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魔法使いレン  作者: 雪零
プロローグ
2/7

生と死を願う二人

二話目投稿できました!

これからも優しく見守ってください。

「っは!?」



目が覚めると、違和感を持つ。



「ここは・・・」



辺りを見渡し、絶句。



「っな!?なんで!」



彼は問う。一体なぜ、と。



「なんで俺がそこに倒れてる!?」



そう。彼の眼前に広がるのは、自分が血塗れで倒れ、家族がそれに泣きすがりながら必死で救命に励む姿だった。



「これはどういうことなんだ?一体なにが。」



そうつぶやきながら、彼、三神蓮也(みかみれんや)は考える。


「落ち着け。確か俺は、ゴールデンウィークだからと家族で旅行に来ていたはず。その後・・・っダメだ。これ以上思い出せない。」



そこまでの記憶なら、不思議なほど明瞭に思い出せるのだが、最近の記憶となると、まるで霧にでも包まれてしまったかのように、モヤがかかって思い出せないのだ。



「思い出せ。旅行に来て、それから」


「どうした?少年。」


蓮也が思い出せない記憶に悪戦苦闘していると、ふと声がかかる。



「誰だ!」


「ふむ。誰だ、か。そんな風に聞かれたのも随分と久しぶりな気がするな。」



受け流すようにその声は答える。



「誰だか知らないが、この状況を説明できるならしてくれ。全くもって理解不能なんだが。」


「ん?少年、自分の事なのに覚えていないのか?」


「ああ。気がついたらここにいたからな。家族と旅行に来て、それからが記憶にモヤがかかって思い出せない。」


「そうか。まだ死後数分といったところだからな。魂が幽霊として安定していないのだろう。」


なんでもないことのようにその声は言うが、蓮也にとって聞き逃せない単語がいくつかあった。


「・・・死後?幽霊?」

「ああ、思い出せないんだったな。では代わりに説明しよう。」


概ね予想は着いてきたが、蓮也は固唾を飲んで聞いている。


「落ち着いて聞け。少年、君は死んだ。そして、幽霊になった。」


「・・・そうか。」


「おや?存外冷静だな。もっと取り乱すかと思ったよ。」


「取り乱そうにもな。肝心の死んだ時の記憶が思い出せないから、全く実感がわかない。」


「なるほどな。では、実感がわくまで少し世間話といこうか。私も久しぶりに人と、いや、幽霊と話すからな。少し楽しみなんだ。」



「世間話というか、いくつか質問があるんだが。」



この場の情報源はこの声しかない。となれば、とりあえず聞いておかないといけないことがいくつかある。


「構わないよ。私としては、君が安定するまで時間が潰せるなら問題ないからね。」



許可を得たので、まず聞いておくべき質問を一つ。



「お前は一体誰なんだ?そもそもなぜ声しかよこさない。姿を見せることはできないのか?」


「さっきも言っただろう。少年、君はまだ幽霊として安定していない。だから私の姿が見えないんだ。実際は、すぐ近くにいるのだけどね。」


近く?と蓮也は周りに手を伸ばし、何かに触れないか試してみる。



「無理だよ。今の君では私に触れることはできない。」


「・・・じゃあどうすればいい。」


「そのためのこの時間だ。君の『存在』がしっかりと安定すれば、私にも触れるようになるはずだ。自己紹介は、その時にでも。」


どうやら今の蓮也はかなり不安定なようだ。

そのためのこの時間だというのならありがたく有効活用させてもらおう、と蓮也は考える。


「じゃあ次の質問だ。なんで俺に声をかけた。」


さっきとは違い、明確に答える声。


「それは目的があったからさ。少年、私の頼みを聞いてくれないか。」


頼み?

