10-1.未知との遭遇
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落ちたとされる方向を、スマホの灯り片手に探しますが、一向に見つかりません。
「このあたりに落ちたと思ったんだけどなー」
水瀬君と手分けして、二方向を照らします。
ザクザクと地面や小石を踏み締める音が、暗い森に響きました。
不意にノエルが足を止め、地面をフンフンと嗅ぎ始めます。ノエルが指す方向をスマホで照らすと、地面が一瞬キラッと光りました。
「東、どうした?」
「なにか落ちてるみたいです」
拾い上げてみると、それは五センチほどの、小さな電球のようなものでした。
「これ、UFO⋯⋯の一部でしょうか?」
「ってことは、近いぞ!」
水瀬君が目を輝かせて言うと、私もテンションが上がってきます。
ノエルも気合いが入ったのか、リードをぐいぐい引っ張り、私と水瀬君よりも先を歩きながら、辺りを探っていました。
「⋯⋯そういえば今更ですけど、あれ本当にUFOなんですかね」
「うーん、囃し立てられちゃーいるけど、噂止まりだよな。ネットでは話題になるけど、それレベルっつーか。まあUFOなんてどこもそうだろうけどさ。てことは、もし本物なら俺たち第一発見者ってことか?! やべっ、テンション上がってきた!」
「ネットの都市伝説なんかだと、第一発見者はUFOにさらわれて、チップ埋め込まれたとか聞きますけどね」
「こえーこと言うなよ!」
「まあ、UFO系の都市伝説って噂が飛躍しただけって感じですし、よくわかんないですけど大丈夫なんじゃないですか? むしろ日本独特の言い伝えとか怖い話の方が、元々の謂れが関係してて気をつけた方がいい、みたいなことはありますけど」
例えば山で、呼びかけられても返事をするな、という言い伝えがあります。
これは魔のものへの信仰という意味もありますが、一説では野生動物――特に熊との遭遇を避けるためとも言われています。
熊の出す音が反響して、人の呼び声のように聞こえることがあるらしく、それに応じると自分の位置を知らせてしまう。
そういう理由で、返事をするなと言われるそうです。
⋯⋯と、そこまで話したところで、水瀬君が「あっ」と声を上げました。
「そういや、この山の怪談なら聞いたことあるわ」
「どんなのですか?」
その昔、この土地には人を食う妖怪がいた。
困った村人は、腕に覚えのある武者に退治を依頼する。
武者は噂に違わぬ強さで妖怪を追い詰め、重傷を負った妖怪は森へと逃げ込んだ。
それ以来、妖怪は森から出てこなくなった。
武者もそれ以上は追わず、妖怪はその慈悲に感謝したという。
武者は村人に森へ入らぬよう言い聞かせ、村には平和が訪れた。
――それからしばらくして。
村では、ある噂が囁かれるようになった。十年に一度、森で人が消える。
どうやら妖怪は知恵をつけ、人目を引くものを囮にして森へ誘い込み、迷い込んだ人間を食べるようになったらしい。
そして不思議なことに、その年から十年の間は何も起こらない。
それは、あの時慈悲をくれた武者への感謝からだという。
「どこかで聞いた事のあるような、ないような話ですね」
「俺も斎藤に聞いたんだけど、斎藤のばーちゃんが教えてくれたんだって。ま、でも子どもを怖がらせるための怪談だって話だし、さっき東が言ってたみたいな謂れとかはないから、怖がらなくても大丈夫だぜ!」
水瀬君は、私を元気づけようとでもするように、自信満々にそう言いました。
しかし私は、オカルトに対して特別な恐怖は抱いていません。
信じてないわけではなくて、何故そういう現象が起きるのか、この目で確かめたくなります。
と、いうか。むしろ、水瀬君の方がそういう類なのではないか、という疑問が浮かんできます。
「⋯⋯あの、さっきから思ってたんですけど。君、お化け怖いんですか?」
「へ?! な、なな何言ってんだよ東! そんなわけないだろ!」
水瀬君はあからさまに動揺していました。大変わかりやすいです。
格好つけでない彼でも、自分がお化けを怖がるというのは、やはりバツが悪いようです。
強くありたい気持ちはわかるので、武士の情けで触れないことにします。
「まあ、そもそもその怪談⋯⋯が、本当だとしても、その十年目が今年じゃなければ、別になんてことない話ですもんね」
私は彼を安心させるように言いました。
しかし水瀬君は急に静かになり、何かを数えるように指を折り始めます。
「どうしました?」
「⋯⋯今年が、その十年目だった」
彼の顔が、暗がりでもわかるくらいサッと青くなります。私は人の顔が青くなるのを、初めて見ました。
「あの、そんなこの世の終わりみたいな顔しなくても大丈夫ですって⋯⋯」
その時でした。
意識の外だったリードが、くんっと強く引かれます。
視線で辿ると、私達より少し背の高い草むらの中へ、リードの先が伸びてました。ノエルの姿は見えません。




