝。
第4回秋祭りの会場の中心部、通称、おもしろステージと呼ばれる予定の場所に大工は潜伏していた。
この場所はカラオケ大会やお楽しみ抽選会が行われる予定である。
「閃きさん、俺は、大工です。返事をしてください。」
この憩いの場に何故か大工の閃きがあった。
もちろんここに大工以外、誰もいない、ガラガラである・・・だが。
「うっ・・・何か、聞こえる・・・」
クスクスと声が聞こえ始める。これは少年の声だ。
「クスクス、ねえおじさん、ここは、僕個人の『金』だよ?」
その笑い方に悪の胎動感じた大工は、防御の構えを取る。
「よう坊主、ちょっと世間話、聞いてくれや。最近なんか肺の調子が悪くてな。
咳が止まらんのよ。仕事場でも気持ち悪い言われて、しかたなく
重い腰を上げて近所の病院に歩いて行こうと思ったんだよ。
そしたら、なんか意外と歩くのがしんどくて、別に太ってないのに、何でかなと思った訳だが、
結局気づいた時には、病院に着いっとったんよ、案外楽勝だったなと思ったわ。」
その一瞬で大工は、虚空へと姿を消した。
この大工は、そう見える、仕向ける、願望機を盗みとったのだ。
「クスクス、本当に理性型は、浸透性がないね。その詠唱は、流石にダサいよ。」
その願望機、名前を『金』という。第4回秋祭りで使われるはずだった伝説のお神輿である。
さてこの『金』とは一体何か。
「本当に歯が痛いからって、歯を抜くのかい?僕には、とても出来ないよ、そんなこと、クスクス」
色?・・・それに見た目もない。『金』なんてものは、この世に存在しないものなのだ。
じゃあ、なにが起きたというのだろう。
「ヒントなんて、世界にはないんだよ、クスクス」
もうこの物語を垣間見たのだから、その頭で考えてみるといい。
わからないのは足らないものがあるから、それが何かなど、もはや明白である。
「クスクス、僕の名前は、キット・スターター。所詮、君達のようなただの人だよ。でも」
時間とは、有限である。
「例えば上見てごらん。知らないなら教えるけど僕らが見ているのはそんなことじゃないんだよ。
わかるでしょ?流石にこの会話の意味くらい、こんなのどこまでもついてまわるよ。」
これは『いつか』、だろう。今日も明日もない。
しかし明日は、きっと古臭い体操服を着た、ヴァルキリーが血を流し倒れていることだろう。
何故なら
「時間とは有限だからね。
あ、別に意味がわからないことが言いたい訳じゃないよ。」
これは、戦いを示すカギじゃない。翻弄してもいない。
「クスクス、僕は、ただ『君』を馬鹿にしているだけなんだよ。
物語なんて、ヒントと同じさ。世界じゃないものだからね。」
無いものは、欲しいもの、その間にある、センスが大きくなかったのだろうか。
もう『時』なんてものは、そこには居なかった。
だが
「見据え!イキイキ!」
どっかの謎の港では黒髪、黒目のヒューマンがイキイキしている。
「ドッペルゲンガー!!!」
どっかの謎の城では金髪、赤目のヒューマンが腹筋をしていた。
「そうじゃな・・・そうじゃったな・・・・」
だがしかしこの場所にあるのは体操服のみ。もちろん当たり前のようにゼッケンが付いている。
『ひすとりか』と書いてあるようだった。
「クスクス、動き出すのは、もう時じゃないんだよ。世界が止まり物語が動き始めるのさ」
溢れている悪意が、ヴァルキリーを帝国港学院、夏の大運動会へと導いていく。
「そうじゃ・・・この世界の運動会は、わしにまかせるのじゃ!」
軽快に疾走するヴァルキリー。
この長い道を真っ直ぐ見据えている。
「あれ?本当にいいね、魔法って、クスクス」
人間と思えないすさまじい速度で移動している。
