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ペーパームーンニューライト  作者: 一七


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4-1.夜の散歩


 ★


 今日もノエルと共に夜の散歩に出かけます。しばらく歩いたところで、またしてもノエルが足を止めました。


「だから、ココで止まるのやめて欲しいんだけど」

 ノエルは校門の近くで、グギギっと音がしそうなくらい脚を踏ん張ります。無理に引っ張るわけにもいきません。


(どうしたものか)


 視線を彷徨わせた時、「あ!」と言う声と共に、校門の上を何かが勢いよく飛んでいきました。あ、と思う間もなく、腕に巻きつけてあったリードがグンッと強く締まります。ノエルがその何かを追おうと走り出したんだと気づいた瞬間、私はその場にひっ転びました。


「⋯⋯いった⋯⋯」


 思わずうめくと、ノエルは我に返ったのか、足を止め、心配そうに私の周りをうろうろします。

「⋯⋯調子の良いやつめ。ん?」


 コロコロと転がって来たのは、サッカーボールでした。どうやら校門から飛び出してきたのは、これだったようです。


 ボールを手に取ると、後ろから聞き覚えのある声が降って来ました。


「え、あれ東?! ゴメン、大丈夫か?!」


 ⭐︎


「そっか、飛んでったボールを犬が追いかけてったのか。悪いな」


 ボールを飛ばしたのは水瀬君でした。彼は私とノエルを、なかば強引に校庭のベンチまで案内してくれます。できれば学校には近寄りたくなかったのですが、ノエルが行きたそうにしていたので、仕方なく彼の意思に従いました。


 水瀬君は、私にベンチへ座るよう促しました。


「転んでたよな。脚、大丈夫か?」


「ジャージだったので、なんとか」


「よかった。これ、一応やるよ」


 彼は部活用具でいっぱいの鞄から、保冷剤を取り出します。


「いえ大丈夫です」


 反射的に断りましたが、彼は私の手に保冷剤を乗せました。


「いいから、遠慮すんなって」


「⋯⋯じゃあ、ありがとうございます」


 せっかくの親切を無下にするのもなんなので、ありがたく足を冷やします。


 夜の運動場には、私達以外誰もいませんでした。校庭は外灯のおかげで意外に明るく、サッカーゴールの周りにはボールがいくつも転がっています。


「可愛いなー。名前なに?」


 水瀬君はノエルをわしゃわしゃと撫でまわしていました。


 彼にノエルを紹介すると、ノエルはワン、と呼応するように返事をします。


「こんな時間まで、一人で練習してたんですか?」


「まあな。コソ練ってやつだよ」


「試合でも近いんですか?」


「いいや?」


 水瀬君らしくない、歯切れの悪い返事でした。彼はノエルを撫でたまま答えます。背を向けているので表情はわかりませんが、あまりそのことについて話す気はないようです。


 ノエルを可愛がってもらっているし、何となく会話を続けた方がいい気がして、別の話題をと頭を回転させますが、特に思いつきません。そもそも私は、用事もないのに顔を合わせたからといってベラベラと喋るのは好きではないのです。


 なので、無難な話題を探すという作業自体が苦手で、さっきの会話も私にしてはかなり頑張って捻り出したものでした。


(⋯⋯まあ、いいか)


 ⭐︎


 そのまま20分ほど経った頃でしょうか。


 私は早々に水瀬君との会話を諦め、満点の星空をぼーっと眺めていました。


 一方、水瀬君はというと、あれからずっとノエルを撫でています。ノエルもノエルで、私のことなど忘れたかのように鼻をふすふすと鳴らし、お腹を見せたり背を伏せたりと、とても楽しそうです。なんでしょうか、この疎外感。


(うん。そろそろ帰ろう)


 あまり長居して彼の邪魔になってもいけません。決して、ノエルを水瀬君に取られたなどという幼稚な考えがあるわけでもなく。


「あの、保冷剤ありがとうございました。ノエル、そろそろ行くよ」


 呼ぶと、ノエルは名残惜しそうに私の方へやって来ます。


「もう帰るのか。今日はボール吹っ飛ばしちまって悪かったな」


「⋯⋯いえ」


「ノエルも撫でさせてくれてありがとうなー」


 しゃがんでノエルに声をかける水瀬君を見て、ほんの少し罪悪感が湧きました。


「犬、好きなんですね」


「めっちゃ好きだぜ。ペットっていうより家族、相棒みたいなとこあるよな」


「わかります。一緒に暮らさないんですか?」


「暮らしてたよ、昔な」


(あ、失敗した)


 彼の悲しそうな表情から、多分、あまり踏み込んではいけない話題を振ってしまったのだと気づきました。かといって謝るのも、はばかれます。


 しばし沈黙が流れます。


 意外にも、それを破ったのは水瀬君でした。


「⋯⋯また、寄りなよ。ノエルに会いたいし」


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