邪
第8話邪
テレパス——相手が僕に興味を持っているかどうかを計る目盛り。
人と繋がれる以上に、僕はそんな感覚を抱いた。
父さんは、僕と全然繋がらない。
田中、渡会、母さん、僕と繋がってくれる人たち。
そして……リィナ。リィナも繋がらない人の一人だ。
ちょっと物を拾ってあげただけの幼女と心が繋がるのに、乱暴されそうなところを助けたリィナとは心が繋がらない。
たしかに時間が経っているということはある。
だから僕は、あの時のことをちょっと話題に入れるようにした。
「リィナと初めて会った時は、結構怖かったよ」
「でしょうね。足が震えてへっぴり腰だったもん」
「あの時の男たちはどうなったの?」
「知らない、私は逃げたから」
「ど……逃げて大丈夫なの?」
奴隷という言葉は、どうしてもリィナに直接投げかけることができない。
「別に。大丈夫だよ」
やっぱりこの世界の奴隷制度が地球のものと違うのだろうか。
それにしても、一応恩人のはずの僕のことをここまで考えないものだろうか。
いや、僕は女子から想いを寄せられるような男じゃないから、仕方ないのかもしれない。
「助けたんだから俺に靡くのが当然」みたいなことも考えてない!
でも、何かが腑に落ちない。
田中と渡会に相談しても、何の解決にもならない。
田中は『女なんてそんなもんだ、気にするな』だし、
渡会はクラスのカースト上位の小森さんに恋して傷ついたからか『女はみんな敵だ!利用されないように気をつけろ!』などと言う。
こいつ、将来ネットで女叩きする厄介チー牛になるんじゃないだろうな。
田中だって女性経験なんてないはずだし。
そんなこんなでさらに三日ほど経つと、僕は不安になってきた。
異世界からの転移者であることを明かしたのはまずかったのだろうか。
僕のことを監視しているのではないだろうか。
考えれば考えるほど疑心暗鬼になってくる。
それを決定的にさせる出来事があった。
リィナが、また「やることがある」と言って出て行った後、僕は町に行ってみた。
一人で出歩くのは少し怖かったが、いつまでもリィナに頼ってばかりもいられない。
そこで僕は、町の人に奴隷について聞いてみた。
すると、答えはこうだった。
「奴隷なんて、今の領主さまが廃止なさいましたよ。でも今まで奴隷を使っていた連中が文句を言ったので、その折衝に随分苦労なさったみたいです」
「あっしも奴隷だったんですよ。でも、カイウス様が解放してくださってねえ。そのうえ働き口まで世話してくださったんで、みんな感謝してるんでさあ」
ここの領主のカイウス・エルダンがこの町の統治を始めてから5年と聞く。
そんなについ最近奴隷解放を行ったようには聞こえない。
それでは、リィナは一体何なんだ?
奴隷というものの認識は、地球にいたころと同じとしか思えない。
門番と対等に話したり、僕にご飯を奢ったりできるような存在ではない。
テレパスが通じないことを考えても、リィナが味方だとは思えない。
もしリィナが敵だとしたら、テレパスしか能力のない僕は魔法の杖で簡単に殺されてしまう。
何のためかはわからない。
でも、僕は異世界から来たと正直に言ってしまった。
それがこの世界にとって都合が悪ければ、消されてしまうだろう。
やっぱりありのままを言ったのは間違いだったのだろうか。
いや、今さら過去を悔いても仕方がない。
どうすればいい?どうすれば助かる?
こっちが気づいていることを悟られたら、木の的を粉々にする魔法の杖で殺されてしまうかもしれない。
……魔法の杖。常にリィナはそれを持ち歩いている。
それを手放す時を狙うしかない。
魔法の杖を手放す時。リィナが一番無防備になる時。
——お風呂に入ってる時だ。
……決して邪な気持ちではない。
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