そのせいか分身殺法のようにブレて二人いるようにみえる。
「クスクス、何とは言わないけど一体どこまで続くんだろうね」
「・・・正直、知覚型をあまり舐めないでほしいのじゃが?」
「あらら、魔法使いじゃなくて知覚型だったのかな、クスクス。」
彼女は、ヒストリカ。世界最強の知覚型である。
ーーーーーーーー
「・・・なあ俺は、さっき10km先の小屋で宇宙人を見たんだ。そいつは、なんか林檎の木を見ててさ、
困ってそうだから俺が楽勝で挨拶したんだよ。そしたら、帰ってきた言葉が何言ってるかわからなくてさ。
逆上して本を投げつけたんだよ、
・・・ってうっそー、なんてね、その本って実は、優しい俺の贈り物なんだ。
農業のしくみの本なんだけど、あ、火星人って本を投げつけると喜ぶらしいんだよ。
俺ってほんといいやつだな、あの林檎の木も順調に育ってるみたいだし、もはや自分の孫のようにかんじるわー。」
今日は、いつなのか、そんなことは、誰もわかりやしないのだ。
ーーーーーーーー
キーンコーンカーンコーン。
ここは、帝国港学院、最終生徒教室前の廊下。黒目、黒髪の10歳で高身長、しかもイケメンの少年が何かを呟いている。
「俺は、歩くよ。」
だがその男は、一切歩いていなかった。この男の名前は、不動のパルス。
そこにずっと立っている。見ているのは、教室。
「パルス・・・先生は、悲しいぞ、お前は、一体何がしたいんだ?」
不動のパルスは、動かない。見据えているのは天啓。
ずっと、どこまでも動かない、彼が気づくその時まで。
ーーーーーーーー
ここは、帝国港学院、裏山の小屋。給水所である。
今日、パルスは、ここに勉強をやりにきていた。
宿題は、落語。
テーマ『インスタニィな時間旅行の方法述べよ』という暴力的な内容だった。
「この石塊でいいかな。」
まず、パルスは、人物Aと設定した空間と交渉を始める。
つまり妄言をほざきはじめる。
内容は、折り紙の彫刻のPRだ。
「俺は、彫刻家だ。」
この男は、少年だった。この少年は、老人だった。
そんな過去、現在、未来、もあった。
例えば時間は、有限である。
「俺の家は、裕福だ。とてもお金がある。」
パルスは、金があると物が買えると知っている。
例えば欲しいものは、時間だった。
「本当に簡単だった。10秒で完成した。」
もちろんこの折り紙の彫刻は、消費物だ。
「・・・折り紙の彫刻で遊ぶということは、人間であるということだ。」
人間は、すぐ自分の中で解決しようとするのだ。
だからこそ、時間を掴むことが出来ない。
生物は、一生遊んで、そのうち死ぬのだ。
「さて、製品テストだ。」
パルスは、石塊を放り投げる。
だが、石塊は、あまり浮かなかった。
「失敗か?面倒だが・・・しょうがない。
状況が許すなら、俺の話を聞いてくれないか?簡単な話だ。
そこの天窓でダイナミックなつけものをつくろうと思う。
だが、俺は、10歳のガキだ。
非力で屋根に上ることは出来ない。そこで、俺は、考えた。
頭上に石を運ぶにはそこの段差を使えばいいのだ。
俺は、天窓にこだわっていたが、正直、天ならどこでもよし、
それは、それでダイナミックつけものなのだ。」
虚空に響く声。当然何も起きない。
そのまま電話を鳴らし、誰かと話し始めるパルス。
「ヒストリカ、ちょっと裏山まで来てくれないか?
ちょっと、気づいたことがあるんだ。」
「なんじゃ?もうその手にはのらんぞ!!!」
「ん?今からつけものを作るから手伝って欲しいんだけど?」
「?、どうせ、また殺す気じゃろ?お前は、イカれているからの。」
「だから、つけものを作るんだって。なんで君を殺さないといけない?
