1-3.転校生
「木竜。どうした?」
「どうしたじゃないだろ。部の話し合いにも参加しないで、いつまで油売ってるつもりだ?」
木竜君がジロリと私を見ます。敵意とまではいかないけど、好意のかけらも無い視線でした。
(なんだこの人。感じ悪いな)
「なんだよーそんなキツイ言い方すんなって。話し合いって言っても、ほとんど部活に関係ないことだろ?」
「そういう日常のコミュニケーションが大切なんだろ」
「それはそうだけどさ。あ、でも俺これからしばらく火曜は東と一緒に飯食うことにしたから」
「はい?」
「流石に毎日邪魔すんのはわりーと思ったんだけど、毎日の方が良かった?」
「いや火曜だけで十分過ぎるというか、」
と言うかそもそも私了承してませんが、と言おうとすると、眉を密かに吊り上げた木竜君に遮られます。
「なに勝手に決めてる。部の中心であるお前がいないと、まとまらないだろ」
「そんな事ないよ。皆頼りになるし木竜だっている。俺一人いなくたって平気だ。それに週一の昼くらい、俺がどこで何しようと勝手だろ?」
「いや君が自由にするのは勝手ですけど、私にも同じように自由がある訳でして」
「やべ俺日直だった! もう行くな! じゃ東、木竜、そう言う訳だから来週火曜からよろしくなー!」
春の嵐のような笑顔を振りまいて、手をブンブン振りながら実に爽やかに水瀬君は去って行きました。残されたのは梅雨の夜のような私と、湿度ゼロの真冬のような木竜君です。
(気まずいな)
木竜君は水瀬君を引き留めたかったみたいですが、勢いに呑まれたのかそれ以上何も言いませんでした。しかし納得はしていないのか、若干イラついている様です。
(と言うか、私も結局了承してしまった流れになってしまった)
これが陽キャの力なのかと思っていると、何か言いたげにしていた木竜君と目が合いました。
「水瀬になに言われたか知らないが、自分に気があるとかイタイ勘違いするなよ」
「⋯⋯はい?」
「お前は水瀬の範囲外だ。女バスの連中が騒がないのがいい証拠だろ。お前なら安全牌だって」
予想外の言葉に思わず理解が遅れましたが、木竜君は私の意見など聞く気がないとでも言うかの様に続けます。
「アイツは昔から担任の美月に憧れてる。大方、転校生がいつも一人で心配だとか、あの熱血女教師に遠回しに相談されて力になってやりたいとでも思ったんだろ」
その言葉に転校初日に紹介された美月先生を思い出しました。美月先生は、新卒二年目の活発で目がくりっと丸く可愛らしい見た目の先生でした。性格は意外にもサバサバしているそうで、男子には人気の体育の先生だと聞いたことがありました。
『転校は心細いかもしれないけど、ウチの生徒は昔から知り合いの子たちが多くて家族同然なの。東さんもすぐ仲間になれると思います。一日も早く皆んなと仲良く出来るように頑張りましょうね!』
そう言って職員室で彼女は私に手を差し出しました。周りの先生の暖かい目線も相まり昭和かはたまた平成初期のドラマみたいなノリだと思った記憶があります。
「転校生の相談を一生徒である水瀬君に、ですか。随分仲が良いのですね」
「下衆な勘繰りすんな。遠縁なんだよ、アイツら」
そう考えが至るような発言をしたのは君だろう、と喉元まで出かかってやめました。学内カースト上位で、かつ性格が若干歪んでそうな彼に逆らうのは得策ではないことでしょう。私の灰色の日々を真っ黒にしかねません。
そして不意に思い出しました。私が来たことにより学年2位になってしまった生徒が、木竜と言う名だったということを。
言いたいことを言って満足したのか、木竜君はランチルームを出て行きました。
⋯⋯彼の言う通り、水瀬君が私に声をかけてきたのは、思惑があってのことかもしれません。美月先生との事情はいかにもそれっぽいです。水瀬君の裏の顔と言うか思考の予測を勝手に知らされて、一度は信じかけた(と言うほど大袈裟なものではないですが)、彼への信頼度が若干下がりました。
ーーーでもそれ以上に、わざわざそんなことを伝えてくる木竜君やその他の人間の方が余程気に入らなくて。
(⋯⋯水瀬君に協力してあげよう)
意趣返しと言うほどのものじゃないですけど、そう決めたのです。




