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嘘と革命  作者: 海猫鴎
3/15

3.動き出した計画

 歓楽街の中の比較的庶民に人気の酒場。

 がやがやと活気に溢れ、仕事を終えた鉱山の男達が酒を入れている。煙草と埃と酒の臭いが充満し、人声と楽器の音色と踊り子達の舞う音とが混じり合い、煌々とした灯りで照らされた店内は独特の空気をまとう。


 まだ酒を嗜むには少々若い青年が中に入り、店内の酒臭さに顔をしかめた。それでも慣れているのか、すぐに目的の卓を見つけ、迷うことなく一直線にそこへ向かう。


「あらら、ようやく来たわね、遅いじゃないの、大将。」


「ミヤマ、もう勝手に飲んでるよー。」


「いや、フルートは飲み過ぎだって。」


「…………うむ。」


 気さくに話しかけてくる四人の男女と、


「一時間と二十七分弱の遅れですが。」


 冷淡に切り捨てる若い娘、

「んにゅっ…………むにゃ。」


 そして彼女の膝枕で熟睡している少年。

 大将、そしてミヤマと呼ばれた青年は、四人の男女の真ん中に座り、娘と少年と向かい合う。


「君らが問題の便利屋?」


「はい、私はヤヨイ、こっちの寝ているのがミナヅキです。身分証を出した方がいいですか。」


 ミヤマはヤヨイと名乗った娘の姿を見る。滑らかな黒髪が後ろにおろされ、漆黒の瞳は鋭く光る。まとったコートはかなり上等なものだ。腰に提げた小型の鞄からは、投擲用の刃物が見え隠れしている。

 次にミナヅキと言うらしい少年。ミヤマはかなり線が細い方だが、彼はミヤマと比べてもまだ十二分に華奢だ。女性的なのではなく、幼いという表現が適切だろう。結ばれた長めの髪がたれている。娘と同じコートに埋もれ、寝息を立てている。


「必要ない。それで? どんな経緯でこの活動に参加するのか、改めて話してもらえるか。」


「ある貴族の方から、この街の革命軍の手伝いをせよとの依頼を受けました。連絡は全て遣いの者を通して行っているので、依頼主の顔は知りませんが。その依頼のため、隣の国からこの王国まで足を伸ばした次第です。」


 ミヤマは皿の上に残った、最後の小魚をつまみ、口の中に放り込む。横から、それあたしの分なのにっ、という悲鳴が聞こえたが、あまり気にしない。

 しばらくヤヨイの話を小魚と合わせて咀嚼し、飲み込む。小魚の方はあっさり飲み込めたが、話の方は違った。


「なんで貴族がそんな依頼をするんだ? 手伝ってくれるなら、俺達だって革命なんて起こさずにすむんだが。」


「それは私達には分かりません。私達の仕事は依頼を完遂し、報酬をもらうことです。無論、ある程度依頼主の素性は調べた上で、相手の目的を推測してはいますが、依頼主からの信用を失ってまで貴方に語る必要を私は感じません。」


 ミヤマは葡萄水で唇を湿らせてから、溜息をつく。


「なら、この話はなしだ。お前らは俺達の仲間にはできない。生憎、俺は貴族も貴族の手先も信用できないし、信用できない奴を仲間にするほど、平和な頭をしていない。」


 そして、目を向ける相手を左隣に座る女性に変えて続ける。


「何か文句でも、エリー?」


 ミヤマの左に座っていたのは、美しい金髪碧眼のエルフ。若く見えるものの、年齢は不明。赤黒いシスター服に身をつつみ、首元で二匹の蛇が絡み合った装飾品が揺れている。呪術による援護を担当する、邪神を信仰する女性だ。


「大将の決定に逆らうつもりはないわ。でも、私は賛成ってわけではないかしら。私達だけじゃ前衛が足りてない感じがするもの。この可愛い便利屋さん達がいれば、解決すると思うし。どう思う、ゴロウザエモンさん?」


 エリーは、さらに左で静かに杯を傾けていた男に振る。小麦色の肌、短く刈り込んだ黒髪、太い眉と濃い髭の偉丈夫。袖や裾がひらひらした東国の衣服を着ている。椅子の脇に彼の身長ほどもある大太刀が置かれていた。


「…………わしは大将に従う。わしに訊くよりハチス殿とフルート嬢に訊く方が余程有意義であろうよ。」


 その言葉でミヤマの右側に座る二人組に全員の視線が行く。

 一人は二十代前半の青年。少し長めの髪が肩にかかる。比較的整った顔に甘い微笑みを浮かべている。フードつきの青いローブに高めの身長。一見するとただの優男だが、その実、彼の魔術が革命軍の最大火力という、強者。

