一話:泉(旧)⇒イズミ(新)
ひねくれ者の寄り道 IN 異世界
side:黒髪の少年
そこは真っ白な空間だった、ただ何もないのが当たり前のような静寂な世界
その世界に何の前触れもなく、音すら出さずに突如暗い闇が空中に浮き出てきた
その暗い闇は数秒程ふわふわと浮かび、やがて丸い泡のような形に変えていく
すると突然パンッと音と共に泡のような中から少年が出てきた
「――あれ?寝てたはずなのに何でこんな所にいるんだろ…?」
髪は黒色、背は150センチ程度だろうか顔つきから見ても小学生にも中学生にも見える
少年は真っ白な空間をキョロキョロと辺りを見渡すが何の手がかりも得られないようだと悟ると
立っていた地面(?)に座りだした
「はぁ…めんどくさいなぁ…いいや、寝よっと夢なら覚めるだろうし
起きてこの状態なら目覚めてから考えればいいや」
そう呟くと、少年はゴロリと横になり目を閉じた
「いや、君……普通は驚いて混乱したり状況を把握しようと何かしらの行動を起こすと思うのだが」
「…ん?誰…?夢の住人?に、しては妙にリアルだなぁ」
少年が声がした方に閉じていた目を開けて前を向いて見ると周りの白い空間を吸い込むかのような黒い髪に血のように赤い目をした呆れた表情で青年が立っていた――年は20代前半だろうか
「いや、私は夢の住人ではないよ?ここは君と話がしたいから作った世界なんだよ
作りたてだから何もないけどね?」
「へー、夢じゃないんですかー…あれ?世界を作ったんですか?
ならばあなたは神なのですか?」
「うん、そうだよ…ってそれでも驚かないんだね
無表情というより感情が表にでないのかな?」
青年は好感が持てる笑顔を浮かべ明るい口調で少年の質問に答えていた
対する少年は無表情…特徴がないように思えるが目が
死んだ魚のような目に見えるのが特徴だろうか
「まぁ、そんな所ですかね。それでわざわざ世界まで作ってまで
僕に話したい事って何ですか?…っていうか寝たいし…眠い」
「うっ何か言葉に毒があるような……うん、理由は君に謝りたいかったからさ
死なせてしまったからね、償わせてほしいから呼んだんだよ」
「…死なせた?体がここにあるのに?あぁ、痛みがないね、死んだのか」
少年は淡々と青年とは目を逸らして無表情に頬を抓りながら答え
青年は顔を歪めて頭を下げた状態で話した
「あぁー死んだのか…ん?へぇ…いいよ
許してあげるけど何で死んだのか教えてくれる?償いの方は後回しにして」
「え!?許してくれるのかい!ありがとう!」
青年は頭を上げて、周りが見れば子供のように無邪気な笑顔を浮かべていた
少年の方は目を逸らして無表情のまま淡々と話していたが途中から
青年の方へ目を向けるとニヤリと笑った…ただし目は暗い死んだ目のままだが
「私に答えれる事なら何でも答えるよ!そうだね、君はバス停で学校へ向かう
途中だったんだ。立ちながら寝てたけどそのバス停でバスの運転手が居眠り
運転をしていて君を含めて複数の人達が怪我をする運命だったんだ……。
それを変えたくて運命を操作したんだけどね、僕のミスのせいでバスは横転して
そのまま君を巻き込んでしまったんだ。周りの人はとっさに避けれたんだけど
…君は寝てたから気がつかなかったみたいだね。…すごい音出てたんだよ?」
青年は苦笑を浮かべて少年の方を向き返事を待った
「うーん…そうなのか。――立ち寝の特技を身につけてから
どこでも寝れると喜んだのに仇となったかぁ」
「いや、特技ってすごく無駄なような――それで君を生き返らせたいんだけど
体が押しつぶされたせいか再生不能な状態でね。お詫びに異世界の方で能力を
授けて転生させようと思うんだ、僕の神としての位は低いから能力は1つしかつけれないけどね」
「あらら。グチャグチャなのね…まぁいいや、それでどんなミスしたの?」
少年は楽しそうに目も三日月に描いて聞いた、とても楽しそうに
「え?あ、あぁ、いや運命を操作してる最中に集中が切れてそれでミスを…「運命を操るんだから簡単な事でもないと思うんだけどなぁ。今までした事あるの?」ぁ・・いや、これまでもした事もあってできると思ったんだ・・」
ニコニコと目の前の赤目の青年の言葉を遮って、更に質問を重ねる少年
「へぇ。じゃぁ位が低いのに異世界に転生できて、能力も与える力があるんだ?
それなら僕の世界は転生者…能力者で溢れてると思うんだけど世界は無数にあって
僕の世界にはこないだけなのかな?他の世界にしても混乱が起きないとは限らないと思うんだけどなぁ」
指を一本立てて、疑問に思ったことをわざと目を逸らしながら話す少年
「え?あ、あぁ力と権限は私より位の上の神より許可と力を頂いたんだ
すまないとは思っているだから君を転生させようと――」
「そっかぁ。上司の人ねーそれじゃぁ最後の質問だよ~
なんで謝ってる時にウレシソウにしてたの?」
またも青年の話を遮り、今度はしっかりと目を逸らさずに
見つめ続け、自身も嬉しそうに目を輝かせながら話し出した
しかし、青年は額に汗を浮かばせながら
「っ!!い、いや嬉しいとかそんな感情もてるはずが――」
「んー、僕の特技のひとつにね~相手の目を見れば自分に対して悪意の感情を向けたら、その感情を読み取れるんだよねぇ~外れた事なかったし」
ケラケラと自分に向けられた悪意に対して、心底楽しいと
ばかりに満面の笑顔になっている少年
「そんな……君の勘違いだよ?僕はそんな事はしないさ」
「んー、焦り?それと笑いを堪えるための我慢してる感じもしたんだよねぇ~
さっさと転生させたいみたいな~転生させた後って観察するの?」
青年は誤解を解こうとしているのか焦った様子で返答するが
少年の方は楽しそうにニコニコと笑いながら話を聞かずに喋りだす
「か、観察なんてする訳ないじゃないか!」
「んー?そうなの?僕ならするんだけどなぁ…おもしろそうだし
どんな人生歩むのかなーって思わない?幸福な人生を送るのか?
