初練習1
僕たちは今、学校のうらの道路に来ていた。今日はいよいよ初練習だ。昨日は自己紹介の後は先輩達は練習に行ってしまったので僕たちはそのまま帰宅したのだ。そして今僕の目の前には知らない一年生がいる。
背は平均ぐらい、体は筋肉質だ。こいつは何者なんだろう…?
「集合!」
福井キャプテンの声だ、急がないと!
「新入部員も全員揃ったな、じゃあ自己紹介といこう、まず俺は司会をさせていただく斎藤省吾、高3だ。クライマーをしている。」
うん、なんで兄ちゃんが司会しているんだよ、キャプテンは何しているんだよ?
「なんでキャプテンが仕切ってないんだよ?と思う人もいるかもしれない、何故俺が司会かというと、うちのキャプテンは喋りが下手なんだよ。競技面ではめちゃくちゃ強いけどな、というわけでキャプテンどうぞ!」
確かに昨日会った時もほとんど話してなかったもんなあキャプテン…
「キャプテンの福井宗介だ。オールラウンダーだ、よろしく。」
簡潔!
「ではでは、次は我らがマネージャーどうぞ!」
あれ?昨日選手になるとかどうとか言ってなかったっけ?
「今年からは選手やるって言ったでしょ?省吾。えーと、私が元マネージャーで今年からは選手をやる清水香乃子、高3です。私はインターハイ路線は出られないので、インターハイでは君たちを全力でサポートしたいと思うわ。よろしくね。」
昨日も思ったんだけど清水先輩はすごく綺麗だよな、背はそれほど高くないけど、すらっとしていて顔も整っているし、ところでインターハイ路線出られないって一体…?
「えーと、香乃子がインターハイに出られないって言ったかと思うけど、どういうことかと言うと、インターハイは6人で1チームだから、現時点で女子部員が1人のうちは女子はインターハイ路線に出られないってわけだ、それでは次は2年生!」
「俺は大和謙吾、スプリンターだ。平坦には自信があるぜ、山はからっきしだけどな(笑)」
明るい先輩だな、なんかガハハハって感じの笑いだな、なんか隣の一年生に似ているな、一回りデカくしたみたいな体格だし…
「僕は加藤信一、クライマーだ。去年は山岳アシストをしていた。今年は山岳で一度ぐらいエースとして出場したいと思っている。」
こっちの先輩は大和先輩とは対照的に細い、でも筋肉はしっかりと付いているみたいだ、いわゆる細マッチョ?
「2年生は勧誘に失敗したから二人しかいないんだよね〜、まあ粒揃いだけど、さあじゃあ最後はこれからの部を背負っていく期待のルーキー君たちいってみよう!左側の君からどうぞ!」
左側にいるのは厳つい一年生だ、
「俺の名前は大和謙二、大和謙吾の弟です。中学からロードをやっています、スプリンターです。夢はインターハイでポイント賞を獲得することです。よろしくお願いします。」
似ているなーって思っていたら本当に大和先輩の弟だったのか!次は龍樹だな
「影山龍樹です。中学時代は陸上の短距離をしていました。精一杯頑張りたいと思います、これからよろしくお願いします。」
こういう時はこいつ卒なくやるんだよなあ。次はいよいよ僕の番だ、さあ深呼吸して
「ぼっぼくは、斎藤和人ですっ」
いきなり噛んでしまった、とりあえず深呼吸して
「中学時代は陸上の長距離をしていました。斎藤省吾の弟です。よろしくお願いします。」
なんとか言い切った〜
「私は如月恵美です。」
まだ人いたのか⁉︎
「マネージャーをしたいなと思っています。よろしくお願いします。」
なんか、声小さいな、影も薄いし、でもよく見たら結構可愛い、守ってあげたくなるような感じだ。
「よーし、これで全員自己紹介終わったな?謙二君はロード持ってきているな?龍樹と和人は持ってないだろうしな…ロードがある奴は自転車で三浦サイクルまで行って待っていてくれ、謙二君の案内は謙吾に任せる。ロードがない奴は監督の車に乗せて連れて行って貰おう。」
「失礼します。」
今監督の車に乗せてもらっている、監督は高田先生という人で、今27歳という若手だ。本当はもう一人沼田先生っていう定年間近の先生もいるんだけど彼はほとんど練習を見に来ないみたいだ。3年前に高田先生が赴任して来て、徐々に引き継ぎをしていて、去年でほぼ完了したから実質顧問を辞めたような状態らしい。先生の車で三浦サイクルまで連れて行ってもらっていると
「君達はどうして自転車競技部に入ろうと思ったんだい?言っちゃなんだけどロードレースなんて日本じゃマイナーな競技だろう?」
と突然先生が聞いてきた、僕は龍樹に流されただけだけど…
「こいつの兄が入っているというのと、中学時代は陸上部で、高校では違う競技をやりたいなと思っていて、何か陸上が活かせる競技が良いなと思って選びました。」
陸上に飽きただけだろそれ?
