四話:夜の街は危険
イスカーン帝国の町ノルン、首都程に発展してはいないが隣国 セシル王国の国境に位置する為、行き来する旅人や商人が立ち寄り、夜でもにぎやかにたくましく商売をする商人で溢れかえっている。
隣国、救世の国 セシル王国 勇者を異世界から召還する国として知られ世界を滅ぼすとされている魔王を討伐する為に呼び出される。
世界を滅ぼす存在とされる魔王を退けたという功績がある為、周りの国からは敬意を表し過去100年余りの間、戦争が起こった事はないという・・実際は勇者の力を恐れて攻めていないだけというのが事実である。
事実、最後に起こった戦争・・100年前に隣国が攻め込み起こった戦争に勇者を投入した結果、勇者は傷だらけになりながらも隣国の軍隊を壊滅させたという事実から勇者の力を敵にまわす事・・正当な理由が無い限り人に対して力を奮ってはいけないという暗黙の了解がお互いの国で成立した。
それ以降は100年間の平和が続き、勇者が死んだ場合はまた新たに勇者を呼び出し、魔王を討伐に向かわせているが戻ってこない者もいるが戻ってきた者も魔王の首を持ってきた者もいたが、魔王は何度も現れ、その度に新たな勇者を送り込むという事が繰り返されていた。
召還の儀式や勇者の詳細な情報などは王家のみが知っており、他に一切漏れていない為、民衆には神聖なる存在とされ崇められている。
さて、時間は夜中・・人々が眠る時間にフラリと二人の女性が国境の町ノルンの門の前に現れた
side:イズミ
「・・大分時間が過ぎてしまったな・・イズミ、今夜は宿を一緒にとらないか?金銭の事なら私が出すから心配はいらないぞ?」
「おぉ?・・うーむ、そこまでしてくれるとは・・ちょっと待ってね・・こっちを見てくれない?」
「む?説明すると約束したしな・・約束は守らないと人としてダメだからな・・どうした?」
イズミはジッと目を見る・・身長的に見上げる形になりアマリアもジッと見つめ・・手が動いた
「・・何で撫でてるの?・・気持ちいいけど」
「・・ハッ!?あ、いやすまない・・撫でやすい位置に頭があったから・・その・・つい・・」
「僕は小さいですからね・・結構気にしてるのでいじらないでください・・」
「あ、いやすまない・・悪気は無かったんだ」
見上げるイズミにアマリアは咄嗟に頭を撫でていた・・意識が戻らなければそのまま抱きしめていただろう・・少し赤い顔で謝るアマリアを見てイズミは別の事を考える。
(・・えぇー・・悪意の欠片も見えないって・・エルフってみんなこうなの?、約束を守らないと人としてダメって鳥肌が立ってしまったよ・・主に不快感で・・さてと、感情を見れば悪意は無い本気で言っているのが分かる・・ニンゲンじゃないだけど人の心を持っているはずなんだけどねぇ~エルフの心?みたいなのがあるのかなぁ~?・・・ここまで助けられると恩を返さないと気持ち悪いな・・まぁ、それはゆっくり後で考えようかな)
「うん、別にいいよーそれとお世話になりますね~この恩は近いうちに返しますね~」
「いや、別に恩が欲しくて私は助けた訳じゃないよ?人として当然だからな、だからそんな事は考えなくていいぞ」
アマリアは当然という態度で毅然とイズミの申し出を断った、その態度を見てイズミは少し顔を歪めて
(うむ、これはこう言うべきか何と男らしい人だ!・・女性の褒め方ではない・・はず?うーん、まぁ恩返しはするんだけどねー何らかの形で~人の為ではなく自分の為だしね~それに人として当然の事ねぇ~んー、それは本当に自分の考えナノカナ?・・まぁ、いいや人それぞれだもんねー考え方は~・・鳥肌が立つのは我慢だ!)
