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魔法使いレン  作者: 雪零
プロローグ
3/7

一つの終わり。そして始まり。


あるところに、二人の魔道士がいた。



「なあ、ここどこだ?」


「生前の私の屋敷だ。周囲の風景は随分と変わったみたいだけどな。」



二人の魔道士は、とある山岳地帯の奥地にある屋敷の一室で佇んでいた。



「変わったって・・・」



だが。二人の魔道士がいるこの屋敷。



「・・・屋敷全体大木に囲まれて外すら見えない有様なんだが」


「・・・私も驚いているよ。3000年も経つとここまで変わるのかと」



どうやら、人類未踏の地のようだ。











さて、みなさんお察しの通り、二人の魔道士とは蓮也とリーナである。

だが、幽霊となり、互いの願いをかけて『1000年』戦っていた二人がどうして二人揃ってここにいるのか。

それを今から説明しよう。










二人がまだ地球で戦いに明け暮れていた頃。


ある日、こんなやりとりがあったのである。




「蓮也もまた稀有な才を持っているものだな。それを満足に使えなかったのが死を悔いた理由か?」


「どうでもいいだろう。それより、よそ見してていいのかリーナ。油断してると足元掬われるぞ!」


蓮也とリーナが戦い始めてかなり経ったが、幽霊だからと死なないのをいいことに、やられても回復するなりすぐ立ち上がり、蓮也はリーナに休みなく挑戦し続けていた。



「それにしても、蓮也はよく粘るな。今まで私と戦ってきた者でも、ここまで折れずに立ち向かってきた者なんて1人もいないぞ」


「『生きたい』と願っただけでリーナと同じ体になった俺だぞ?他のやつとは1戦ごとの覚悟が違う!」


気迫を込めて蓮也は攻勢に出る。


「正確には少し違うな。私は人の形にこだわってはいないのでな。戦うことを願ったから、戦いやすい生前の姿にしただけだ。だが、何戦積み重ねようとまだ私には届かないようだな。蓮也!」


だが、その攻撃もリーナに見切られ、カウンターを受けて地に沈む蓮也。


「っ!・・・クソっ!これでもダメなのかっ!」


「悔しがることはない。今のはいい一撃だった。危うく負けるかと思ったぞ。」


実際、今の蓮也の攻撃が当たっていたら蓮也は勝っていただろう。

だが。


「今まで1撃もまともな攻撃食らってないくせに」


「はっはっは。まあ、そう言うな。私だってギリギリなんだ。どうやら、蓮也が器に詰め込んだ『存在』は、私の魔力を上回っているようだからな。」


「・・・それでも当たらなければ意味がない」


「蓮也はもっと柔軟に考えるべきだよ。考えてもみろ。たった一撃当てれば勝ちなんだぞ?」


「確かにそうだ。だがそれはこっちだって同じだ。俺だってリーナに一撃もらえば負ける」


そう。蓮也とリーナの魔力総量を比べると、確かに蓮也は勝っている。だが、二人魔力は共に人外のレベルにあり、少量の誤差など無いに等しい。互いの攻撃は互いの体の耐久力を上回り、どちらの攻撃も一撃必殺となりえる。

この場合ものを言うのは経験による差だ。『戦う動き』を体で理解しているリーナに比べて、戦闘など存在しない現代日本で育った蓮也は、いくらリーナに長く挑み続けているとはいえ、動きを身につけるのには時間がかかり、その差は到底埋められるものではなかった。