蓮也が首を傾げているが、構わず声は続ける。


「私の頼みというのは・・・」


「というのは?」


見えないはずのそいつとの間に緊張感が漂う。






「私を撃ち倒して、消し去ってくれ!!!」





・・・。



「ん?どうした?なぜそんな目をする?お、おい、離れるな!なんで後ずさる!」


ああ、見えてはいないがきちんと離れているのか、と蓮也は安堵し、さらに全力で駆け出す。


「おいまて!なんで逃げる!」


「そんな異常思考のやつから逃げない奴がどこにいる!」


「仕方ない、こうなったら無理にでも・・・」



もう、どうにでもなれとばかりに、蓮也はため息を付き、再度駆け出すのであった。







ーーーー数時間後ーーーー






「ハァ、ハァ・・・まあ、とりあえず事情はわかった。ハァ」


「逃げ足ばかりすばしっこいな、君は。おかげで追いかけながら説明する羽目になったじゃないか。全く、余計な手間を。」


やれやれ、とばかりに肩を竦めて見せる彼女

蓮也は思う。

・・・コイツ、後で絶対殴る、と。





この数時間に渡る鬼ごっこの間に、様々な事情が判明した。


まず一つ。やはり蓮也は死んだということ。

彼女の言うとおり時間が経って安定してきたのか、次第に死亡時のことを思い出せる様になったようだ。


「まさか、落下した鉄骨から女の子庇って死ぬとは・・・」


そう。彼は家族と旅行に来ていた。久しぶりの遠出であちこち眺めていた蓮也は、建設現場の上でグラグラしている鉄骨の下に、女の子が差し掛かろうとしているのを見つけた。

そしてどうやらその女の子を庇うために身代わりになって死んだ様なのだ。


「いいではないか。立派な死に様だと思うぞ。」


「戦って消えたがってるやつにだけは言われたくないセリフだな。」


二つ。この女の事情もわかった。

鬼ごっこの途中から姿が見える様になったのだが、どうやら女だったらしい。

そして、そいつの話によれば、女の名前はリーナ・ラミアス・クロイツと言うようだ。

どうやらリーナは異世界から来たらしい。


「さっきも言ってたけど、改めてもう一度確認だ。ほんっとーに異世界から来たんだな?」


あまりに突拍子もない話に蓮也もなかなか信じきれないようだ。


「当たり前だ。幽霊相手に嘘なんかついてどうする。確かに私は異世界『アルマギア』から来た。」


異世界アルマギア。改めて言われても信じられない、と蓮也は思う。

この女は魔術が存在する、異世界アルマギアというところから来た、蓮也と同じ幽霊らしい。


だがコイツが言うには、リーナは生前、世界最強の魔道士で、アルマギアでは叶うものなどいなかったそうなのだ。

そのため、「戦って死ぬ」という目的を果たすために、死んだ後も世界を渡って自分より強い相手を探していると言う。


「幽霊になったとはいえ、これじゃあ生前となんら変わりないよ。死んだ意味がないじゃないか。」



「なんとまーご苦労なことで。んで?どうしてその最強の魔道士サマが俺みたいな一介の幽霊になんの御用で?」



「さっきから言っているだろう。『私を撃ち倒してくれ』と。」



「無理に決まってるだろう。この世界には魔術なんて無いし、身体能力だって人並み以下だ。そんなんで異世界最強に勝てると思う程自惚れちゃいない。」



蓮也は至極当然のことを言う。魔術が使えるような相手に、普通の人間がかなうはずがないのだ。

だが、その当然のはずの言葉が否定される。


「それは違う。私は少年が強いから会いに来たのではないんだ。」


「じゃあ、なんだって言うんだ」


「少年。君はさっき、私から逃走した。そして今、私と会話している。それが理由だ。」


「は?」


またわけのわからないことを。そんなのあたりまえだ。と蓮也は思う。


「忘れていないか少年。君は今、幽霊なんだぞ。普通の幽霊がこんなにしっかりと形を持って存在し、生前となんら変わりない思考能力や身体能力を持っている。これは普通あり得ないことなんだ。」


