移動手段は伝説の聖獣
異世界アルマギアで第二の人生を歩み始めた蓮也とリーナ。
だが、アルマギアに来て1ヶ月、二人は未だリーナの屋敷に留まっていた。
「なあ、リーナ」
「なんだ?蓮也」
「そろそろ街に行ってみないか?もう体も安定しただろう?」
蓮也達が屋敷に留まっていた理由はそこにある。体が人間の肉体ではないとはいえ、幽霊から生者に変わるという無茶をした為に、まだ存在がしっかりと定着していなかったのだ。
この魔術は擬似的な蘇生を実現させるが、誰でも蘇生させられるわけではない。
蓮也とリーナの莫大な魔力があり、なおかつ本人達の体だった為可能だったのだ。
「そうだな。だが、街に行くとなると、真面目に装備品を選んで着ていく必要がある。」
リーナの言葉に首を傾げる蓮也。
「装備品?今更俺達に必要あるのか?」
「ある。今の私達の体は通常の人間の体とは違う。機能を模倣してはいるが、それが生命活動を支えているわけではないので、血がなくなろうと、心臓が止まろうと、脳が破壊されようと無事でいられる。痛みは感じるがな。」
リーナの言う通りなのだが、それならば余計にいらないのではないか?と蓮也は尋ねる。
「だが、光の魔術や浄化の紋章を使われた場合、私達の力は激減する」
ああ、なるほど。と蓮也は頷く。
「つまり、『一度死んだ』という事実がある以上、生きているから浄化こそされないものの、大きく力が制限されることになる、と。」
「そういうことだ。だから、それに対する防備と、そうなったときの安全を確保す装備がが必要なんだ。幸い、その手の装備は私の家に沢山あるからな。なんでも選び放題だ。」
「わかった。準備をしておいて損はないからな。なら早速選びに行こう」
こうして二人は装備品を選び始めるのだった。
・・・数時間後。
装備品を選び終わった蓮也とリーナが屋敷の玄関前に立っていた。
「へえ、似合ってるな、リーナ。」
「ありがとう。蓮也こそ、似合っている。ちゃんと魔道士って感じだよ。」
二人は互いの選んだ服を褒め合う。
照れ臭さからか、顔を背けながら蓮也はリーナに服の効果を聞く。
リーナの服は、ドレスと和服が合わさったような不思議な服だった。帯には『紋章』が刻まれており、首に鉱石が10個ほどついたネックレスをつけ、胸の真ん中には大きな宝石がついていた。
「この服の効果は、先程も言った光の魔術の減衰だ。それと、帯の紋章は魔力蓄積の効果を持つ。これがあれば、私の力が抑えられたとしても、ここから魔力を引き出して動けるからな。」
やっぱりそういう仕掛けは必要か、と蓮也は頷く。
「その、首のネックレスと、胸の大きな宝石はなんだ?」
「宝石についてはまだ秘密だ。ネックレスの方は、少し特別な紋章が刻まれていてな。ほら、この鉱石をこうすると。」
リーナは鉱石をひとつ外すと、鉱石を握りつぶした。
「ほれ。この通りだ。」
そう言ったリーナの手には、先程の鉱石を使用したイヤリングが握られていた。
「このネックレスに1ヶ月間鉱石をつけておくと、握りつぶした際に本人が望むアクセサリーになる効果が付くんだ。珍しいだろう?」
「本当にそれだけなのか?」
「察しがいいな蓮也。もちろんそれだけじゃない。このネックレスは、この紋章術の効果のこもった鉱石を身につけている人物と、いつでも、どこでもテレパシーで意思疎通を図ることができる。鉱石同士でもそれは可能だ。」
「なるほどな。つまり、そのネックレスを中心としたテレパシーによる通信網が作れるってわけだ。」
それは便利だな、ひとつくれよ。と蓮也が催促すると、リーナは先程変化させたイヤリングを渡してくる。
「そう言うと思って変化させたんだ。嬉しいか?この鉱石をプレゼントする第一号だぞ?」
「そうだな。ありがとう。」
「おや?珍しく素直じゃないか。どういう心境の変化だ?」
確かに、いつもの蓮也なら素っ気なく返答するようなシチュエーションである。
「まあ、俺もワクワクしてるんだよ。柄にもなくな。」
「なるほど。やはり蓮也も男の子だと言うことか。」
うんうん、と頷きながらリーナが言う。
「ところで、蓮也こそ、どんな物を持ってきたんだ?」
蓮也の服は、丈の長い黒いコートにネックレスというものだった。黒いコートの左の二の腕の部分には、なにやら金属の装甲のようなものが着いていて、コートの裾の部分には、リーナの帯と同じく紋章がついている。
「この服は、闇の魔術の結界が薄くはられていて、光の魔術の効果をはねのけてくれる。ネックレスは、リーナの帯と同じで魔力を蓄積できるようになってる。」
「ならその紋章はなんだ?」
コートの裾を指差しながらリーナが問う。
「ああ、これは、収納の紋章だ。このコートで包める程度の大きさのものなら亜空間に収納できる。もっと小さいものなら、袖や懐からでも出し入れできるしな。」
「ほう、それは荷物がかさばらなくていいな。私の持ち物も後でしまっておいてくれ。」
「了解だ。それくらいなら構わない。」
どうせ重さも感じないしな、と蓮也。
「腕の装甲については、機会があったら説明する。そう使うことも無いだろうしな。」
「そうか。まあいいだろう。それじゃあ、そろそろ出発と行こうか」
そう言うとリーナは口笛を吹く。
すると、屋敷の中から一羽の小鳥が飛んで来て、リーナの肩に止まった。
「その小鳥は?」
「まあ見ていろ、蓮也」
その小鳥は、リーナの肩から飛び立ったかと思うと、上空で停止して、急激に大きくなり始めた。
「おい、これは・・・」
蓮也が絶句するのも無理はない。なにせその小鳥は巨大化したかと思うと、体に炎を纏い始めたのだ。
その鳥の名前を蓮也はよく知っていた。いや、現代日本に生きる高校生で知らぬものはいないだろう、その伝説の鳥の名前は・・・
「不死鳥」
「そうだ。名前はフィーネ。生前の私のペットだ」
「ペットって・・・。まあ、そんなことより、どうして急にそのフィーネを呼び出したんだ?」
「簡単だ。フィーネに乗って空から山を越えて行くからさ」
は?と蓮也が言うと同時に、リーナは蓮也を抱えてフィーネの背中に飛び乗る。
「フィーネ!久しぶりで悪いが、よろしく頼む!」
ピイィィィイ!とフィーネが元気な返事と共に飛び立つ。
「空からって、目立ちたくないんじゃなかったのか?」
「あれはまだしっかりと安定していなかったからだ。今見つかっても何の問題も無い。それに、流石に人の気配がしたら降りるさ。不死鳥は伝説級の聖獣だしな。見つかるとロクなことが無い。」
「まあ、そうだろうな。ところで、どこに向かうかは決めたのか?」
「知らん。3000年前の知識なんて当てにならない。とりあえず、東の方へ行ってみようかと思う。」
「そうか。じゃあ、街が見つかったら起こしてくれ。」
言い終わると、蓮也は早速寝はじめる。
「全く・・・。相変わらずだな。」
そんな蓮也の顔を見て微笑むと、リーナはぽつりと一言漏らした。
「ありがとう、蓮也。蓮也のおかげで、私はもう一度生を楽しめるかもしれない。」
二人を乗せたフィーネは、人の街並みを探しながら、ゆっくりと屋敷を離れるのであった。
今回は少し短いですが、きりのいいところが見つからなかったのでここまでにします。