「むぐぅ・・ぬぅぅ・・おぉう・・」
「ど、どうしたんだ?なぜ頭を抱えて悶えているのだ?見ている分には癒され・・い、いや!何でもない!」
イズミの不快感(主に友情!愛情!正義!などの綺麗な言葉を聞くと不快感が上がる)が限界に達したのか、頭を抱えてクネクネと体を捻ったりしているイズミ、周りから見れば奇妙な光景だが小さい子が踊っているように見えて愛らしさも見える・・結果、アマリアが犠牲者になり顔を背けて鼻を押さえているのは気のせいだろう
「い、いや何でもないですよ?ちょっと拒絶反応というか鳥肌が立っていたので・・もう大丈夫です」
「鳥肌?ローブ一枚ではやはり寒いか・・?肌着なら宿に預けているんでな少し急ごうか」
「え?あぁ、いえいえ~寒くはないので大丈夫ですよ~服も貸していただけるのですか?ううむ、本当にお世話になりっぱなしだなぁ」
「あぁ、遠慮はいらないぞ?裸でいさせる程、私は無頓着でも冷酷でもないからな」
(ふむ、見た目通りに生真面目な人っぽいなー・・いや、冷酷って・・お人好しの間違いじゃないのかなー?ここまでする手助けしてくれる人も珍しいですしねー)
そんな話をしている内に2人は門番と話をつけ、町の中に入った・・途中、門番がイズミを見て「勇者様では・・?いや、召還の時期は先だからまだのはず・・気のせいか」と呟いていたのをアマリアは気がついてなかったイズミはしっかり聞こえていた。
(ん?勇者様?ほへー・・勇者もいるんだーと、いうより何故に僕が勇者と間違えるんだろ?どっちかというと魔王様の方が似合ってると思うのにー・・闇を操るし・・)
そんな考えも町に入った時には考えなくなった、興味が他に移ったからである
(おぉー!木造の西洋住宅?・・うーん、ちょっと違うっぽいけど石の道路も珍しいなーおぉ!?金槌のマークが書かれているこの家、もしや鍛冶屋さん!?おーすごいなー見てみたいなー閉店してるけど)
新しい発見で溢れている異世界の町にイズミは周りに対しても無関心だったがこれには関心を示していた、死んだ目からキラキラと輝く目に変わりウロチョロとフラフラ歩いていた、本来ならば早くいくぞと注意するであろうアマリアは微笑ましい光景に足を緩めてゆっくりイズミのペースに合わせて歩いていた
「おぉー?ここが宿屋さん?ほへー・・ベッドのマークもついてて分かりやすいなー」
「あぁ、まぁこれは大陸全体に広がっている風習でね?分かりやすくて便利だろう?とりあえず体が冷えてしまうかもしれないから入ろうか」
「分かりました~お邪魔しま~す」
木のドアを開けると広間に出た・・どうやら食堂も兼ねているようだ入って右を見ると台の上にふくよかな女性が眠たそうにしていたがドアが開く音で目が覚めたのか入ってきた2人を見つめた。
「おや?あらまぁ~アマリアちゃん帰ってきたのね、無事で何よりだわ!」
「ああ、ただいまアルクさん突然の申し出ですまないのだが・・2人部屋か1人部屋は空いていないか?」
「おや?そこの可愛らしい娘はどうしたんだい?・・アマリアちゃん・・私はあなたがどんな趣味を持っていたとしても見捨てないよ・・むしろあたしは応援するわ!」
「ちょっと待て!?何か誤解しているだろう!私はあの子が森で困っていたから連れてきただけだ!」
おばさんは客人であるアマリアが無事に帰って来た事を喜び、ふと目を横に向ければ可愛らしい少女が立っていたのを見て何かを悟ったのか目に炎を燃やし拳を握りしめ熱弁していたが、アマリアも意味に気づき慌てて誤解を解こうと必死になっていた
「あら、そうなの?残念だねぇ・・未知の扉を開くと新しい世界が見えるらしいよ?試してみるのもいいかもしれないよ?」
「わ、私はそんなつもりで連れてきたのではない!イズミも誤解だと言ってくれないか!・・・イズミ?返事がないがどうし・・また寝ているのか・・森から歩いてきたのだから疲れているのだろうか?」
「むぅ・・こ、このチャーシューを作ったのは誰だ!?・・ぐぅ・・」
アマリアがイズミの返事がないので振り向けば傍にあったイスに座り机に顔を置いて寝ているイズミがいた、ただし寝言の言葉に((チャーシュー?))と、言葉の意味が分からない2人が疑問に思ったがこのままでは風邪を引くのではと思いアマリアはイズミを背負い・・ではなく所詮、お姫様抱っこと呼ばれる抱き方をして2階に運ぼうとした