蓮也は考える。普通ありえない?ならなぜ俺はこうして存在している?と。


「考えうる可能性は一つ。少年、君が死を悔いているからだ。」


「そんなの当然だろう。そりゃ死んだら悔しいさ。」


「そうじゃない。普通の人間よりはるかに強く、強烈に悔いている。」


「・・・なぜそう断言できる。」


断言するからには根拠があるんだろうな。と蓮也は尋ねる。


「もちろん根拠はある。通常、幽霊と言うものは生前、死ぬ瞬間の意志の強さによって、存在の大きさが決まる。それがいい方向か、悪い方向かは別にしてな。」


ふむ。なるほど。とばかりに蓮也は頷く。


「だが少年、君の存在はそれ程大きくない。それどころか生前と同じ大きさでしかない。それだけなら普通の幽霊と同じなんだ。」



「ならなぜ俺が人一倍悔いていると?」



「普通の大きさの幽霊は、意志を持ったりしない。ましてや、思考などできない。そして、自力でどこかに移動することもない。つまり、生前と全く同じ姿、同じ能力のまま幽霊になるほど君は生きていたいと願ったんだ。意志の強さのまま器ごと存在が大きくなると、それは紛れもなく幽霊だが、君はそれを拒んだ。そして望んだ。生前と同じ姿を。だから、君はその小さい器の中に濃密に存在を詰め込んだ。姿を保つために。結果、器の、つまり体の大きさはそのままに、生前と同じような状態で存在しているんだ。」



長い説明だったが、どうにか蓮也は納得する。


「・・・まあ、理解はした。納得はしていないけどな。それで?どうしてそれが俺に会いに来たことに繋がる?」


「簡単な話だ。今まで『存在』とばかり言ってきたが、存在とはつまり、アルマギアにおける、魔力のことだ。」


得意げにリーナは続ける。


「つまり。存在を余すことなく器に詰め込んだ君は、人と同じ器の大きさのまま、莫大な魔力を持っている、と言うことだ!だから私と戦え!」


「却下だ」


「なぜだ!戦える力ならあるだろう!」


「力があっても、使いこなせなければなんの意味もないだろうが。」


確かにその通りだ。だが、その程度で引き下がるほどリーナは甘くなかった。


「なら、私が少年に力の使い方を教えてやろう。」


「は?」


蓮也の本日何度目かわからない呆れ。


「なに、私と同レベルで存在を保っているんだ。時間はほぼ無限。私が教えれば力の使い方なんてすぐに覚える。勝てるようになるまで、何度でも挑み続けるがいい。」


「それでも却下だ」


「なぜだ!」


「俺にメリットがない。普通に成仏させろ」


確かにその通りである。蓮也がリーナに協力する必要などどこにもないのだ。

だが、それでもリーナは引かなかった。



「なら、少年の望みを叶えてやろう。」



「なに?」



今まで適当にあしらってきた蓮也が、初めてまともに興味を示す。



「お?食いついたな?そうだ。少年の望みは簡単だ。小さい器にそこまで存在を詰め込むほどの願い。『生きたい』という望み。私が叶えてやろう。」



「どうやってだ。今更生き返るなんて事ができるっていうのか?」


「流石にそれは私の力を持ってしても厳しい。それに、死んだはずの人間か生き返ったらおかしいだろう?だから、少年にはここではないところで生を与える。」


「・・・なるほどな」


「気づいたか。そうだ。少年、私に協力してくれると言うのなら、少年を異世界アルマギアで生きられるようにしてやろう。」


「具体的な方法はどうするんだ?」



蓮也は冷静に問いかける。まだだ、まだ我慢しろ。と自分を押さえつけながら。



「私と少年の魔力で、アルマギアに少年の体を作る。そうして作った器に、つまり現実の体に少年が入る。ただそれだけだ。」


「随分と簡単なんだな。そんなんで大丈夫なのか?」


「ああ。人間の体の機能を模倣するように作るからな。まあ、多少人より体が強靭だったり、身体能力が上がったり、寿命が永遠だったりはするかもしれないがな。別に顔を変えたり体格を変えたりしてもいいんだぞ?」


「そういうのはいい。まあ、プラスしかないのなら構わない。」


ツッコミどころが多いが蓮也はたいして気にしていないようだ。

それになんだか、体が段々うずうずしてきているようだ。



「だが、それには条件がある」




「さっきまで散々言ってたな」




「そうだ。私を『撃ち倒せ』!」




これで、確定だ。もう我慢しなくてもいいだろう。と蓮也は自分に語りかける。



「そういうことなら。喜んであんたを撃ち倒させてもらおうか」



「フフッ。やれるものならやってみるがいい!」



まだ生きれる、と。歓喜に震えながら、これからしばらくお世話になるパートナーと挨拶を交わす。




「俺がお前を撃ち倒すまでの間、よろしくな、『リーナ』」




「こちらこそ。『蓮也』が私を撃ち倒せるまで、よろしくだ。」




こうして二人は果ての見えない戦いを始めた・・・






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