ではなぜリーナをして「ギリギリ」と言わせる戦闘を蓮也が演じているのか。

答えは、最初のリーナの発言の通りだ。


「まさか素で『思考の加速』なんて真似ができる人間がいるとはな。戦闘のないこの国ではさぞかし使い道の無い才だったろう。」


「そうでも無いさ。それにこれは思考を加速してるわけじゃない。」


蓮也の言うとおり、厳密には思考の加速をしているわけではない。

正確には「脳の処理能力を上げている」のだ。

蓮也は、味覚、触覚、嗅覚、視覚、聴覚の五感からくる情報を処理するスピードを上げ、その結果、体感的な時間を3〜5倍まで加速させることができる。

脳の機能を余すことなくフルに使い切るという、蓮也が物心ついた時から使える能力である。

その概要をリーナに説明すると、


「なるほどな。だが、まだ何かありそうだな。」


蓮也は顔を背ける。

確かにまだいくつかあるのだが、それをリーナに教える義理はない。情報を与えて相手を有利にしてどうする。


「それにしても蓮也。さっきは驚異的なバランス感覚だったな。あの体制から攻撃を放つとは。」


半分ばれているようなものじゃないか、と蓮也は嘆息する。


「そこまで感づいているならもうバレているも同然だ。少なくとも今この状況ではな。」


蓮也が隠そうとしているこの能力の、驚異的なバランス感覚というのは副産物に過ぎない。本領は別のところにあり、使用目的も違う能力なのだが、今この場の戦闘において使える物ではない。


「それじゃあそろそろ回復するし、もう一戦といこうか。」


「ふふふ。早く私を撃ち倒してくれよ」


そうしてまた二人は戦闘に明け暮れる・・・









そうして戦闘に明け暮れる日々を送って早1000年。

今日もまた蓮也はリーナに挑戦していた。

そして、再度負けようとしていた。



「今回もまた私の勝ちのようだな!」


「チッ!」



リーナが次々に繰り出してくる攻撃をギリギリでかわす蓮也。

いくらいくつかの才がある蓮也とて、長い時を生きたアルマギア最強の魔道士が積み重ねてきた戦闘経験には今一歩及ばないのであった。

しかも、リーナ自身も自分と同レベルの蓮也と戦うことによって成長している。

その結果蓮也は未だリーナを撃ち倒せないでいるのだった。



「(だがそれも今日までだ!)」



そう。今日の蓮也には勝算があった。

だがそれは、リーナが死亡時に使ったのと同じぶっつけ本番の魔術。

失敗すれば次はもう通じないだろう。また長い闘争の日々に戻ることとなる。

だから蓮也は、今までで一番の気合を込めて。




リーナの魔術に背中を貫かれた。






その瞬間。






リーナの背中を短剣で斬り裂いた。




「っな!!!!!」



絶句するリーナ。当然だろう。自分が勝ったと思った瞬間に背中を斬られたのだ。驚かない方がおかしい。

だが、どうやったのかがわからない。分身などではない。しっかりと体を貫いた手応えはあったし、分身なら2つの気配を察知しているはずだ。だがあの時、気配は確かに、リーナの魔術に貫かれた一つしか存在しなかった。

だとすれば一体なぜ。



「くっ・・・確か、ハア、ハア、蓮也の得意な魔術は、氷と、限定的に使える闇と、雷・・・っまさか!!!」


何かに気づいた様子のリーナ。



「そのまさかだ。俺は魔術を食らった後、自分の体を雷に変え、雷の速度でリーナの背後にまわり、背中を斬りつけた。」



その証拠に、蓮也の背中には確かに大きな傷跡があった。



「体を魔術に変え、もう一度肉体を再構成などしたら、私ならともかく、お前のその傷はもう治らないぞ。肉体の再構成は、あくまでも魔術に変換した瞬間の体に戻すだけなんだから。そして肉体はその状態で『完全』と認識してしまう。だから、それ以上回復することは、無い。」



そう。これがリーナならまだ回復することもできたのだ。彼女は別に人であることを望んでいない。戦いやすいのが人の形だったのだ。だが幽霊である今、存在の『器』の形を変えてしまえばいいだけだ。

片腕を失った後3本目の腕を生やすと考えれば分かりやすいだろう。

だが、蓮也にそれはできない。なぜなら、蓮也が願ったのは「生きたい」ということ。生前の姿を象るほど生きたいと願った以上人である以外に道はなく、器の形を人から大きく逸脱することは不可能なのだから。



