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神人騙理

かむひとがたり


いずれかの神を信じている者がいたとして、その者の声が神に、或いは神の声がその者に届くのは幸いだろうか。

彼女の綴る物語(せかい)、物語であるからには元となる事実、そして世界がある。その世界に名はない。もしかしたらあるのかもしれないが、俺は知らない。ただ、その世界は、ただ一人のやさしい神様の見ている泡沫(うたかた)の、あるいは永久(とこしえ)の夢なのだという。欠片とはその神、創造神にして造物神、全ての始まりの神の力を複製し、粉々に砕いたものであるらしい。つまり、神の力の欠片だ。そして、ルナシーが得る力、ルナとは、その神によってもたらされるものだという。

これらの"事実"は物語の形で各地に伝えられている。まあ、"まともな"人間は只の物語、作り事と捉えているだろうが。現代人にとって、己に都合の宜しくない神などお伽噺扱いだ。確かに、彼女を筆頭とした今を永らえている神々は直接現世に働きかける事は叶わない。だが、神という存在全てが滅びたわけではないのだ。

欠片を得たルナシーの中には、神となったものもそれなりにいるらしい。というか、創造神を除いて、神とは須らくルナシーが成ったものである。らしい。そして、元がルナシーである以上、その力は創造神よりも卑小のものである。まあ、その血肉も力も全てが神に与えられたものだというなら、どんなに努力をしても神に勝る事は出来ないのは道理だろう。

ただ、神殺しが過去になかったわけではないらしい。神同士で争ったのか、ルナシーが神殺しに挑んだのか…いずれにしてもそれで死ぬ神は成神だろう。創造神が滅んでいれば、創造神の見る夢だという世界そのものもただでは済まないだろうし。誰かが成り代わりでもできれば別だろうが、まず世界は滅ぶのだろう。

ルナシーとは、神に声が届き、願いが叶えられたもののことである。だが、そのことは必ずしも幸いには繋がらない。そもそも、そのものが神に届くほどに強く願わねばならない状況というのが不幸だ。例えば、わかりやすくは自らや近しい者が死にかけるとか。人から見ればさして重要な事ではなくとも、本人にとっては重いことだったりするので、外から見れば一概には言えないが。

ルナとは現実を変える為の力だ。幸福であれば、現状を変えようと思わないのであれば、手を伸ばす必要はない。不要な力を得れば、それは逆に不幸を招くことになる。

だが、彼女によると、造物神は何者も救う事の出来ない存在なのだという。救わないのではなく、救えない。この違いは重い。解決の手段も異なる。意思がないのと、能力が、或いは方法がないのは違う。

まあ、納得のできる話ではある。神は声を聞きルナシーにルナを寄越す。何かしらの手助けをしてやろうという意思そのものはあるのだ。それで人が救われるかはともかく。目の前の問題を解決してもそれで救われるとは限らない。例えば、飢えた人間にパンを与えても一時凌ぎにしかならないように、人を救うというのは簡単にはいかないものだ。

さて、もう一度問おう。神に声が届くのは、神の声が届くのは、幸いだろうか?

少なくとも、この物語(せかい)においては、あまり幸いとは言えないのだろう。神は人を救えない。ただ願うだけでは何も好転しない。救いを求めてもそんなものは存在しない。神に救えないものを誰が救えるだろう?

神に声が届いてしまった事こそが最大の不幸という例を一つ知っている。声が届き、生き残ったからこそ彼は絶望することになった。かといって、あの時死んでいれば幸福かといえば、そうではないだろうが。一連の不幸は人災だ。あの男に責任の処遇を託すのが筋になるのだろう。本人に悪事をした自覚がないのが最も厄介な所だが。奴はまさしく、確信犯。異なる理の下で生きる狂信者だ。そのアルカナの暗示も示している。

だがまあ、そんなものはありふれた話。物語(せかい)は繰り返されるし、模倣もする。普遍的だからか、特異だからか、いずれにしたって然程違いはない。そういうものだと思うしかない。幸せは似たような形をしているが、不幸はそれぞれに異なる形をしているという言葉もあるが、それもパターン数があるというだけで本当に全て異なるわけじゃない。枝葉末節を取り除けば、幾つかのパターン、或いはその複合に収束するのだろう。それに対して人がどう思うかはまた異なるのだろうが。人の心というものは不条理だ。感情は理屈に従わない。法則に従うだけのものはつまらない。意思が介在し、不合理を選ぶからこそ多様性に繋がる。





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