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明日また会えたら  作者: caster
4/5

初陣は驟雨に濡れて

続きです!

初陣です!

まだユウの詳しい話は出ませんw

第三章~初陣は驟雨に濡れて~


 

 それから、二週間ほど、変わったことは何もなかった。

 いや、普通に考えれば変わったことなんだが、この時代、この新選組にとっては、何ら変わったことではないのだ。

 仕事といえば、隊士たちと炊事、洗濯、掃除。

 それから、毎日、朝と夜の二回ある、市中の見回り。

 これは新選組が京都見廻組だった時から続けていることで、その頃は、自分たちで勝手に街に繰り出して、悪党をひっとらえてお上に認めてもらおうとしてたんだとか。

 これは土方さんに教えてもらった事なんだが、当時を語る土方さんの目は、今になって尚、まだ先があると物語っているようで、言葉よりも多く、俺に話をしていた。気がする。

 市中を見回るにつれ、気づいたことは、幕末の京都といえど、人々は慎ましくも穏やかに、幸福そうに暮らしているということだ。教科書に載っていた戦のことなど、まるで嘘のように、毎日静かに、そしてゆっくりと時間は流れていた。

 俺はというと、近藤さんの好意で、朝と夕方の市中見回りに同行させてもらえることになっていて、腰には刀まで差している。着物まで支給してもらって、誠の文字の入った空色の羽織まで着ている。

 まぁこの羽織は、全員が同じもの着ていなきゃいけねぇっていう土方さんの言いつけなんでだが。

 しかしまぁそんなこんなで、毎日何事もなく、俺はこの時代に順応していった。

 


 そんなある日のことだ。

 朝の見回りに俺はいつもどうり朝の見回りに同行させてもらっていたんだが、様々な商店が立ち並ぶ京の街の一角で、小さな事件が起きた。小さな事件といえば怒られかねないが、まぁ要するに、食い逃げだ。

 とある料亭に来た数名の客が、味が悪かったってんで、金を払わずに店を出ようとしたそうな。全く、教育のなってねぇ下郎どもだ。

 ともあれ運良くそこを通りがかった俺たちは、難なくそいつらをねじ伏せ、金を払わせて追い払ったのだが、その下郎どもというのが、京では有名な喧嘩屋「とまき」一派の下っ端だったらしく、その筆頭のとまきが夜中になって詰所に殴り込んできたのだった。

 「おいおいおい!新選組のクソ野郎どもがいるってなぁここかい?!さっきはうちのをこっぴどくやってくれたそうじゃないか!てめぇらどう落とし前つけてくれるんでぃ!これじゃあ喧嘩屋の名折れなんだよ!」

 ケータイの電池は切れてしまったから正確な時間は分からないが、月の位置から考えて今は深夜二時すぎだろう。そんな時間に馬鹿でかい声で喚き散らしながら一人の若い男が詰所の門を叩き折って入ってきた。

 隊士たちが騒然となって飛び出していく。

 俺はというと、夜型な生活習慣は夢の世界でも変わらないらしく、全然眠ることができずにいたため、特に準備もないまますんなり出て行った。

 男の姿を注視する。

 身長は百八十に届くかという大男。筋骨隆々というわけではないが、無駄のない筋肉のつき方をしているのが、羽織の上からでもわかる。獲物は日本刀二振り。普通の人間では、日本刀は一振り扱うのが限界なはずなのだが、あいつは二刀流でもするつもりなのか。