波乱の人生を送るのか?世界の不幸を一身に背負ったような悲しい
カナシイ人生を送るのか?…気にならない?」
青年は話していた時の困った表情を消し、見定めるような探るような視線を
向けるようになった、少年の方はその様子にケラケラと笑みを返した
その様子を見て青年は表情を変えた、顔を歪めた・・本当に楽しそうに嬉しそうに
「へー、俺が暇つぶしの為に殺してしまった…って言ったらどうする?
馬鹿だな……素直に転生を受け入れていれば良い思いも多少はできたというのに
愚かなやつだ……?…なぜ笑ったままでいられる?」
青年が先程までの穏やかな笑みとは裏腹に、
心底馬鹿にしたような蔑むような笑みを浮かべて少年を見つめるも、少年は笑ったままだった
「いやいやいやー、だって神様も暇なんだなーって、性格も悪いんだなーって。
ウソもつくんだなーって、それが分かったんだからおもしろくない?」
くすくす…少年は本当に楽しそうに笑う、青年も呆気にとられたがニヤニヤと笑みを浮かべる
「…おもしろいな。怒りでもなく喜ぶ奴が…いや、狂喜か?
最初はただの間抜けかと思ったがどうして、なかなかおもしろい奴がきたもんだ。
人として壊れている所が特に気に入った…!――どうだ?俺の部下にならないか?
まぁ、俺の影響を受けて半人半神になるだろうがな
不老不死と絶大な力がオマケでついてくるぞ?」
「ぇー、壊れてるって失礼な~…気に入った人は好きだけどー
基本は人間嫌いなだけですよ~感情表現が少ないだけのタダの自分ですよー
それに半人半神になるって…あ、人じゃなくなるからいいや、でも半分残るんだねぇ~」
「くくっ…本当におもしろいな、自分が気に入った奴は好み他はいらぬか
半神になるというのに躊躇せぬとは、しかも理由が人じゃなくなるとは
アッハハハッハハ!!笑い殺すつもりか!?」
青年は耐えられないとばかりに顔は狂喜で歪み、体を震わせている
「ふむ俺と気が合う奴は今までいなかったのだがな
よし、お前は人が嫌なのだろう?ならば転生してみぬか?
…竜としてだがな――それも神竜としてだ!
あぁ、人の姿になれる能力は上位の竜ならば当たり前の能力だから安心しろ」
「あれ?何で転生させるの神様?ここで変えればいいのにぃ…竜の生活もおもしろそうだけど」
「いやな?ここは作ったばかりだと言っただろう?だから誰の管理も受けていない世界でな魂から作り変えるとなると情報が世界に残るんだよなぁ。世界ごと潰しても断片的に残るだろうし忌々しい事だ…まぁ、送る所は俺が管理する世界なんでな?そこでなら誰の目にも触れさせんように守る事も可能だ
あぁ、転生して自殺しても構わんぞ?ただし最低でも5年は待ってくれ魂が変化に完全に馴染むまでな」
少年は落ち込んだように頭を下げていた・・ガッカリしたと体で表現しているようだ
これには青年は少し驚いた
「いや、何故落ち込んでいるのか知らんが…やはり俺の部下は嫌か?
俺として気が合う奴は今までいなかったんだ。だから……おい、寝ておるのか貴様」
よく見れば目を閉じて、こっくりこっくりと頭を揺らして寝ている少年
青年は唖然としていると、少年はハッ!?と目を覚まし
口元から出たよだれを拭きつつ何事もなかったかのように青年を見つめた
「よし、それじゃぁ送るとしよう神竜としてな、神竜なのだ種族としての恩恵
まぁ、俺の力なのだが…闇を操る事ができるなぜなら邪神だからな!
何だ?驚かんのか?それはそれで興味深いが…ほら、さっさと行ってこい」
青年が自分は邪神だと告白するも、少年は軽く「ふーん、そうなんだー」
と、興味なさそうに流した
青年はさっさと行けとばかりに指を鳴らすと、少年の足元に黒い渦が発生し少年を足元から沈めていく
「わー、溺れないのかなー……あ、そうだ神様ー」
「何だ?…そういえば途中から様とつけて呼ぶようになったな…」
「アハハー、気に入ったからに決まってるじゃないですか~観察するの?
って質問も僕ならそうするって事で考え方も似てますしね~
あ、気に入ったというのは友人としてですよ?僕の名前は――
家名は死んでしまったからいいや~泉……イズミと申します~」
「あぁ、そういえば名前を忘れていたな、神としての名じゃなく真名で
言おうターメルンだ、その魂にでも刻んでおけ!」
大袈裟に両手を広げて、ニタリと笑いながら名を宣言するも
少年は軽く頷いてにっこりと笑顔で渦に飲み込まれながらも口を開いた
「うん、メルちゃんだねー分かったよー。あ、呼び方は変えないよー?」
「ぬぅ貴様、訂正しろ!…くっ!行ったのか。まぁいい戻ってくるまで待つか
ククッ…待つというのがこんなに楽しいものだとは…
汝に邪神の加護がついていることを忘れるなよ」
黒い渦が消え、真っ白な空間では……初めての友人を得た邪神が一人ほくそ笑んでいた