ちょっと、家の上の方でつけものを作りたいだけなんだよ。」
「いや、嘘をつくな、そんなことをワシが信じると思っているのか?」
「これっぽっちも思ってないよ。ただ、確認しただけだよ。」
「何を確認し」
パルスは、確認を終えるとすぐに電話を切った。
「あ、玉ねぎが2個ある、プププ」
今、パルスは、必死に笑っている。くすんだ瞳は、恐怖を表していた。
ーーーーーーーー
旧市街、落語総本山、英雄の間。マックスいう男が一人。佇んでいる。
「マック?いるのかい?」
虚空から、人間が現れたようだ。その男、アルベルトという。
「アルベルト、見てくれよ、この頭。」
「マックその傷!!!」
マックスは、ヘラヘラ笑っていた。
「まあ聞けよ。
俺は、裏山で時間を消費する際に、一瞬『ちょっと戻りたい』と考えたんだ。
帰りてえってな。
そうしたら、突如、石塊が俺の頭をめがけて降ってきた。
当然だが、こんなに遅いもの簡単に避けられると思っていた。
だがそれは、違った。狙っていたのは、俺じゃなかった。
そこで、『詠唱』が始まったのさ。
360度俺の周りを段差が囲み、石塊が転がり始めた。
もちろん俺は、この危険な視線からの脱出を考えた。
そう、死ねば、出られると案を出した。当然そのまま『詠唱』した。
そこですぐに判定が入った。
俺が『死ぬのが先』か、それとも『死ぬのが先』か。」
「神のみぞ知るってことか。」
「だがしかし俺は、都合よく停止しているんだろう。何せ生きているのだからな。」
「?、一体何を言っているんだマックは。」
マックスが帰りたいと思った場所は、一体どこなのか。
それは、誰も知ることはできない。
ーーーーー不安定な記憶。
マックスは、ヒストリカを商店街の豆腐屋に呼び出した。
接点のない二人は、特に困惑する様子もなく、約束を交わしたようだ。
「で、何のようじゃ?」
銀色の髪をなびかせ、古い体操服を着た少女、ヒストリカは、更につぶやく。
「で、何のようなんじゃ?」
「この家で俺がモモタロウを朗読するので。
終わったら、あなたは、豆腐を買ってください。
その後、モモタロウは、あなたにあげます。」
豆腐屋の兄ちゃんがつぶやく。
「お前頭、大丈夫かね。邪魔だっぺ。」
「営業妨害をしていますが、大丈夫です。安全です。」
「え?なにいってるっぺ?」
ヒストリカは、嫌な顔をした。
そのままクラウチングスタートのポーズをとってこう言った。
「お主、もしかして、パルスの知り合いか?」
「・・・」
間一髪の笑顔を押し黙るマックス。
「・・・じゃ、わしは忙しいのでな、ふん!!」
そのままダッシュして、道路に飛び出た、ヒストリカ。
その時だった。
ものすごい速度を出し信号無視していたクルマがヒストリカに突っ込んできた。
「あ」
そのまま垂直に飛ぶヒストリカ。
この時、クルマの運転手は、最高潮にゲラゲラと笑っていた。
「クスクス、このヒストリカは、『凍結』して、あっちに送っておこう。
僕の名前は、キット・スターター。またあえて嬉しいな。」
走り去っていくクルマ。
さらに事故現場の後方から夕陽をバックに木材を担ぎ走ってくる、土方の姿が見える。
そんな中、『詠唱』が始まった。
モモタロウが今始まるのだ。
「桃太郎さん、桃太郎さん。腰につけたきびだんご作って、分け与えて、仲間を連れて、ここまでやってきくれよ。マックスよりっと」
そして近くで当たり前のようにへらへらと豆腐屋の兄ちゃんが笑っている。
「そうだっぺ、そうだったっぺ!!」
豆腐屋の兄ちゃんは、何者かに覚醒したようだった。
その直後大工が豆腐屋のドアを木材で虚空に消し飛ばす。
「よう、始めようか、豆腐屋の兄ちゃん、いや、バインパイアさんよ。」
大工の木材は、もはや、木塊だった。下を見てうつむく大工。
「俺の名前は、大工、バンパイアハンターだ。」
「やるだっぺ?やるだっぺか?あはははは、本当に面白いことをいうっぺ。」
この時マックスは、本当につまらないなと思った。
「こいつら邪魔だな。そのうちどうにかしないと」
さて帰ろうと思った、マックス。
だがしかし、後ろからパルスが現れる。
「ねえ・・・そこの君、ちょっとジャンプしてみて?」
突如パルスは、目の前にいたマックスにカツアゲを始めるのだった。
「す、すみません、お金は、勘弁して下さい・・・」
その後、結局、2万円カツアゲされたようだった。
だが実は、マックスは、3万円隠し持っており、案外にやけていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
そのまま、90年の時が過ぎた。全く誰も気づかない。