 そんなことを考えていると、また男が喚きだした

 「おいおらぁ!近藤はいねぇのかぁ!」

 考えられないほどでかい声だ。スピーカー使ってもあんな声出ねぇぞ。

 と、そこに、土方さんが隊士の間を割って姿を現した。少し時間がかかったってことは、近藤さんを抑えてきたのだろう。

 「うるせぇんだよ。時と場所をわきまえろ阿呆が」

 身も蓋もない暴言である。

 「あぁ?!てめぇが近藤かぁ?!さっきはよくもやってくれたなぁあぁん?」

 よく考えれば、いや、考えずとも、コイツの言い分は間違いまくっていることは明らかなのに、どうしてこうも堂々と文句つけれるんだ。

 「俺は土方歳三だ。てめぇ、俺は今イラついてんだ。黙って帰らなきゃ、斬るぞ」

 今日も平常運転の土方さんはそう言うと持ってきていた刀を抜く。

 土方さんの刀は普通の日本刀よりも少し長く、一般の剣士なら扱えない代物だ。

 構えた彼の立ち姿はまさに鬼のごとく威圧感があり、並の悪党であれば泣いて許しを請うであろうほどだ。

 しかしこの男は違った。

 「へぇ、おもしれぇ。あんたが鬼の副長と名高いあの土方歳三かぁ。いっぺん喧嘩してみたかったんだよなぁ」

 そう言うと、男は腰に差した二本の刀をスラリと抜いた。

 一本は中段、もう一本は上段の二段構え。へぇ。おもしれぇ型もあるもんだな。

 「てめぇ。抜いたってことは覚悟できてんだろうな。許してくださいじゃすまねぇぞ。」

 低く、ドスの利いた声。

 隊士たちはその声に息を飲んだ。

 そしていよいよ二人が交差するかと思われたその時だった。

 「そこまでだぁ!」

 先の男の大声をはるかに凌駕する爆音が響き渡った。

 土方さんが通ってきた道から、近藤さんが姿を現す。

 「近藤さん・・・。なんで出てきたんだ」

 土方さんはそう言うと刀をさやに戻す。こういうところを見ると、土方さんは本当に近藤さんに全幅の信頼を寄せているんだとわかる。

 近藤さんは土方さんを一瞥すると、

 「わしが近藤じゃ。お前、何者だ」

 聞いたこともない声だった。

 今日まで短い間ではあったが、近藤さんの様々な姿を見てきたつもりだった。だが、こんなにも低く、恐怖心を直接揺らすような声は初めて聞いた。

 この人、ホントはどエライ人なんじゃなかろうか。そう思った。

 そんな俺の失礼な思案など知る由もなく、近藤さんは続けた

 「いや、いい。とまき、だな。今朝の我らの行いに、何か問題でもあったか」

 恐ろしいまでにドスの利いた声に、さすがのとまきも少しばかりたじろいだ。

 「て、てめぇらのせいでオレらぁ市中の笑いもんだ。喧嘩の話まで今日は一件もなかった始末だ!これじゃ商売にならねぇんだよ!」

 うむ。何度聞いても程度の知れる言い分だ。

 「それは貴様らが愚行を働いた故の結果だ。我らに文句をつけるのは筋違いであろう」

 うむ。これまた完璧な正論だ。流石に阿呆のとまきでもここまで言われて二の句が継げない

 「ぐっ。てめぇら、おぼえていやがれ!」

 なんとも見事な捨て台詞を吐いてとまきは踵を返して去っていった。

 あとに残ったのは、土方さんが撒き散らした色濃い殺気の残り香と、近藤さんに尊敬の目を向ける隊士たちだけだった。

 


 そんなことがあった次の日の朝。

 この時の見回りでも、目立って変わったことはなかったと、土方さんは報告した。しかし、俺たちは気づいていた。ヒラの隊士たちは気づかなかったようだが、土方さんや俺、それに斉藤さんは気づいていた。所々で俺たちに向けられていた、殺気の混ざった視線の数々に。

 


 しかし、やはり俺たちは昼餉時も夕餉時も、いつもと変わらず穏やかに過ごした。

 そして、一日の最後の締めである、夜の見回りに俺たちは出た。

 この時、土方さんはヒラの隊士を連れて行かず、俺と、斉藤さんの三人で出ることを近藤さんにごり押しした。

 いつもどおり、京の町を見回り、最後の路地に入った時だった。

 「止まれ」

 土方さんが手で俺たちを制す。

 土方さんに言われるまでもない、俺たちも気づいていた。

 俺たちが足を止めると同時に、路地の前方と後方を黒装束に身を包んだ集団に塞がれた。目以外の全てを隠したそいつらは、濃厚な殺意を隠す気もなくまき散らし、手に手に持った獲物をちらつかせながら、じりじりと距離を詰めてくる。