「あら?その子もしかしてローブの下は裸なの?・・もしや・・もう終わっていたというの!?手が早いんだねぇ~アマリアちゃん・・攻めの方かい?」
「な、何も手は出していないし攻めでも受けでもないぞ!?最初から裸だったんだ!だからローブを着せて『はいはい、分かってますから2階に運びなよ?抱えてる子が起きてしまうからねぇ』ぐ・・分かったとりあえず私の部屋で寝かせる事にする・・それと空きの部屋はないか?」
「あぁ、それね~悪いね、今の時期は満室になりがちでね・・今夜も部屋が埋まっているんだよ」
「ああ、そういえば勇者様が召還される時期が近づいているからか・・すまない、アルクさん無理を言ってしまって」
アマリアは頭を下げて2階へ向かおうとすると
「ああ、こっちも悪いね~お詫びといっちゃなんだけど明日の朝食は2人分無料にさせてもらうよ!」
「いや、それは申し訳が『人の親切は受け取るべきだよ?断る方が失礼な時もあるんだしねぇ』・・分かりました、助かります・・それでは」
再度、ペコリと頭を下げると2階に上がり自分の部屋のドアを器用に抱えている手で開けて中に入った時にふと目を開けたイズミ
「うぅん・・?あれ?ここはどこだろ?僕は誰ー?イズミです~・・あれ?アマリアさん、何故そんなに顔が近いんですか?」
イズミは目を覚ますと寝ぼけていた目をこすり足が宙に浮いてある事に疑問に思い周りを見渡した
(うーん、えーとアマリアさんに抱っこ・・しかもお姫様抱っこ?だったかなぁ?その抱き方で抱えられてると・・え?何で?何が起こったの!?さすがの僕でもこれは恥ずかしい!)
「ちょ、ちょっと降ろしてもらえませんか!?と、いうより何故こんな状況になってるんですか!?」
「・・ぇ?あ、あぁ覚えていないのか?私がアルクさん・・宿の人と話している最中にイズミが寝てしまっていたのでな・・起こすのも悪いと思って運んできたんだ・・迷惑だったか?」
さすがのイズミもこの状況では慌てたのか急いで降ろしてもらい事情を聞くと、あぁ~それでか~と納得したものの
(・・何でだろう?女性になった時みたいに、何か大事なものが削られていくような・・しかもガリガリと音を立てて・・うん、この感情は悲しいのかな?よく分からないやーアハハー)
突然ポケーと天井を見上げてブツブツと呟きだしたイズミを見て慌てたアマリアが話しかけた
「あー、いや・・すまない起こすべきだったな・・今度からそうさせてもらう、すまない・・とりあえず服・・肌着だがこれでも着ていてくれ」
「いえいえー・・アマリアさんは悪くないですよーむしろ良い方ですよー・・うん、少し泣きたくなっただけですよ・・っと・・おぉーありがとうです~」
差し出された服をまじまじと見る、色は茶色でズボンと長袖のシャツのシンプルなものだが肌触りから知っている素材とは少し違うようだとイズミは思った。
「いや、すまないなイズミに似合わない服で・・私がもう少し女らしければ可愛い服も買うのだが見ての通り・・その・・無骨でな服に気を使った事はないのだよ」
「ほぇ?アマリアは可愛い服も似合うと思うよー?んー、顔も可愛いというよりも綺麗だと僕は思うよー?」
「わ、私が綺麗だと!?冗談は止めてくれ!・・私のような女など誰も女として見てくれないさ」
イズミがアマリアに対して思った感想を言うと顔を赤くしたアマリアは最初は戸惑っていたが最後は落ち込んだ表情になっていた
(あらら?・・これは謙遜じゃなくて本当に思ってそうだなー・・また珍しい性格してるなぁ~異世界の人って個性的なのかなぁ?・・ふむ、とりあえず恩返しではないけど思った事でも伝えようかな?)
「うん?僕は女性で綺麗な人だなーって最初に会った時に思ったよ?・・よし、えーと宿の女将さん?に私は綺麗だと思いますかー?って聞いてみたら絶対に綺麗だよ~って答えると思うよ?んー、自分に自信を持つって事が大事だよって誰かの言葉だけどアマリアには自信を持って欲しいなー」
(うん、少しはこれで気分が良くなってくれればいいなー人の為ではなく僕の為に・・少しでも恩返しを受けてもらわないと困るしねーしかし、自信を持つ事が大事・・と、鳥肌が・!?不快感がぁ!?)
