表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽典Ⅱ  作者: 萩井灰介
2/28

二話:少年(少女)は異界で誕生

side:???


そこは暗い森の中。今宵は満月、魔に生きる者達にとっては己の本来の力を振るえる時

付近の町や村は満月の夜は外を出歩かないようにするのが基本である

なぜならば魔に生きる者達・・魔物と呼ばれる異形が生息しているからだ

その危険とされている満月の夜を歩く、西洋の騎士に似た甲冑の装備を夜の月の明かりにキラキラと反射するその金色の髪・・それだけでも目立つ程に美しいのだが、何より目につくのは彼女の耳がピンッと立っていることだろう


「む…魔物にあまり遭遇せんとは……今夜は満月なのだから無数に出てくると踏んでいたのだが・・当てが外れたか?まぁ、それはそれでいいのだが……っと!」


彼女の言葉を遮って草むらから一つの黒い影が躍り出て彼女に飛び掛った

とっさに身を屈めて頭上を通り過ぎた黒い影を睨む

月明かりに照らされ姿を確認すると黒い大型犬だった・・ただし額に目がなければ普通の犬と判断しただろう


「言った途端にこれとは……運がないな…ッ!!ヘルハウンドか!と、すれば群れで行動するはず何だが…っそこか!」


「ギャィン!?」


とっさに彼女は後ろに飛び横から攻撃を仕掛けてきた魔物に対して己の獲物である剣を抜き横に振るった

魔物は前足を両方切り落とされ満足に動けないようでジタバタと地面でもがいている


「よし!残りは…3匹か」


仲間が倒されたのに怒りを覚えたのか唸り声を上げて目の前の木々の陰から2匹が出てきた


「ふむ、目の前にいるのならありがたいな《風の精霊よ!我に仇なす害敵を屠る風の刃を解き放て!》」


彼女が己の精霊を使途する為に心の中で念じると、彼女の頭上に緑の髪をした精霊が現れ魔物の方に手を向けると風の刃が出現し魔物を切り裂いた、残るは地面で前足を失い立つことができない魔物のみ


「――抵抗できない相手を殺すのは嫌な気分になるのだが…しかたないか」


彼女は持っていた剣で魔物の頭に剣を突き立てた、悲鳴すら上げずに魔物は息絶えた


「さてと、ヘルバウンドの交換素材は牙と皮だったな」


魔物の素材は生活用品から武器防具と幅広く使われる為、素材を冒険者ギルドに持っていけば換金してもらえる、彼女は手馴れた様子で腰の袋から大型ナイフを取り出しテキパキと剥ぎ取りを行った


「目的の満月草が生えているのはこの先の川にあったな…」


彼女が歩き続け木々を抜けた先の目的地である川につくと目を疑うような光景があった

そこには長く……夜を示すような漆黒の長い髪を地面につけ…血のように赤い紅い瞳をこちらに向ける少女がいた、ただ生まれたままの姿でこちらをじっと見ていた彼女は目を逸らすことができなかった・・満月の光に照らされた少女は幻想そのものであった、彼女が動けないまましばらく後に少女が口を開いた


「こんばんは…いい夜ですね?ところでここはどこなんでしょう?」


side out


side:イズミ


「んむぅ…あれ?ここどこだろ…森?」


(えーと、僕は神様――メルちゃんに異世界に転生したんだっけ?うーん、こういう時はぁ~現状確認?

が鉄則ってどこかで聞いたような……目の前に川が流れているけどキレイな水のようだから飲めそうだね

他は…あ、そうだ!竜になったんだったかな?んー、でも人の形だし、手もある足もある胸もある

うん、人間は嫌いだけど人の形は便利だからいいや~……あれ?胸?)


