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どうせ勝てないので、魔王は勇者を楽しませることにしました  作者: shiyushiyu


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第3娯楽

 ダンジョン内部――


 俺は勇者と対峙していた。理由は明白である。


 ――久しぶりに戦うつもりだからだ。


「お、魔王本人?」


 勇者は軽い調子で言った。

 相変わらず余裕そうだな。

 そもそもが、勇者を倒しさえすればこの苦難は超えられるんだ。


「今日は直で来たんだ? イベント前の余興ってやつ?」


 おのれ勇者め! 剣を抜く気配すら見せないとは。


 勇者という称号は、この世界では珍しくない。

 名声と報酬を求め、何人もの勇者が魔王城に挑んできた。


 そして――ここで勇者が敗れた前例は、一度もなかった。


 転生してからいくつか分かったことがある。

 この壊れきった世界では、勇者は勝つようにできている。

 どんなに魔族が努力しても絶対に勝てない構造。

 世界の理とでも言おうか……


「……」


 俺は勇者に返事をせず、何の前触れもなく魔力を解放した。

 ――少なくとも魔族側には、俺が突然魔力を解放したように感じたはずだ。


 解放した魔力が空気を歪めて、床に亀裂を走らせた。

 これ以上は城がもたない――そう分かっていても、止めなかった。


 魔王としての、本気だ。


「へえ」


 勇者が、ほんの少しだけ目を細める。


「その感じ、嫌いじゃない」


 次の瞬間。


 ――視界が、反転した。


 何が起きたのか理解する前に、

 俺の体は壁に叩きつけられていた。


「……がっ」


 肺の空気が一気に抜ける。

 必死に肺に空気を送り込もうとして、焦って逆に息ができなくなる。


「遅い」


 気がつけば、腹に一撃攻撃を受ける。

 せっかく取り入れた空気がまた逃げて行く……

 鈍い音がして、床を転がる。


「弱いってほどじゃないんだけどさ」


 再び蹴り。


「“分かりやすすぎる”んだよ」


 俺は立ち上がろうとした。

 精一杯空気を取り込んで起き上がり、反撃の一撃をお見舞いする!

 魔力を集め、詠唱を――


「はい、そこ」


 勇者が持つ剣の切っ先が喉元に突きつけられる。


 背中をヒヤリと冷たい汗が零れ落ちる。


「言ったよな? 分かりやすすぎるし遅すぎるって」


 今にも喉元を掻っ切られそうだ。

 喉から少し血が滲む。


 ダメだ。勝てない――


「さ」


 喉元に突きつけた剣を肩に担ぎながら、心底つまらなさそうに言う。


「もういい?」


 俺は、何も言えなかった。


 同意するほかあるまい。


 勇者にとって俺は……魔王は殺すまでもない存在なのだ――


 勇者は一度だけ剣を振り、空を切るとそのまま鞘に戻した。


「うーん……」


 勇者は辺りを見回し、肩をすくめる。


「正直さ」


 俺の本能が言ってる。

 やられる――と。


 反射的に一歩後ろへ後ずさりする。


「飽きた。つまんないから帰るわ」


 勇者はそれだけ言って背を向けた。


「は?」


 思わず声が口から零れた。


「また気が向いたら来るかもだけど」


 足音が遠ざかっていく。


 助かった……のか?


「次は殺しちゃうかもしれないから」


 ギクリとした。

 遠回しに歯向かうなと言われた気がした。

 だがそれでは、ただやられる日を怯えて待つしかないではないか……


「あ。そうだ」


 ふと思い出したように勇者が振り返る。


「あれは良かったぞ。たいけんがた? あれまたやってくれよ」


 誰も反論できなかった。

 勇者は意気揚々と帰路につく。

 その姿を遠目に見ることしかできなかった……


 俺は仰向けのまま、天井を見つめる。


 痛みはある。

 悔しさも、ある。


 だが、それ以上に。


「……なるほどな」


 自然と、声が漏れた。


 戦っても、勝てない。

 本気でも、退屈させるだけ。


 こうして、第3娯楽は失敗に終わった。


 いや、正確には――

 “戦うことが娯楽にならない”と判明した、最も重要な娯楽だった。


 だから俺は決めた。


 ”戦場を変える”。

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