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どうせ勝てないので、魔王は勇者を楽しませることにしました  作者: shiyushiyu


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第6娯楽

 勇者は足を止めていた。


 ダンジョンが明らかに今までとは違う様子だからだ。


 目の前には三本の通路。


 一つは妙に整えられた石畳の道。

 一つは壁に派手な装飾が施されたやけにうるさそうな道。

 そしてもう一つは――照明も装飾もなく、何も起きそうにない暗い道。


「……なんだこれは?」


 勇者が呟くと、背後から控えめな咳払いが聞こえた。


「恐れながらご説明申し上げます」


 声の主は四天王の一人だった。今日は戦闘用の装備ではなく、どこか案内係めいた格好をしている。


「こちらは新たな娯楽にございます」


「娯楽?」


「はい」

 四天王が頭を下げる。

「人は、結果より“選ぶ時間”を楽しむ生き物だとか」


 勇者は眉をひそめる。


「それって、つまり……」


「結果については、一切の保証はございません」


 四天王はきっぱりと言った。


「どの道を選ばれても、何が起きても、

 それは勇者様ご自身の選択ということで」


 責任を負わない、と言外に告げている。


「ふーん……」


 勇者は三つの通路を見比べた。


 派手な通路は、いかにも何か起きそうだ。

 静かな通路は、戦闘以外の気配がある。

 何も起きない通路は――逆に、何が起きないのか分からない。


「説明はそれだけか?」


「はい。恐れながら」


「どれが一番盛り上がるとか?」


「……分かりかねます」


 勇者は鼻で笑った。


「ずいぶん投げやりだな、魔王城」


 だが、剣を構えない。


 代わりに、顎に手を当てて少し考える。


「派手なのは、たぶん予想通りだ。

 静かなのは……まあ、無難か」


 視線が、最後の通路に移る。


「何も起きない、か」


 勇者は一歩、踏み出した。


「……今日はこれにする」


 暗い通路へと、迷いなく。


 暗い通路は、静かすぎた。

 自分の足音だけが、まるで誰かに聞かれているように響く。


 四天王は何も言わず、一礼した。


 しばらくして。


 通路の奥から、勇者の声が響く。


「なあ」


 少しだけ、楽しそうな声だった。


「……これ、次も選ばせてくれるんだよな?」


 その問いに、四天王は答えなかった。


 答える必要がなかったからだ。


 勇者はまだ、魔王城の中にいる。

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