10-2.未知との遭遇
「ノエル?」
草むらがゴソゴソと蠢きます。そしてぴたりと止まりました。少し待っても、ノエルは出てきません。不思議に思った水瀬君が、草むらへと近づきます。
「どーしたノエル⋯⋯」と言ったと同時に、ワフ、と気の抜けた鳴き声が背後から聞こえました。
振り返ると、何故か私の後ろにノエルがいます。
あれ? と思い、リードを引っ張ると、草むらを通って弧を描くように、ちゃんと後ろのノエルに繋がっていました。
「すみません、リードが長すぎて草むらに引っかかってたみたいです」
そう言いながら、リードを巻き取り、たるみをなくします。
「なんだ⋯⋯びっくりした。あ、いや怖くはないけどな!」
「それ、もうわかりましたから」
水瀬君が腰を上げようとした、その時。また、草むらがゴソゴソと動きました。
その時、初めて違和感に気づきました。よく考えれば、ノエルであるはずがありません。
草むらは私達よりも背が高く、その全体が揺れているのですから。
(⋯⋯あれ、じゃあ、何?)
水瀬君も同じことに思い当たったようで、顔を見合わせます。疑問と警戒が同時に浮かび、正直、恐怖も感じ始めていました。
(まさか、本当に妖怪⋯⋯?)
いや、そんなはずは。いや、でも。
子どもを森に入らせないための話にしては、やけにまわりくどい気がします。本当に入らせたくないなら、「十年目」なんて区切りにせず、最初から禁足地として扱えばいいはずです。
わざわざそんな話にしたということは。
その話の元になる“何か”が、本当に存在するということで⋯⋯。
「東、先、逃げて」
「え?! な、何言ってるんですか?」
「俺が誘ったんだ。俺が囮になる、早く逃げて」
件の妖怪が本当にいると思ってるのか、それともまったく別の危険を懸念しているのか。
水瀬君は、私達を庇うように背を向けます。
その覚悟の決まった態度に、のまれそうになりますが、いや、そもそも!
(そんな危ないもの、噂レベルなのに周囲から何の注意喚起もないまま存在するものなのか?!)
「ま、待ってください! 仮に妖怪とか未知の危険があるとして、君一人置いていけるわけないでしょう?!」
「東⋯⋯」
水瀬君の腕をがしっと掴み、引っ張って逃げ出そうとした時でした。
ガサガサガガサっ!!
「「うわああああああああああ!」」
ガサガサガガサっ!!
「「うわああああああああああ!」」
「……って、あ、あれ?」
一歩逃げ出すのが遅れ、もはやここまでかと覚悟を決めた私達でしたが、予想していた衝撃は訪れません。
その代わり、月明かりを背にした、私達より少し大きな人影が立っているのに気づきます。
人影は懐中電灯をこちらへ向けてきました。
「なーんじゃ、でかい声出して。びっくりしたなぁ」