「イズミ・・そこまで言ってくれるのであれば・・そう、なのだろうか?・・いや、そうなんだろうな・・ありがとう、少しは自信がついた気がする・・それにイズミも凄く可愛いと思うぞ?最初など見惚れてしまったのだからな・・ん?どうした?」
「い、いや元気になってくれたのならいい・・よ・・それに僕に可愛いなんて言わないでお願いだから」「む、自信を持てと言ったがイズミも自信が無いのではないのか?今度は私が励ます番という訳だな?安心してくれていい、イズミは私が見てきた女性の中でも一番可愛らしいと思うぞ!」
アマリアは少し微笑み、励ましてくれたイズミに感謝していたが今度はイズミ自身が可愛くないと言ったと勘違いしたのか胸を張って何故か誇らしくイズミに対して激励の言葉を送った
対するイズミは最初は鳥肌のせいで腕を組んで擦っていたが、アマリアの可愛いという言葉がトドメになったらしく頭を抱えて悶えだした
(ぐ、ぐわぁぁ!?せ、精神的にキツイ!しかも何でアマリアは誇らしくしてるの!?どうしてこうなった!女性になってから気にしないでいたのにこういう時に思い知らされるなんて・・うぅっ)
「む、寒いのか?ならば早くベッドに横になって寝た方がいいな、本当なら2人部屋か1人部屋を用意して寝かせてあげたいのだが・・満室でな私のベッドで寝てくれ、私は床で寝るからな・・っと、そうだったな説明すると約束していたが明日にしよう今日はもう遅いからな」
そう言うとアマリアは壁を背に剣を近くの床に置いて、休む体勢を作っていた
(・・え?何?このエルフ・・どれだけ聖人君子なの?エルフって皆こうなの?うぅむ・・エルフの国にでも行ったらずっと悶えてそうだなぁ・・実は天敵だったり?うん、とりあえず止めなきゃね~)
「いやいやいや、普通は僕が床でアマリアがベッドで寝るべきじゃない?と、いうより失礼な質問かもしれないけどエルフって皆こうお人好しなの?」
「む?私は鍛えてるから床で寝ても問題はないぞ?・・ふむ、いやエルフは基本的に他者に関しては・・その排他的というか・・まぁ、あまり友好的ではないな・・私が変わっているだけだ」
イズミが質問をすると、アマリアは自嘲気味に薄く笑って返した
(へー、エルフが全員アマリアの性格だったら・・いや、思想か・・だったら絶対に近づかないな・・・しかし、返しても返しても何かドンドン恩が増える気がする・・!これは少しでも減らさないと)
「ふむふむ、なるほどねーとりあえずベッドで寝ないのならば僕も一緒に床で寝るねー」
「いや、何故そうなるんだ!?私は大丈夫だと『僕の気分が悪くなるからだけど?』む、そうか、考えが足りなかったな・・すまない、それならば・・一緒にベッドで寝るという事でどうだ?」
(うーむ・・ちょっとキツイ言葉だったかなーって思ったんだけどなー・・謝るとは・・むぅ、調子が狂うなぁ・・ここまで良い人・・良いエルフ?は見た事ないからなぁーまぁ、少し興味が沸くけど)
イズミは新たにアマリアという人物を今まで感じた事のない性格に興味を抱き始めていた
「さて・・と、私は入ったぞ?早くイズミも入ればいい」
「うん、そうするよー眠くなってきたしねぇ~・・ふあ~ぁ」
先にアマリアが入り次にイズミが入る番になったのだが眠気が襲ってきたのか小さく欠伸をした
その様子を見てアマリアは少し頬を赤く染めていそいそと自分は端によっていった
「よし、おやすみ~・・って何でそんな端に寄るの?・・僕の事がそんなに嫌い?」
「い、いや・・そういう訳ではないのだが・・邪魔になると思ってな・・だから私は『はぁ・・いいからこっちに来ててっ』っと!分かった、ここで寝ればいいんだな?・・手を離してくれないか?」
(こんな所で更に恩を作ったら返す量が増える!・・何この目を離したらいつのまにか凄く増えてそうなんだけど・・これは離したら駄目だなぁ・・少し恥ずかしいけど仕方ないか)
グイッとアマリアの手を引っ張り自分の方へ体を寄せさせ腕を逃がさないようにして胸の近くで手を掴んでいた