モモタロウ、それは、この世に存在しない、『詠唱』。
名を「ヒストリカ」という。
だが、
「クスクス、このヴァルキリーがここで死んだら、どうなっちゃうんだろうね。」
この血まみれのヴァルキリーは、いつか大運動会で優勝するために存在していた、
パルスと『マックス』の栄光だった。
その栄光が輝きを失った時、願望機は、完全に停止することになるだろう。
『金』、この願望機は、もう誰も使うことが出来ない。
即ち、欲望が叶うことはもうない、魔法も自分も超能力も無い。
人間は、何にすがって、何を求めて生きていくのか。
「クスクス、僕もあのまま、『大工』でいたかったよ。もう開放されたいんだ。
つまり、みんな戻るってことかな。『全部』戻るんだよ。記憶も人格も。」
そんなキット・スターター、大工は、このお祭り会場を後にした。
だが、この時、戻ったヒストリカは、激怒した。
未だに『詠唱』を持ち世界から隔離されたヒストリカは、能力者の根源を見せる。
「クソパルスが、ワシは、苦しい、もう長くないじゃろう。
・・・しかたないこの歴史を揺るがす、王手を仕掛けるぞ。」
「バナナは、サイコロにならない。
夢を見ると、音楽が流れる。その音は、拳よりも硬い。
海を見ると、視線が順位を決める。閃光のような速度で天を射抜くだろう。
・・・じゃあ、がんばるのじゃ、クソパルス、そしてマックス
わしはもう退場じゃ、・・・がんばるのじゃ。」
ヒストリカは、自分に刻む、『天才』と『天才』を刻むのだ。
しかし同時にこれは、童話モモタロウの終焉でもあった。
この大運動会は、唐突に幕を閉じることになる。
だが忘れてはならない。己という歴史を。
刻まれた、詠唱がきっと、あいつらを奮い立たせることだろう。
そのままの思いで、運動会を夢見たヒストリカは、砕け散った。
「・・・私の名前は、シャンデリア。今日、新しいヴァルキリーをつれてきたわ。」
虚空から、現れたのは、おしとやかなオカマだった。
「さあ、取り込みなさい、ヒストリカセカンド」
新しいヴァルキリー、その名も『ヒストリカセカンド』。
「ハイ、マスター。ああ、ああ?」
歴史が改ざんされていく。
だがこの時、新たな願望機が、異物を検出した。
「異物?そうね、取り除きなさい。」
「マスター、3週間かかります、よろしいですか?」
「うーん、取り除いたら、捨てちゃいましょう?」
「ハイ分かりましたマスター」
ーーーーーーーーーーー
パルスは、4歳の時からエロ本を読みふけっていた。
本屋に行って、立ち読みしていたのだ。
しかし、この時別段、自慰をしたいとは思わなかった。
「うわなんだこれ、ホント見るの楽しいなあ」
パルスは、現在6歳。パルスの前にエロ本がガン積みされていく。
「今日は、このぐらいかな、面白いや」
パルスは、歩いて店を出て行く。
その姿を日頃見ている店主は、あることに気づいていた。
「そろそろカ。坊主が天啓を授かるのハ。カカカ。」
「店主さん、あいつは、本当に面白いね。全然、欲を感じないんだ。」
落語の教科書を手に持ち万引きしようとする少年、それはマックスだった。
「金髪の坊主、お前は、もう十分強くなっただろウ。」
「だからこそだよ、これからあいつは、もっと可笑しくなるよ。
俺は、それについていかないと、この『音』がそう言っているんだよ。」
マックスは、息を吐くように欲を吐き出し、指音を鳴らした。
「正直、これくらいの音じゃあ、『自分を守る』ことすら出来ないよ。
もっと、大きな音を出したいんだ。欲に耐えれる器が欲しい。
だから今日、覚悟を決めたんだ、例のアレ、もらってくよ」
「そうカ。ほらヨ。オートマグ3ってという、ただ音がでかいだけの改造エアーガン、ダ。」
そのオートマグ3は、ずっしりとして、マックスは、重たく感じた。
「試し打ちしてもいいか?そのエロ本コーナーに。」
「ああ、そのためニ、お前を呼んだのダ。」
悲しい鈍い音が鳴り響く、音が止まることはなく、ただ消費されたようだった。
「・・・さてざっと、エロ本コーナーに『詠唱』を仕掛けたぜ。
判定は、『消費』だ。これでいいんだろう?」
『詠唱』、それは、ヒストリカに刻まれた記憶である。
普通、世界の記憶に揺さぶりをかけるほどの欲を人間は、持ち合わせていない。
常にマックスは、人間であり、同時にパルスも人間なのだ。
したがって能力者でも超能力者でもない。
だが、刻まれた記憶がそれを許さないだろう。
そのただ、辿るだけ、漂流していく感覚が、マックスの足を傷つけていた。
これは、モモタロウが漂流してジャングルに辿り着いた、童話である。