9-3.夜の日常
彼につられて視線を上げます。
夜空の低い位置に、ピンク色の光が浮かんでいます。それは妙な動きをしていました。
水瀬君もノエルも、私と同じ様に空を見上げて、ぽかんとしています。明らかに飛行機ではありません。
(まさかUFO⋯⋯?)
光はふらふらと揺れながら、学校とは反対側の裏山の方へと高度を下げていき、やがて見えなくなりました。
私が呆然としていると、水瀬君が立ち上がります。
「あれ近いぞ! 走っていける! 東、ノエル、行くぞ!!」
「はい! ⋯⋯って、え?」
勢いで了承してしまった瞬間にはもう、水瀬君とノエルは走り出していました。
「ちょ、ちょっと待って⋯⋯!」
引っ張られるように私も駆け出します。
★
たどり着いたのは、森とも雑木林ともつかない、草木が生い茂る場所でした。
外灯と外灯の距離はやけに遠く、その隙間はほとんど闇に沈んでいます。
人の気配はなく、周囲はしんと静まり返っていました。
道路に面した入口のような場所で、ようやく私は二人に追いつきます。
「水瀬君、本当に行くんですか?」
「なに東怖いの? 大丈夫お化けなんて出ねーよ!」
バシバシと肩を叩かれますが、そんな心配はしていません。
私がこの森で恐れるものと言えばクマや猪や変質者といういたって現実的なものです。
けれど、この辺りでそんな話は聞いたことがありませんでした。
それに不審者や変質者、知らない人を近隣で見かけたら人伝えに伝わるような土地です。その辺は恐らく大丈夫でしょう。
正直、UFOは興味があるし、見てみたいです。しかしこう実際その場面に近づいてみると、「君子危うきに近寄らず」という言葉も頭に浮かびました。
(でも)
興味のあることなのに、臆病風に吹かれてためらってしまう自分は、嫌いです。臆病者なんて、情けない者には絶対なりたくありません。
それに水瀬君相手に自分を大きく見せる必要もないのですが、怖がりだと思われるのも嫌でした。
私があれこれ考えて黙っていると、水瀬君は何かに気づいたようにハッとした顔をします。
そして「ゴメン、やっぱ行くのやめよう」と言い出しました。
「どうしたんですか急に。あんな意気込んでたのに、もしや腹痛ですか?」
「ちげーよ! 俺、東が女子ってこと忘れててさ、男友達と同じノリでここまで連れて来ちまったと思って⋯⋯。だから悪い。やっぱ怖いよな。帰ろう」
優しい気遣いではあるのですが、正直ムッとしました。対等に見られてない気がしたのです。私は水瀬君に女の子扱いされたいわけではありません。それに、あの日UFOを見たいと言ったのは嘘だったのか、とも思いました。
(桐生君とは一緒に見たくせに)
「⋯⋯中学生の男女の力の差なんて、まだそんなにありません。まして君の方が可愛い系ですからね。むしろ何かあったら、私達が守ってあげますよ。ね、ノエル?」
ワン! とノエルが返事をすると、水瀬君は困惑した顔をします。
「ええっ、俺が可愛い⋯⋯? いやいや、そーじゃなくて本当にいいの?」
「ほら、さっさと行きますよ」
「あ、ちょっと待てよ!」




