テレパス
僕の知っている奴隷というものは、主の下で無理矢理働かされるものだ。
いくら乱暴されそうになったとは言え、それで主の下から逃げることができるだろうか。
しばらく僕の世話をすると言っていたが、奴隷にそんなことが可能なのか。
門番とも気安く話していたが、奴隷というものはもっと身分が低いものではないのか。
役所で普通に手続きをしていたが、ある程度の教養もあるように思える。
奴隷制度というもの自体が、僕の知っているものと違うのだろうか。
どうしても奴隷という言葉をセンシティブに捉えてしまって、そういったことについてリィナに質問することができなかった。
僕は、何か腑に落ちないものを感じながら眠りについた。
***
次の日、ぼくはリィナに起こされて目を覚ました。
「今日は能力鑑定に行くよ!」
……能力鑑定?何だそれは?田中に借りた本でよく見た、スキル鑑定みたいなものか?
水晶玉に手を当てたら魔力が強過ぎて割れちゃうみたいな。
「仕事をするにしても、何ができるのかが分からないと非効率的だからね」
少しワクワクしながらリィナに連れられて役所に行き、昨日作ったカードを見せる。
リィナは相変わらず杖のようなものを持っている。
「能力鑑定をお願いします」
リィナが、受付の女の人に話しかける。
すると、僕は裏の庭のようなところに連れてこられた。
リィナは「頑張って」と言って手を振っている。
よく考えると、僕は剣を腰に佩いたままだ。
周りにもそういう人はいるが、不用心ではないだろうか。
だが、その女の人は僕に剣を抜いて構えるように指示をした。
僕は、おっかなびっくりその指示に従う。そして、剣を振ってみる。
「そんな格好をしているから剣が使えるのかと思いましたが……」
う、何だか失望されてしまった気がする。
「どうしても剣士になりたいと言うなら止めませんが……」
いや、僕だって好きでこんな格好をしているわけじゃない。
こっちの世界に来たら勝手にこんな格好になっていただけだ。
だから剣士にはなれなくてもいいと伝えると、
「それでは魔法が使えるか見てみましょう」
と受付の女性が言った。
——魔法。異世界という感じがしてワクワクする。
水晶玉を割ったりしたら申し訳ないなあ、などと考える。
だが、現実はそんなに甘くない。
魔法の鑑定は受付の女性ではなく、年老いた男性が行った。
水晶玉ではなく正方形の板だが、手をかざすのは同じだった。
割れるどころではなく、微弱な反応を示しただけだ。
「ふうむ、テレパスが多少使えるようじゃな」
その老人は、そう言った。
テレパス。言葉を使わず直接心で話せる奴か。
……あまりパッとしないなあ。
世界も救えそうにない。
「ただ、そなたのは双方が思いを通じ合わせていないと使えぬ。相手もお主のことを強く考えていた時だけ、心が通じるのじゃ。相手の心を読む、ということには向かんのう」
要するに、僕がその人を思い、相手も僕のことを考えていないと繋がらないということらしい。
「それで、この能力は何の役に立つんですか?」
「ううむ、相手の気持ちが読めんから苦情処理も難しいし、気持ちが通じ合っているなら会って話せば良いし……」
老人が困っているのを見ながら、何となく電話のようなものかな、と思った。
だが、相手が僕のことを考えていないといけないのでは使い勝手が悪い。
偶然繋がる電話みたいなもの……何の役に立つんだ。
誰かと誰かを繋げられるならまだ使い途もあるけれど。
そう思った時、こっちに来た時に聞いた声を思い出した。
両親や田中、渡会の泣き声。
僕のことを想ってくれていたからなのか。
僕も1人でこんなところに放り出されて、思い出すのは家族や友人のことだった。
もしかして、異世界にいながら彼らと話せるのかもしれない、そう思うと希望が湧いてきた。
……仕事の役には立たなそうだけど。
お読みいただきありがとうございます!
小説書くのがすごく楽しくなってきました。