 「てめぇら。いい度胸だぜ。この俺に刀抜くたぁな」

 そう言いつつ土方さんは刀を抜く。既に斉藤さんは構えに入っている。彼はガトツは使わないらしく、鞘から少しだけ刀を抜いた、居合いの構えをとっている。

 俺はというと、刀は抜かず、徒手空拳の構えだ。刀なんて危なくて使えやしねぇ。

 「いくぜ」

 そう短くつぶやくと同時、土方さんは前方、斉藤さんは後方へと駆け出す。

 二人の剣技は目を見張るものがあった。

 土方さんは長刀を無駄のない動きで振り抜き、受ける刀もろとも、賊の胴を斬り、返す刀で次の賊の首を落とす。たった数秒、たった数擊のあいだに、もう何人も斬っていた。

 すげぇ。

 俺はつぶやくことしかできなかった。

 後方に目を移すと、既に土方さんと同じか、それ以上の数の賊を斬り伏せた斉藤さんが、敵の中で舞っていた。

 そう。あれは舞だった。斉藤さんの剣技はまさに剣舞。

 上段から振り下ろす刀に受けが間に合ったと思えば、即座に手首、肘、上体を翻し、空いた胴を断つ。見かけによらず派手な動きだ。

 そんな風に二人の剣に見とれていると、土方さんの猛攻を味方を犠牲にして掻い潜ってきた賊が一人、俺に向かってきた。

 俺はそいつの首を狙った突きを紙一重まで引き付けて躱し、泳いだ首に手をかけ、反動を使って地面に叩きつけた。衝撃で刀を手放し、肺に残った空気を全て吐き出したそいつは、苦しそうに喘ぐ。制圧した。

 見れば、二人も殲滅したようで、刀を納めて戻ってきた。

 「てめぇ。喧嘩屋の」

 土方さんが見下ろしながら言う。

 「へっ。てめえらはもう終わりだぁ。俺らの役目はここにてめぇらをとどめておくこと。今頃詰所はどうなってるかなぁあ?」

 「なんだと・・・!」

 その言葉を聞き終えるか否かの刹那に、斉藤さんが駆け出す。向かう先は詰所だ。

 「斉藤!チッ!おいユウ。俺も斎藤に続く。やるべき事ぁ、わかるな」

 そう言い残して土方さんも駆け出していった。


 そこで俺は賊に視線を戻す。

 「ヘッ。殺せよ。とうに覚悟は出来てんだぁ。勝てねぇ戦とわかってたからな」

 俺は無言でそいつの目を覗き込む。こいつは勝てない戦とわかって、それでも俺たち新選組を潰すための礎にその命を捧げるという。

 俺はそいつを地面に押さえつけたまま、考える。どうする。殺しなんてできようはずもない。いくら夢の中にいるとはいえ、殺していい道理はない。しかし生かしておけば必ず禍根を残すだろう。

 どうする。考えろ。最善の手は何か・・・。


 その一瞬の思案が、明暗を分けた。


 俺の意識が手からそれた一瞬を逃すことなく、男は拘束を解き、俺に蹴りを見舞った。

 無論、当たることはなかったが、しかしその間に獲物を取られている。

 この男一人制圧することなど、アリを潰すより簡単なのだが、それでは同じことの繰り返しになる。

 どうする。考えろ。足を折るか、どうする・・・!

 しかし俺に考える時間を与えず、男が踏み込む。先ほどよりも鋭さを増した、より殺傷性のある突きだ。なるほど喰らえば大怪我では済まないだろう。

 だが俺には止まって見えるほどに遅かった。

 突きを躱し。右の肘で敵の喉笛に一撃、そのまま襟首をつかみ、左手で敵の右手を制し、足を払ってもう一度地面に叩きつける。

 「ぐっ」

 男が呻く。しかし俺は覚悟を決められずにいた。

 そこで異変が起きた。さきほどと違い、男は獲物を手放しておらず、手首を返して俺の背中を狙ってきた。その予想外の行動に俺は平静を欠いた。力に自信がない俺は、その手を抑えるより、体をそらして避けることを選んだ。回避はうまくいった。しかし、次に起こることを俺は予想できなかった。

 ちょうど敵の上に覆いかぶさるようになっていた俺の体を狙った攻撃だ。男の刃は本気だった。躱されることなど思いもしていないものだった。

 当然その刃は俺を貫くことなく、そのまま男の左の胸部へと吸い込まれていった。

 「ガッ」

 男は断末魔の叫びを短く残して死んだ。

 俺はその光景を呆然と見届けるしかできなかった。


 しばらく呆然と男の亡骸を眺めていた。どれほどそうしていたのかは知らない。

 しかし突如として耳に届いた鐘楼の音に、俺は気を取り戻した。

 気づけば雨が降っている。

 無残に転がる亡骸の数々。流れた血を降りしきる雨が洗い流していく。

 俺は、響く鐘楼が何を意味しているのか、そしてこれからどうなるのか、全て理解した上で、天を仰ぎ、ただ、雨に濡れていた・・・。

いかがでしたでしょうか?

やっぱり描写は難しいですね。

これからも精進していきますので、よろしくお願いします。

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