「斎藤はお兄ちゃんいるからだな」
「いや、ちが」
「如月はどうなんだ?」
無視かよ⁉︎まあ言ったところで龍樹に誘われたからってだけだから、大した違いは無いけどさ…
「わっわたしは…」
如月さん顔真っ赤にして固まっている、可愛いなあ
「中学からマネージャーしたいと思っていて」
うんうん、
「でも、他のクラブはもうマネージャー足りているって言われて」
なんと⁉︎こんな可愛いマネージャーなら仮に人が足りていたとしても来て貰えば良いじゃないか!
「お前さっきから如月の方ジロジロ見てキモいぞ和人」
⁉︎何言っちゃってくれてるの龍樹⁉︎如月さんもう俯いちゃって何もしゃべれなくなっちゃっているじゃないか。
「ああー、うん、とりあえずもう着くぞ降りる準備しろー」
何か先生が気まずそうな声で僕らに呼びかけた。
「私は三浦サイクル副店長の三浦清子です、よろしくね。旦那は今ちょっと届け物に行っていていなくてね。帰ってくるまでの間にそこの二人のロードを見繕っておこうか。」
この人は、元山門高校のマネージャーで、今はこの店で働いているそうだ。旦那さんは三浦健人さんと言って、僕たちのコーチをしてくれている人らしい。彼もこの自転車競技部のOBだそうで、キャプテンもしていたそうだ。
「えーと、これとか良いんじゃないかな?アルミフレームのロード。メーカーはTRECだよ?どう斎藤君?」
どう?とか聞かれても困る、ロードバイクなんか乗ったこともないのだから、
「ほら、乗ってみ」
とりあえず乗ってみた。
「店の前の直線は基本健人さんしか通らへんから安全やし、ちょっと行ってき」
と言われてペダルを踏んでみる、すーっと進む、軽い、ママチャリとは全然違う!
戻って来てみたら、もう龍樹も試乗を終えた様子だった。
「斎藤君どうやった?お兄さんのと同じ形をとりあえずおすすめしてみたけど。」
「すごいです。こんなに軽く進む自転車は初めてです!」
「そうか、そりゃ良かった。じゃあとりあえず今日の練習はそれ乗っとき。実際にそれにするかはまた後日。健人さんも帰ってきたしな。」
そういえば戻って来た時には、先生のとは違う車が店の前に止まっていた、それが健人さんの車か…店の奥から若い男の人が出て来る、
「お前らが今年の新入生か。俺は三浦サイクルの店主をしていて、山門高校自転車競技部の外部コーチをやらせてもらっている三浦健人だ。よろしく。」
兄ちゃん曰く健人さんは努力の人だそうで、入部当初はすごく遅かったのに高3ではついに、インハイメンバーに選ばれなんと、インターハイ本戦で総合敢闘賞(審判から見てインターハイ全体を通して一番頑張ったと判断した人に送られる賞)を獲得したらしい。
「じゃあ、今日の練習だけど、例年通り一年生は脚質を調べるために高島牧場の周りの道で平坦を稲葉山で山岳を走ってもらう。上級生は無線を貸すから脱落者のチェックに入れ。俺は車で先頭集団の後ろから様子を見る。清水は高田先生と一緒に車で最後尾についてくれ。如月さんは俺の車で先頭集団のボトル替えの要員をしよう。」
健人さんがすごくテキパキと指示を出す、でも…
「あの、私今年から選手に復帰しようと思っているので…」
そう清水先輩だ。今年からはマネージャーじゃないと聞いていたのに普通にマネージャーとして数えられていた
「そうか、ケガはもう大丈夫なのか?」
「はい。先月完治しました。もう全然走れます。まだ体力は戻せてませけど…」
「最後尾は高田先生だけで回せるか?…よしっ、じゃあ清水は一年生と走れ。他はそのままで、以上!15分後に出発だ、用意して来い」