 そしてもう一人、亜麻色の髪を一つ結びにした娘。鎖の付いた衣装をまとう。王国では珍しい召喚術師だ。

 先に口を開いたのはフルートと呼ばれた娘の方だった。


「そう言われてもなー。あたしは頭使うこと苦手だし。んー、どのみち貴族にばれてんなら、仲間にしてもいいんじゃないの? ミヤマの貴族嫌いは今に始まったことじゃないし、気持ちは分かるけどさ。」


 フルートは言い終えると、自分の蒸留酒を煽り、店員に追加を要求した。彼女が身体を動かす度に、鎖が賑やかな音をたてる。本来は騒々しい音だが、この酒場では当たり前のようにかき消され、余韻も残りはしない。

 そして最後に、ハチスと呼ばれた青年の順番である。彼は困ったように首を傾げた。


「僕みたいな成り行きでここにいる奴が最後っていうのもどうかな。……いや、真剣に考えてるから睨むなよ、ミヤマ。そうだね、僕はフルートとは違って貴族に発覚している時点で油断しすぎだったと思う。貴族側に多少怪しまれるのは仕方がないとしても、この溜まり場までばれちゃってるとね。まぁ、でも。知られた上で決行するんなら、僕もこの二人を仲間にするのに一票、かな。」


 ハチスは自然な動きでエリーの空いた杯に果実酒を注ぐ。エリーは機嫌良く表情を崩すが、寄りかかる相手はゴロウザエモンだった。その態度はいかにも彼女らしく、ハチスも気にせず話を進める。


「ヤヨイさん達は依頼主に定期報告とかするの?」


 ヤヨイはあからさまに身構えた。ミナヅキは熟睡中、対してヤヨイは最初から隙がない。目の前の食事にも一切手をつけていないし、表情を変えることもない。


 ヤヨイがしばらく黙り込むと、彼女緊張を感じ取ったかのように膝の上で横になっていたミナヅキがのそのそと起き上がった。


「…………ふあぁ、んんっ、おはよう、ヤヨイ。」


 ミナヅキは心地よさそうに目を覚まし、大きなあくびと伸びをした。空気を一切気にしていない様子は、猫を彷彿とさせる。

 あたりをきょろきょろと見回して、卓に並んだ食べ物を適当につまんだ。ヤヨイは無言でそれをただ見ている。


「ああ、なに、リーダー来たんだ。それで、なんでまたこんな重い空気になってるわけ?」


 寝起きはいいようで、既に蒼い瞳に不敵な光を宿している。ミナヅキは少しだけ皮肉っぽい笑みを浮かべて、誰にともなく問う。


「うん、依頼主に定期報告をしなくちゃいけないのかなって。答えてくれるのはミナヅキくんでもいいよ。」


 ミナヅキの全く臆するところのない反応に呆れた風もなく、ハチスは柔らかな笑顔で対応する。あまりの傍若無人さに不機嫌面を隠そうともしていないフルートとは対照的だ。


「定期報告? そんなん必要ないね。報告しても、何も分からないだろうしさ。貴族と僕らなんて、理解し合えっこないし。先輩達ならその辺言わなくても分かるんじゃないの。」


「……先輩達?」


 ミヤマがミナヅキの言葉に首を傾げる。ハチスとフルートは予感していたらしく、納得したようだった。逆に、それ以外のメンバーはヤヨイも含めて怪訝な表情になる。


「師匠が同じなんだよ、この二人の魔術師とはね。まぁ、僕は小さい時に離れたし、ハチス兄さんは音信不通だったらしいから、実質他人だけど。戦い方の癖くらいは知ってる。」