「嫌だよ、断るよ、否定するよ、だって離したら逃げそうだし・・それじゃぁおやすみ~」
「あぁ、おやすみ・・って待ってくれ!・・その・・当たっている『むぅ・・すぅ・・』・・寝るの早くないか!?・・っと、起こすのも酷か・・しかし・・これは・・!」
(むぅ・・あたたかい・・なぁ・・気持ちよく・・寝れそうだなぁ・・ヒトってあたたかかったのかなぁ・・?うん、でも・・今はどうでもいいやぁ・・)
スヤスヤと腕を掴んで眠るイズミ、少し微笑んでいるのは眠れる場所が確保された嬉しさか・・それとも人と一緒に寝る事への嬉しさなのか・・はたまた他の嬉しさなのか・・本人以外に知る事はなさそうだ
・・・ただし、隣で様々な表情を浮かべて悶えている女性がいるのは気のせいだろう
side:アマリア
「嫌だよ、断るよ、否定するよ、だって離したら逃げそうだし・・それじゃぁおやすみ~」
「あぁ、おやすみ・・って待ってくれ!・・その・・当たっている『むぅ・・すぅ・・』・・寝るの早くないか!?・・っと、起こすのも酷か・・しかし・・これは・・!」
(イズミは気がついているのか?その・・腕に柔らかい感触が・・気になるのは私よりも遥かに大きいという事だ・・その・・アレが・・何故だ!?どうしたらあんな大きさになるのだ!?・・聞いたら教えてくれるだろうか?・・しかし、こうしていると変な気分に・・ハッ!?落ち着け・・私、この程度の苦難を乗り越えずしてどうな「むにゃ・・アマリア・・面白い子・・だよ」・・私の夢を見ているのか?・・それはそれで嬉しいのだが面白いとはどういう事だ?)
アマリアはチラリとイズミの方に顔を向ける楽しそうに無邪気に微笑みを浮かべながら寝ている、見ていると癒される・・どこか守りたくなるような雰囲気が漂っていた
そこに僅かな香りが嗅覚を刺激した
(ぁ・・良いにおいがするな・・花の香りのようだ)
ふと気がつけばイズミの漆黒の髪があり、そこから香りがするようだ・・気がつけばアマリアは空いている右手で髪を触っていた
(・・サラサラとまるで川の様に流れるな・・それに・・この香りが・・少し・・そう少しだけなら香りを確かめてもいい・・はずだ・・そう、何の香りか気になる・・から)
手で束になって重なっている髪から目が離せなくなっていた・・ただジッと見つめていた、己の理性が止めろと痛い程に叫んでいるのが分かる
しかし、目が離せない顔がどんどん熱く、赤くなっていくのが分かる・・これは卑しい行為ではない、ただ何かしら香りの秘密が気になるだけだと何度も心の中で復唱した、息も今では荒くなってきていた
己の口に貯まった唾を何度か飲みこんだ後・・ゆっくりと自分の手にあるものを近づけていった・・
顔に近づけると大きく息を吸う
(あぁ、良いにおいがする・・ずっと嗅いでいたくなるような・・そんな香りだ・・)
しかし、何度か呼吸を繰り返していても異常に喉が渇いてきた・・満足するどころか更に悪化してしまう
チラリと横のイズミを見るとスヤスヤと愛らしい笑顔を浮かべて寝ている、しかし自分の目は小さな唇に目がいってしまう ヤメロ コレイジョウハダメダ 己の理性が悲鳴を上げている事を理解している
しかし、視線はただ・・見つめてしまう・・右手でイズミの肩を抱き寄せ・・
「むぅ・・父さん・・それは駄目だよ・・」
「ッ!?・・ハァ・・ハァ・・わ、私は何をしているんだ・・!」
(危なかった・・私はここまで卑しい人物だったのか!?・・くっ・・平常心だ・・私は・・最低な事を行う所だった・・!)
アマリアは己の行為を振り返り、確かに喜んでいた、光悦としていた、無防備な相手に対して興奮していた・・その事実に対してアマリアは自分を責め続けていた。
・・・当の本人はスヤスヤと変わらぬ寝顔を見せていたが、そして夜の時間は進んでいく。
今度は絶対に誘惑に惑わされん!とばかりに顔を赤くしたまま歯を食いしばって必死に寝ようとしているアマリアがいたそうな。