夢に見た時代
第一章です。
幕末の日本に降り立った主人公目線で書いていきますので、
よろしくお願いします。
第一章~夢に見た世界~
目を覚ましたのは、それからどれくらい経ってからだろうか。
服についた埃と砂を払い落として、俺は立ち上がった。
ここは、どこだ・・・?
俺の視界に映るのは、今まで見てきたビル街や行き交う車ではなく、歴史の教科書に載っているような、長屋。見事なまでに舗装の行き届いていない、砂をひいた道。着物を着て物珍しそうに俺を眺めていく人々。
あぁ。なるほどな。俺は三途の川を渡る前に夢を見ているんだな。
直感的にそう悟った。今になって思えば、俺が間違えたのは、ここでその悟りを信じちまったことに始まるんだろう。
それにしてもだ。俺の最後の夢がこんな時代劇風活劇の世界たぁ、最後にヤキがまわったなぁ。
そんな自分に向けた文句を噛み殺し、俺は次の行動を思案する。
おそらくここはどこかの城下町。遠くに見える馬鹿でかい城がそれを証明してくれている。刀を持った人をたまに見かけることから、時代は明治ではないらしい。明治ならば廃刀令とやらが出されているはずだ。まぁ、日本史を真面目に学んでこなかったから、この推測は間違っているかもしれんが。
ならば今はおそらく幕末。周りの人々は少なからず幸せそうな顔が多い。そんな簡単で適当な推測だ。
そんなことを考えて道端で立ち止まっていると、後ろの路地を抜けてきた男にぶつかった。いや、ぶつかられた。すごい勢いだ。
いってぇな。俺はつぶやいた。つぶやいてしまった。
「あぁ?てめぇ今なんつったおい!人にぶつかっておきながら詫びの前に文句たぁいい度胸じゃねぇかぁ!」
そいつはものすごい剣幕で顔をずいと近づけてきた。周りには取り巻きらしい連中が少なからずいて、それを認識した瞬間、俺の体から血の気が引くのを感じた。
あ、これはどうも。すんませんした。
「あぁ?てめぇそれで済むと思ってんのか?ごめんで済んだらお上はいらねぇってんだ!」
そう言い放つと同時に、男は腰に差していた刀を抜いた。
刀身は鈍色に輝き、これから切るであろう俺の顔を映している。普通の人間なら、あんな刃物ちらつかされたらただ事ではないだろう。しかしながら、その時の俺は違った。
不思議と心臓は落ち着いていて、引いていった血が俺の体をよどみなく流れるのを感じていた。視界は先頭の男を中心に取り巻き全員の姿を捉え、さらには彼らの獲物の全て、その刃こぼれに至るまで、認識していた。
先頭の男の刀にはわずかばかりではあるが刃こぼれがある。更にそこにはおそらく血が固まったのであろう、黒とも茶色とも言い難い塊がこびりついている。ほかの連中の獲物には特にこれといって特徴がないことから、おそらく、手練はコイツだけだろう。さて、どうしてやろうか。
そんなことを考えている間に、第一刀が眼前まで迫っていた。
俺は身体をわずか半歩ばかりだけ逸らしてその一撃をかわし、すり抜けた男の首の後ろ、ちょうど延髄に当たる部分に手刀を叩き込む。
男はうぐぅとかうぐぉとかの呻きを響かせてその場に崩れ落ちた。
男が崩れ落ちる間にも、俺は取り巻き連中に向かって走り出している。
なぜだろうかその時は、生きていた頃には感じたこともない高揚感に包まれていた。
頭を潰した烏合の衆は、息をするほど簡単に片付いた。
一人には中段におお振りの回し蹴りを、一人には下段から突き上げる拳をその長い顎に。
そんな風に結局俺は一太刀も浴びることなく、下郎どもを片付けてしまった。
人生初めての大喧嘩は、あっけないほどの完勝で幕を閉じた。
ふぅ。びっくりさせやがって。喧嘩は相手を見てから売りやがれ。
そんなセリフまで吐けてしまうほどに、俺は高ぶっていた。
俺のセリフに続いて数秒ほどの沈黙の後、騒ぎを見ていた野次馬たちがワッとわいた。
やったぜ兄ちゃん!とか、ざまぁ見やがれこの悪党ども!などなど、歓声と怒号が飛び交い、街道は割れんばかりにわいた。
人生で初めてした喧嘩よりも、人生で初めて受けた賞賛の言葉に、俺は狼狽した。
あ、あぇ?お、おう。
そんな惨めな声しか、俺の口からは出てこなかった。全く、間の抜けた話だ。
その間に、伸びていた悪党どもがそれぞれ俺に打たれた箇所を押さえながら立ち上がり、未だのびきっている頭と思われる男を引きずって去っていった。何か言っていた気がしたが、歓声に消されて俺の耳には何も届かなかった。
そんな街角での騒動は、俺の至福のひとときは、現れた男達によって突如として終わりを迎えた。
「何事か!道をあけよ!」
野太く、しかし研ぎ澄まされた刃物のように響き渡ったその声は、歓声をかき消し、集まった野次馬を黙らせた。しばらくして、野次馬たちが道を開け始める。いつの間に集まったのか、百に届きそうなほどの群衆の中から、空色の、見覚えのある文字が背中に入った羽織を着た一団が姿を現した。
先頭の男は、でかい。なんというか、でかい。
身長は180センチほどだろうが、がっしりとガタイがよく、威圧感が凄まじい。
そのとなりには、悔しいほどの二人の優男が先頭の男を挟むようにして並んでいる。
町衆がおぉとかあぁぁとか言いながら頭を下げながら道を開けることから、おそらく彼らはこの街の警察か、奉行のものだろうと推測できた。しかしこの推測は、口を開いた片方の優男の一言であっさり否定されてしまう。
「俺は新選組土方歳三だ。何があった。」
さっきのとは違う声だったしかし、俺は自分の目と耳を疑った。あまつさえ頭までも。
新選組だと?死の直前に見る夢が時代活劇で、ここに来て新選組ぃ?
驚きに平静を欠いた俺の頭は、思考することを止め、その機能を停止した...
いかがでしたでしょうか。
まだまだ書き始めたばかりなので、だめだめかもしれませんが、
一生懸命書いていきたいと思います。
次回お楽しみに!