「治らなくてもいい。これはお前を撃ち倒した勲章とでも思っておく。」


「・・・そうか。まあ、勝った蓮也がそう言うなら問題ないだろう。敗者は勝者に意見する権利など無いのだからな。」



嬉しそうな、されど残念そうな顔でリーナが言う。



「さて、そろその現実の肉体の器を作りにかかるとするか!」


「そうだな。元々俺はそれを目的にしていたんだしな。」



「なんだ、忘れていたのか?あれほど強烈に願ったというのに。」


「別に忘れていたわけじゃない。ただ、リーナに勝つことだけを考えてこの1000年過ごしてきたからな。考える暇がなかったというのが正しい」



蓮也も、曖昧な表情で受け答えしている。


だが最初の約束は、リーナを撃ち倒して消滅させる代わりに、蓮也にアルマギアでの生を与える、という物。今更約束を違えるわけにもいかない。

二人は気まずい雰囲気のまま、無言で器作りを続ける。



・・・。



・・・。



しばらくしてから、蓮也がようやく口を開く。



「なあ」



「なんだ?」



「あー、その、なんだ。リーナ。お前も一緒に来ないか?アルマギアに。今の俺たちが全力でやれば、それも可能だろう?リーナが死んでから3000年経ってると言うし、覚えてる人なんてごく僅かだ。顔だって変えられると言っていたじゃないか。」



心なしか早口で蓮也が言う。



「どうしたと言うんだ。私の望みは戦って撃ち倒され、消滅すること。今更生かしてくれ、と言い出したらおかしいだろう?」



苦笑しながらリーナが答える。



「でも、よく考えてみろ。今作っている(うつわ)は魔力そのもの。擬似的に人間と同じ機能を持ってはいるが、性能は人間とは違う。魔力そのものだから寿命なんてないし、病気にだってかからない。身体能力だって存在(まりょく)依存だ。強靭さもな。」



「まあ、概ね蓮也の言うとうりだ。でも、それがなんだと言うんだ?」



「そこに俺の今の実力を加えてみろ。勝てるのはおそらくリーナだけだろう。いくら生きることを渇望した俺でも、リーナの様に考える日が来ないとは限らない。そんな時、俺はどうすればいい?俺もリーナに習って、1000年も自分に匹敵する力を持つやつを探す旅に出るのか?そんなの、俺はゴメンだ。」



早口で次々と理屈を並べる蓮也。



「だから、お前も来てくれ。もしもの時の安全策だ。」



ポカーン、と。

少し唖然としてからリーナは吹き出した。



「プッ。ふふふっ。素直に『情が湧いた』と言えばいい物を。意地を張って。」



「・・・そんなんじゃない」



「まあ、いい。そうだな。私と同じ苦労をお前にさせるのもしのびない。『もしもの時の安全策』として、着いて行ってあげようじゃないか。」



楽しそうな笑顔でリーナは言う。



「蓮也が一緒にいれば、蓮也と戦えて私は満足だし、蓮也といると楽しい。それに飽きないからな。そうなると、蓮也はまさに私の生きる意味そのもの、と言うわけだ。なら、共に生きてみてもいいだろう。ふふっ。どうやら私も情が湧いてしまったようだ。」



二人は顔を見合わせて笑いあう。

少ししてから蓮也が口を開く。



「なら、そうと決まったからにはリーナの分の(うつわ)も作るべきだな。まかせておけ。とびっきりの美女に仕立て上げてやるよ。」

「なに!蓮也、それは今の私が美人ではないと言いたいのか!そんなに言うのなら顔なんてこのままでいい!覚えてる奴がいても知ったことか!」



実際、リーナは現時点でかなりの美人なのだが、どうしてあんな事を言い出したのか。



「(笑った顔が可愛くて照れ臭かった、なんて言えるか)」



蓮也も男なので、美人には弱いのであった。







・・・というやりとりを経て、冒頭に戻る。



「さて、リーナ。どうするんだ?この家に絡みついてる大木。」


一通り家の中をまわり終わった後、二人は外について相談を始める。


「屋敷の内部は状態保存の魔法がかかったままだったからそのまま維持されているものの、外は3000年という時間に任せて変動していったわけだからな。」


・・・。


「焼くか?」


「また物騒な事を・・・」


リーナがバカなことを言い出したので、止めてから代案を出す蓮也。



「風魔法で切り落としていけばいいだろう。」



・・・だが自分の代案もバカなことであるという自覚は無いようだ。


「ふむ。そうだな。そのほうがいいか。大木だからとはいえ、燃やして森林火災にでもなってもらったら困る。まだここを目立たせるわけにはいかないしな」


どうやらこの二人にとって、森林火災でまず注意するのは目立つことらしかった。


「それじゃあ、方針も決まったことだし。異世界アルマギアでの新生活、始めるとするか。」



こうして二人にとっての『二度目の生』はスタートを切るのだった。






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