1-2.転校生
「東ってこうクールっていうか冷静っていうか何考えてるかわからない顔だろ? 俺そういうの苦手でさ、出来るようになりたいんだよな」
彼は悪口のような発言を笑顔で放ちます。話を総合すると、彼は件の試合のPK戦での失敗の原因を、己のわかりやす過ぎる性格と表情にあると考えたようでした。
「だからその動じないコツを知りたいんだ。でも口で言ってハイそうですかってわかるモンじゃないだろ? 技を見て盗むじゃないけどそんな感じだと思うんだよな。だから昼飯これからよろしくな!」
「俺がこっちの席移るから東は移動しなくていいよ」なんて呑気な発言を聞きながら、私は何故彼が話しかけてきたのか本当の理由を考えていました。
だってあまりにも理由が不自然です。一応理屈は通っていましたが、私である必要性が感じられません。
もし私がよくある漫画やラノベの主人公のように目を惹く容姿であれば、学校で浮いていても男子からの需要はあるでしょう。しかし良くも悪くも外見で注目を集めたことはありません。取り立てて特徴がないという事は、よく見れば整っているという事ではないのです。
少し離れた席にいる彼の仲間であるサッカー部員達は、こちらの事など全く気にせずマネージャーを中心に盛り上がっています。女バス達も意外にも私達には目をくれていませんでした。まあ安全牌として見られてると考えれば納得です。
どうやら嘘告の様なノリ(嫌われ者が人気者に声をかけられ舞い上がる様を見て面白がる)では無いようです。
残る可能性は誰かおせっかいな大人から、私に声をかけてやるよう頼まれた可能性がありますが、それはそれとして。
「⋯⋯そもそもなんですが、私は別に何事にでも冷静な訳ではないです。ただ単に友達がいないので、心情の変化を出す機会がないだけだと思いますけど」
「なにソレ。どういう意味だ?」
あまりにアレな答えに私が黙ると、彼が笑います。
「はは! 今のはわかったぜ! ちょっとイラッとしたな。仕方ないだろ、東と俺じゃ頭の出来が違うんだからさぁ」
自分を下げているのに、少しも卑屈さなど感じさせず屈託なく笑う水瀬君に、毒気を抜かれた気分になります。
かといって彼のペースに巻き込まれるのは得策とは言えません。
さて、どうしたものかと思っていると、ニコニコしていた彼が不意に声を落としました。
「こないだの試合さ、本当に接戦だったんだ。スッゲー練習して臨んで。足りなかった部員もキャプテンの木竜と必死に集めて、ここまでの人数になったんだよ」
水瀬君はサッカー部員たちを見ていました。輪の中心には眼鏡をかけた、やけに大人びた雰囲気の男子生徒がいて、彼が木竜だろうと察しました。
「⋯⋯でも負けた。俺のせいで」
コップの氷がカランと音を立てて溶け始めます。最初の態度とは打って変わって水瀬君は思いのほか神妙でした。なんというか彼ならば、負けちゃってよー! ま、でも仕方ないよな! 次行こうぜ次! とでも言いそうなイメージだったのに。
それがこんな風にわかりやすく落ち込むとは。
(いや、でも)
「試合は御愁傷様でしたけど、努力の方向が違うのでは?」
「努力の方向?」
「はい。性格や心持ち云々の問題ではなく、伸ばすべきはサッカーの技術なんじゃないですか? それに責任感があるのは立派ですが、行き過ぎるとむしろ傲慢というか。責任感というのは本来の自分なら出来るはずだ、というある種の自惚れですし」
そもそもチームプレイなんだから、独りよがりはどうなんですか、と言いかけた所で、サッカーの知識が微塵もない癖にあまりにも偉そうに話し過ぎたと気づきます。
(彼に個人的な恨みはないはずだったのに。しかも誰目線なんだ)
心の水面下にあった嫉妬心と懐疑心がないまぜになって、態度に出してしまったことを反省しましたが、何故か水瀬君は満足そうでした。
「ほらな、そういう所だよ!」
「はい?」
「フツーの人だったらさ、こんな話されたら可哀想だなって同情するだろ。でも東ってだから何? って心動かずって感じじゃん。すげーよな!」
それは冷静というよりは人でなしとか、人の心がわからないとか、そういう意味の方が近いのでは? と聞き返しそうになりましたが、笑顔でうん! そうだぜ! と言われたら、いよいよなので口にするのは控えました。それに彼の発言は言葉だけ見ると、高度な嫌味の可能性もゼロではないのですが、彼からはそんな高等テクニックや小賢しい雰囲気は感じられず、言葉に嘘は無いようにも感じました。
(もしかしたら誰かに頼まれたのではなく、本当に彼自身の興味や意図で声をかけてきたのかもしれない)
だからと言って極めて失礼な言動には変わりないし、彼と一緒に昼を過ごすことが得策では無いことに変わりはないのです。
私は、この灰色の日々と濁った世界を気に入ってる訳ではありませんが、こんなものだと納得はしていました。
だから彼と言う異物が私の日常に入りこむ余地はないのです。
昼休みも佳境を迎え、食事を終えた生徒達がパラパラとランチルームを出て行きます。そんな中、一人の男子生徒おそらく木竜君が水瀬君の元へやって来ました。




