表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペーパームーンニューライト  作者: 一七


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/25

6-1.再散歩

 ★


 その翌日の夜の散歩のことです。

 校庭の前に差し掛かった時、やはりと言うべきか、ノエルは意気揚々と校庭に向かおうとしました。


「あのねノエル。またおいで、っていうのは社交辞令であることが大半だ。だからもう校庭には行かない⋯⋯いや、だから脚を踏ん張らないでくれる?」


 私は社交辞令というものを弁えた人間です。悪くいうと人の言葉を素直に受け取れない、ともいえますが。

 ですが、他人のおべんちゃらを素直に受け取って、「うわ、真に受けてる」などと相手に思われることは、なによりも恥ずべきことなのです。

 そしてそんなことを思われた日には、二度とその相手とは顔を合わせたくない所存でした。  


 ーーー我ながら難しくて生きづらい性分ですが、どうしようもありません。


 そんなことを頭の中で問答していると、腕の中で大人しくしていたノエルが、しめたと言わんばかりに鰻のようにすり抜けました。


 しかしこちらもノエルとは長い付き合いです。そんな手は通用しません。


 素早く確保し、そのまま抱え直します。家へ連行コースです。


 ノエルは、負けて悔しいようとでも言うかのようにヒューンと鳴きました。


「そんなことをしても誰も来ないよ」


 悪者じみた台詞を口にした、その時です。


「あれ?」


 声と共に、校門からジャージ姿の少年⋯⋯水瀬君が現れました。


「あ、やっぱノエルと東じゃん。待ってたんだぜ!」


 そう言って彼はニカっと笑い、ノエルが入りやすいように校門を開けてくれました。

 明らかに歓迎してくれているようです。ノエルは期待に目をキラキラさせて、今にも腕の中から飛び出さんばかりです。


 私は心の中でため息をつきました。


「君、タイミング良すぎですよ」


 水瀬君は「何が?」と首を傾けつつも「だろ? 俺ってそういう所あるからさ」と、朗らかに笑いました。


 ⭐︎


 夜の校庭はやはり私たち以外に人影はなく、サッカーゴールの周りには前回と同じくボールがいくつも転がっていました。


 ベンチに腰掛けた水瀬君は、早速ノエルを撫で始めます。

 また今日もあの夜空を無意味に眺める暇な時間が訪れるのか、と一瞬思いましたが、不思議と気は重くありませんでした。


「前にさ、東、なんで俺が一人で練習してるのか聞いたじゃん?」


 ノエルを触る手を止めないまま、水瀬君が独り言のように言います。


 一瞬そんなことを聞いたっけ、と考えてから、すぐに思い当たりました。


「はい」


 少し間を置いて答えると、水瀬君は小さく笑います。


「忘れてたな? まあいーけどさ。⋯⋯一人で練習してたのは、前回の試合でのPKを失敗したのが悔しかったから、です」


「ああ、私に声を掛けるきっかけになったという試合ですか」


「そ」


「なるほど」


 至って普通の理由なのに何故前回は濁したんだろう。そう思いましたが、むやみに聞き返したりして、また触れてはならない話題に触れてしまう方が問題です。


 それに、たとえ他人に知られて問題ない話題や情報でも、本人が知られたくないと少しでも感じるなら、無理に他人に話す必要はないと個人的には思います。


 水瀬君がそのまま口を開かないので、私は再度夜空を見上げます。

 相変わらず、無意味に満点の星空です。


 月と星の両方が出ているだけで、これほど地上が明るくなるものなのか、と少しだけ感心しました。

 少なくとも、以前いた場所では見たことのない光景です。


 そうして何も喋らずにいると、ノエルの息遣いと、地中の虫だか鳩だかわからない音だけが周囲に残りました。

 目を閉じれば、自分の所属さえ曖昧になりそうです。


「⋯⋯って言うのは表向きの理由で、本当は悪口言われんの嫌だから」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