少年―いや、少女は自分の胸をムニュムニュと揉んで確かめている。顔が段々と青くなっているのは気のせいではないだろう


「……え?僕、女になったの?え、何で?」


無表情から驚愕の表情に、イズミは両手を地面につけて落ち込んでいる状態が3分程続いた後に


「うーん、気にするからダメなのかなぁ?鏡…あぁ、川でいいかな…どれどれ~?」


イズミは落ち込んだ状態から無表情になり好奇心からか少し笑顔になりと顔の表情を変えながら川へ向かった

川を覗くと絶世の美少女と呼んでも何らおかしくない程の少女がいた、紅い目が妖しく光り夜を閉じ込めたかのような漆黒の髪、その少女は自分の生まれたままの姿を映し出していた


「あ、裸だったんだね~寒くないから気がついて……えぇ!?裸!?」


イズミは今さらながらに気がついた…と、いうより確認した時点で普通は気がつくものだが


「うーん、すごく綺麗だなぁ~とは思うんだけど自分となると…ナルシスト?

あ、でもこのままだと不審者にしか見えないし……服」


少女は首を捻りその場に座って考えていた所に突如、近くの草むらがガサガサと音がした

少女は座ったままジッとそちらを見ていた恐怖もなく困惑もなく


(狼とかクマでも出るのかな?食べられちゃうな~。あ、でも可愛かったらなでたいなぁ~)


とりあえず待っておこうと座ったままの状態でいた


ガサガサと音を立てて出てきたのは騎士のような装備を整えた女性だった

満月に照らされた金色の髪と整った顔が一枚の見事な絵になりそうな程に美しかった

しかし、イズミが見るのは耳のツンっと立った耳であった


(あれ?耳が尖ってる……人間じゃないの?…うーん、人間じゃないなら良いんだけどなぁ

話しかけてみようかな?どうしよう?えーと、笑顔で話すと好感が得られるんだったかなぁ?

試してみようかな、ここがどこかも聞きたいし)


「こんばんは…いい夜ですね?ところでここはどこなんでしょう?」


(うん、これで良いはず。笑顔って難しいなぁ…あれ?何で話さないんだろ?顔が赤いけど怒ってる感情でもないし…困惑?あぁ!そういえば裸だった!)


「…ぁ、いや、その、こんばんは…っいや人がいるとは思わなくて…その、驚いて…ジロジロ見てすまない」


彼女はしばらくの間、少女を見ていたが慌てて視線から外す


「ぇ?いや、僕も何故ここにいるのかが分からなくて…ここがどこか教えていただければありがたいのですが・・」


「ここにいるのかが分からない…?聞くが、君は記憶が無いのか?ここはアズクハルの森だ

近くにある町はノリスだが聞いた事はないか?そもそも今夜は満月……よく魔物に襲われなかったな?――まさか魔人なのか?」


彼女はそう呟くと自分の武器である剣を抜いて構えた

それ行動に対して少女は淡々と答えた。無感情に少しの笑みを口に残して


「んー、記憶は無いに等しいかなぁ?話を聞いてるとアズクハルの森もノリスって町も知らないし・・

満月だと魔物…あれ?魔物っているんだ…へぇ~。それに魔人って僕のこと?うーん、魔人って

どんなものか分からないから答えられないんだけど…それより」


『僕を殺すの?』


「っ!魔人…い、いや人々に危害を加えなければ何もしない」


彼女はイズミの最後の言葉を聞いて怯んだ


(何だ今のは!?私が怯えるだと…?殺気でもない威圧でもない何だこの得体のしれない感触は)


イズミは感情を何も出さなかった、自分が不幸……殺されようとする状況に恐怖ではなく、こらえきれなくなった「楽しい」「面白い」という表情を感情を出してしまったが為に彼女は怯んだのだ