 そして彼はもうだいぶ冷めてしまった料理を次々と平らげていく。ヤヨイが微かに笑みを見せ、店員に料理の追加を頼む。

 フルートは鬱陶しそうにその話題を切り上げた。


「そんなことはどうでもいいの。んで、ミヤマを説得してでも、あんたは仲間になりたいわけ? それとも、もういいの?」


 ミナヅキは食事に忙しくて聞いていない。ヤヨイが丁寧に空いた皿を重ねる音、ミナヅキの咀嚼と嚥下の音が酒場のざわめきに飲み込まれるだけの時間が過ぎる。

 フルートにとって、ヤヨイは馬鹿丁寧かつ妙な生真面目さでなかなか接しにくかった。けれど、ミナヅキはそれを遙かに上回る扱いづらさだ。


「ミナヅキ、さっさと答えな。あたしが短気なことくらいは知ってんだろうが。……おい、無視ってんじゃねぇぞ、チビ!」


 沸点の低いフルートは早くもけんか腰で、立ち上がって卓に両手を叩きつける。ハチスとエリーが支えていなければひっくり返っただろう。ミナヅキは黙って食事を続けている。


「……申し訳ありません。少しお時間を頂けますか。」


「いえいえ、こちらこそごめんなさいね。フルートちゃん、生真面目だから。ヤヨイさん、このスープ美味しいって評判なんだけれど、どうかしら?」


 間が持たないので、エリーがやんわりとヤヨイに料理を勧めるが、彼女は頑なに断って手をつけようとしない。その傍らでミナヅキは一心不乱に暴食を続けている。


「ミナヅキっ、いい加減にしろよ。横で相方の女の子が真面目に仕事してんのにお前はなに意地汚く食事してんだよ!」


 ミナヅキは一瞬手を止め、フルートを一瞥したが、なにも言わずにまた食事を再開した。

 それにフルートは激昂し、乱暴に立ち上がった。エリーとハチスが止める間もないほどの俊敏な動きで、フルートが卓の反対側のミナヅキに向かって身を乗り出す。卓がひっくり返らなかったのは、人知れずゴロウザエモンが下から支えていたからだ。普通なら、料理もろとも弾き飛ばされていたはずである。


 ミナヅキは冷静だった。ただ単に食事に夢中だったようにも見えた。手つかずだったコップを掴み、上手くスナップを効かせ、見事にその中の水をフルートの顔面にかけた。完璧なフォームで弾き出された中身は綺麗に彼女の顔にかかり、服を濡らすこともないという素晴らしい腕前である。


 端から見ていた四人はもちろん、当のフルートでさえも呆気にとられてしばし沈黙する。そしてフルートが再度怒りだす寸前でミナヅキは口火を切った。


「とりあえず、フルート姉さんは頭を冷やした方がいい。えー、まず、僕は背が低いけど成長期が遅いというか、時間を悪魔に売り渡していたんだよね。今、十九だけど身体は十四前後なんだよ。最近リーチが変わって戦いにくくて困るくらいの成長痛に悩まされてるから、すぐフルート姉さんの身長を抜くはずだ。」


 フルートはその場で棒立ちになっている。ヤヨイは前のめりになっていた身体を静かに背もたれに戻し、ハチスはフルートをさりげなく席に座らせた。ミナヅキは言葉の合間合間に食べ物を口に運んでいる。すでに異常な量を摂取しているはずだが、その動きはよどみない。


「あと、姉さんが短気なのは知ってる。忘れちゃいないよ。んで、ヤヨイが働いてる中、食事したり寝てたことだけど。」


 そこで初めて彼は口内に食物を運び続ける作業を止めた。くるりと隣のヤヨイを見て一言。


「まだ足りない?」


「ええと……若干。」


 そして機械的に食事を再開させる。むしろ食事と言うより食物の摂取といった方がいいかもしれないくらいに作業めいた動きだった。

 手持ちぶさたになったのか、ハチスはにっこりと人懐っこい笑顔をヤヨイに投げた。ヤヨイは困ったようにミナヅキを見やり、けれど人並み以上に整ったハチスの顔で微笑まれると、満更でもないのか若干表情を崩した。

 すると、おもむろにミナヅキが食べるのを中断し、話を始める。ヤヨイとハチスが見つめ合っていた状態が気にくわなかったのだろう。


「僕の妻は半分ほど人外なんだ。半魔って言えば伝わるかな? 父親が悪魔、母親が人間の、人と悪魔の混血児だね。」


 唐突に正体を明かされて、ヤヨイが身を固くした。ミナヅキは横目でその様子を見ていた。ヤヨイの握りしめた拳にミナヅキはそっと手を添える。


「へぇ、ご夫婦だったの。美人で有能な奥さんと、可愛らしいながらも頼りになる旦那さんね。姉さん女房、ってやつかしら。」


 エリーが何気なく口を挟むが、


「言っとくけど、僕の方が年上だからね。」


 あっさり一刀両断されて終わる。また噛みつこうと腰を上げたフルートをハチスがなんとか宥めすかしていた。


「主食は僕の睡眠。普通の食事もできるけど、効率が悪い。んで、それだけじゃなくて、僕の睡眠不足や空腹が彼女の体調に影響する。ヤヨイが腹空かしてたから、僕は起きて飯食ってる。僕は別にヤヨイそっちのけで寝たり食事したりしてるわけじゃない。そもそも僕が大概自分の身体を省みないのは昔からだ。それくらい知ってんだろ?」