「んー、危害を加える気はないよー?襲われたりしたら別かもだけど~」


「あ、あぁそうか。いや、それは自己防衛の範囲でならば構わない、いきなり剣を突きつけて無礼だった…すまない」


「おぉ?普通は当たり前じゃない?こんな夜に裸でいるのも怪しいしねぇ~。あれ?剣を構えなくていいの?危険かもしれないよ?」


イズミは楽しそうに喋り、彼女は剣を腰につけた鞘にしまい頭を下げて謝罪した

その様子にイズミは不思議に思い尋ねてみた


「いや、本当に知らなさそうだし魔人であるならば問答無用で襲い掛かってくるだろうしな。それに

怪しいことに変わりはないかもしれんが危害を加えようとする者が危害を加えるかもしれんと聞かん

だろうしな」


「んー?魔人ってそんなに凶暴なんだー?だけど罠かもしれないよー?後ろを向いた時に襲わないとは

限らないと思うんだけどなぁ~?」


イズミはニヤリと意地悪そうに尋ねるが、彼女はハッとして慌てて顔を赤くして逸らした

…イズミが意地悪な質問をする際に前屈みになり、谷間が余計に強調された為でもあったりする


「そ、そういえば服を着てなかったな…ほら、このローブを着ればいい少しは隠せるだろう」


(あれ?スルーされちゃった?むぅ、いじると楽しそうな人なのになぁ~でも裸も嫌だし我慢しよう)

「おぉ?ありがとう~♪…あれ?何でそんな小さい袋から出せるの?」


腰の小さい袋から取り出した事に驚き目を丸くした。取り出したローブがイズミが頭から被っても

足まで届く長さだというのに袋はリンゴを4個ほど入れればパンパンに膨らむだろうという大きさなのだ


「あぁ、これは魔道具でね空間魔法をかけているんだよ、

だから見た目よりも多く入れられるという訳さ」


「おぉ~!魔法があるんだぁ……すごいなぁ~」


ローブを体に巻いて興味深そうな目から一転、キラキラと小さい子供のように無邪気な笑顔を浮かべる


(か、可愛い!い、いや落ち着け…取り乱してどうする!)


「ゴホン…いや、とりあえず自己紹介をしないか?私はアマリア、冒険者ギルドに所属しているランクはBだ、種族は――耳を見れば分かると思うがエルフだ」


「おお!エルフでしたか!…あぁ、名前を交換してませんでしたねぇ~僕はイズミです~…冒険者ギルド?には所属してません~種族は――言わないとダメですかね?」


「あぁ、エルフは基本的に森に住んでいるのだから見かけないのは分かるが…種族が言えない?

ふむ、記憶がないから言えないのか?」


「あぁ、いえ~記憶というよりも…この世界の知識が無いんですよね~恐らく基本的な事ですら~

教えて頂けると非常にありがたいのですけれど。種族は分かるんですけど…言うとややこしくなるというか何というか」


(だって神竜って言っても人の形してるしなぁ~信じてもらえないだろうし)


うーんうーん、と唸るイズミを見るアマリアは最初は静観していたがため息をつき


「――分かった深くは聞かない事にする…とりあえず私は満月草を採りにきたんだ、その後で町に帰るのだが一緒に来ないか?私としてもここで別れた場合、見捨てたようで後味が悪いしな…それに基本的な事なら世界に関する事も教えよう」


その言葉にイズミは じっとアマリアを見つめる感情を探っているようだ


(な、なんだ?疑うというのも分かるが……見つめられると恥ずかしいのだが…)


段々と顔が赤くなって挙動不審になっていくエルフ、そしてじっと目を見つめる神竜…シュールである


(害意は感じられない困惑してるけど…親切な感情かどうかは探るの苦手なんだよね)


「…お人好しってよく言われない?そんなんじゃ騙されるよ?でも、ついていってもいいのならよろしくお願いしますアマリアさん」


「うっ…よく言われる事なんだが…ああ、よろしく頼むちなみにアマリアでいいぞ?私もイズミと呼ばせてもらおうか。この辺りは魔物が出やすい時期になっているんだ…離れないでくれよ?」


「あ、ハイ分かりました~アマリアの近くにいるよ~」


そう言うと二人はお互いの顔を見合わせ微笑んだ

イズミはエルフという種族とアマリアの性格に興味を抱き、ついていこうと決め

アマリアはイズミを少し性格が悪そうだがおもしろい少女という印象を受けていた


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