 言いたいことを言い終えると、彼はまた食事に戻る。しかし、さっきまでより少々不機嫌そうだった。

 それからしばらく、フルートは俯いたまま、黙り込んでいた。エリーはやれやれと杯を重ね、ゴロウザエモンはあくまでも無言。ミヤマは目を閉じ腕を組み、なにやら熟考している。ハチスの適当な世間話にはヤヨイがミナヅキの様子をチラチラと見ながら、気まずそうに付き合っていた。

 ようやくミナヅキが皿を全て空にして、再び切り出す。


「さて、ヤヨイの正体も明かしたし、できれば仲間にして欲しいんだけどね。ハチス兄さんはなにやらいい案があるみたいだね?」


「ああ、ようやくのってくれる気になったんだね。うん、見も蓋もない話なんだけど、僕が二人をその貴族以上の値段で雇おうかと思って。」


 ハチスはにこにこと笑顔を絶やさない。


「ミナヅキくんの腕は知ってるし、ヤヨイさんも多分強いでしょ。しなやかで綺麗な体つきをしてるもん。それに魅力的な女性だからね、是非とも仲間になって欲しいな。いてくれるだけで目の保養になるよ。」


 ヤヨイの手を取って彼は微笑む。目を見開いて僅かに頬を染めたヤヨイを、ミナヅキが不機嫌そうに抱き寄せた。


「今の依頼主の五倍出せ。」


「うーん、僕は百二十%くらいのつもりだったんだけど。」


「精々三倍だな。ある意味裏切れっつってんだから。」


「実際やることは一緒でしょ。一.八倍は?」


「打ち合わせの時の飯代はそっち持ちで二倍。」


「んー、いいよ。交渉成立。ただし、こっちの命令優先ね?」


「分かってるよ。」


 兄弟二人で悪巧みでもしているような、あっという間の出来事。どうやら、二人はこの妥協点を前もって想定していたようだ。ハチスはいつも通りの笑顔でミヤマに告げる。


「ってことで、仲間に入れていいよね、ミヤマ?」


 ミヤマは答えない。仏頂面で二人の便利屋を見定める。ミナヅキは不遜な態度でにらみ返し、ヤヨイは背筋を正して生真面目に返事を待つ。ゴロウザエモンは相変わらずの厳めしい硬い表情。フルートは久しぶりにあった弟弟子に見事にやりこめられたのが不満なのだろう、頬をふくらませている。エリーはにやにやと、ハチスはにこにこと笑っている。


「ほら、大将、もう答えは一つなんじゃないの?」


「ミヤマが嫌だって言うなら僕は従うけどね。即座にこの場で解約。この二人には直ちに出て行ってもらう。別に僕はそれでも構わないよ。リーダーはミヤマなんだしさ。」


 この二人は大概意地が悪いと、ミヤマは思う。ミヤマがどうするか分かった上で選択肢を与えているのだから。

 粘ってもどうせ同じことだ、さっさと答えた方がいい。


「分かった。いい。仲間にでもなんでもなれ、好きなようにしろ。」


 投げやりに回答すると、にやにや笑いをさらに嫌みったらしくさせて、エリーが催促する。


「ほら、大将。新しい仲間が増えたらいつものあれをしないと。」


 一瞬ミヤマは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、ハチスもこちらをじっと見て精神的な圧力をかけてくるので、やけくそ気味に声を張り上げた。


「君たちは今この瞬間から俺らの仲間だ。貴族に奪われ、盗まれ、蹂躙された僕らの自由を共に取り戻そう。俺達は一心同体で、運命共同体。一人が苦しめられることは全員の苦痛と等価であり、仲間の死は自らの身体が抉られることと同義で、自身の血と仲間の血は同等。全員が望むものは全て唯一つ、自由のみ。俺達の進む道は同じだ。何処に行き着くかまだ分からない。ただ、全てが終わった時に、共に自由なこの街に立てていることを願おう!」


 立ち上がって大仰な台詞を言い終え、ミヤマは右手を差し出す。ミナヅキが先にそれを握り、ヤヨイがそれに続いた。

 周囲から歓声があがる。


 この酒場を使う人間は皆革命軍に参加しており、多少なりとも話に耳を傾けてはいたのだ。多くの仲間に聞こえるよう、彼らはいつも店内中央の卓を使っている。ちなみに、この作戦会議という名の飲み会では女性の率もなかなかだが、酒場にいる人間、そして革命軍のメンバーはほとんどが男だ。鉱山の屈強な野郎共の中にはドワーフの姿も混じっている。


 新しい仲間を歓迎する酒盛りがただのバカ騒ぎになった頃、再びミヤマは席に座る。


「まったく、毎回なんでこんな恥ずかしい台詞を言わなくちゃなんないんだよ。絶対いらないだろ。」


 頭を抱え、低く呻く。ハチスは果実酒の入ったグラスを上品に傾け、適当に慰める。


「いやいや、雰囲気って大事だよ。それにわりとかっこいいよ、ミヤマ。」


「…………ハチス、絶対他人事だと思ってるだろ。」


「思ってるよ。実際、僕のことじゃないし。でもしょうがいないよ、ミヤマ以外の初期メンバーがそういう雰囲気を大切にしたんだから。リーダーだろ、頑張れって。」


 作戦会議に出ている七人の中で、初期メンバーはミヤマだけだ。他に、坑夫達を率いているドワーフのおやじや、この酒場の店主、宿の女将などが初期メンバーだが、彼らは戦闘は詳しくないと言って早々に作戦会議から外れていった。


「…………そもそも、お前やフルート、そこの二組の夫婦の方が俺よりずっと強い。なら、俺よりリーダーに相応しいのはそっちだろ。」


「強弱だけじゃトップは決められないよ。僕は協調性ないし全体の様子見る気もない。指揮とか絶対できないね。」


「私もそっち系は全然駄目ね。大将は立派だわ。一番若いのに見事な手腕だし。うち旦那の次くらいにかっこいいわよ。」


 重要な話が一通り終わると、酒気にあてられたミヤマが愚痴っぽくなるのが常だった。それまで尊大に振る舞っていたが、途端にずるずると椅子から落ちそうな姿勢になる。店の天井を心細そうに見上げて、言い訳のような泣き言を口走る。


「後衛のくせに、ハチスもフルートもエリーも俺より接近戦強いし。ゴロウザエモンは組み手で一歩も動かないし。」


 卓の違う人間には聞かれないよう声は小さいが、それは意地かそれとも臆病な心故か。見守るエリーやハチスの眼差しは温かい。


「経験の問題よ。他はともかく、私と旦那はいい年だもの。年期が全然違うわ。…………組み手に行きましょうか?」


「うん、移動しよ。あ、そこの二人もついて来いよ。あたしらがしごいてやるから。」


 新参者の二人は小首を傾げる。こんな弱気になった相手に本気でかかっていいのかということだろう。負ける気はなさそうなところが彼ららしいが。


「俺のことは好きなだけ叩き潰してくれて構わない。成長の実感はまるでないけど、学べることが多いのも分かってるから。」


 席を立つ彼らは、訓練に行くと言うよりも二次会に向かいそうな雰囲気だった。

 店から出て夜道を歩きながら、エリー達飲酒組は酔い軽くを覚ます。


「……彼はいつもあんな感じなんですか?」


 ふと、先頭を歩くミヤマの背を見ながらヤヨイが隣のフルートに訊いた。


「ああ、そうだよ。まぁ、色々きついだろうし。こっちもできることはしてるけどさ、たかがしれてるし。でも……。」


 説明の仕方に困ったのか、フルートは途中で言葉を切った。思考に集中し、言葉を切った彼女を見て、エリーが引き継ぐ。


「本人が望んで進んだ茨の道よ。望むだけ傷ついて、自分が満足できるまで突き進めばいいわ。大将にも大将なりの考えがあるんだろうしね。」


 フルートの言いたいこともそんな意味のことだったのだろう。こくこくと頷き、肯定している。

 温まりつつあった空気を冷やしたのは、ミナヅキだ。


「でもさ、成功しても全員の願いが叶うわけじゃないだろ?」


 暗い道である。離れた人間の表情はよく見えない。それでも、ぴしゃりと返したエリーの顔は、何故か全員が視えていた。


「少年、発言には気をつけなさい。全員の望む自由が同じだとは私も思ってない。けれどね、少なくとも全員が同じように自由と呼べるものを望んでいることは確かなのよ。私達にはそれで十分だわ。」


 それはさばさばした口調ではあったが、ミナヅキを含めたその場にいた全員を黙らせるほどの威力を秘めていた。




人がたくさん出でてきましたが、次回は普通にヨナとジュリの場面に戻ります。わいわいした感じが出ればいいなー、何て思ったり。

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