笑顔
エリナは雄二とリィナを部屋に招き入れた。
「ユージ様、リィナ、ご心配をおかけして申し訳ありませんわ」
「こちらこそ、ごめん。僕のせいで……」
操られていたとは言え女の子に暴力を振るってしまうなんて、と雄二はずっと自己嫌悪に苛まれていた。
エリナが会ってくれないのも仕方のないことだろうと思っていた。
だから、エリナから「会いたい」と伝えた時の安堵感はひとしおだった。
雄二とリィナは、飛び上がって喜んでエリナの部屋にやってきたのだ。
リィナは、もう我慢できないという体でエリナに抱きついた。
そして、涙を流しながら
「エリナ、エリナぁ」
と名前を呼び続けた。
エリナと会えないことは、リィナにとってすごく辛いことだった。
お見舞いをしたいと言っても「今は一人にして欲しい」と断られてしまう。
その間、リィナの落ち込み様は酷いものだった。
だから、雄二は剣術の修業も休んでリィナと一緒にいた。
リィナの話はエリナのことばかりで、どれだけリィナがエリナを必要としているのかが雄二に痛いほど伝わった。
だから、こうして会えたことが嬉しくて仕方ないのだろう。
リィナの喜び様を見て、雄二も少し涙ぐむ。
「お二人とも、オルゲン様のお話は聞かれまして?」
エリナが言った。
「うん、お父さんをカイウス様のお父さんに殺されたんだよな」
「ユージ様を操ってカイウス様を殺そうだなんて、腸が煮えくり返りましたわ。でも、事情を聞くと少し同情する部分もありました。それに、魔法の腕は一流ですわ。私の身体を治してくれたのも、オルゲン様ですの」
「そうなのか?」
カイウス様の連れてきた治癒魔法師たちでもなかなか治せなかったらしいのに、一人でそんなことができるとは、と雄二は驚いた。
「ええ、オルゲン様のおかげで2人とこうして会えるようになったんですわ」
本当はリィナに対する嫉妬心も会えない理由の大きなものだったのだが、それは言う必要がないと思った。
ずっと自分にすがって泣き続けているリィナを見ると、自分の器の小ささを恥ずかしく思った。
「リィナ、ごめんなさい」
「ううん、エリナが元気になって良かった。こんなことになったのはオルゲンのせいだけど、エリナを治してくれたのなら許してやらなくもない」
リィナが、エリナに抱きついたまま口をとがらせる。
「それに、オルゲン様のお父上がリィナをこちらに召喚したのではないか、とも仰っていましたわ」
「え、そうなの?」
「ええ、召喚の魔法陣がずっと残っていて、それがリィナを捕えたんじゃないかと仰っていました。リィナからはお父上の気が感じられるんですって」
「じゃあ、あいつのお父さんのおかげで私はこの世界に来れたの?」
「そういうことになりますわ。私とリィナが会えたのは、オルゲン様のお父上のおかげですわ」
「その息子なら、優しくしてやるか」
リィナは、無邪気に笑う。
「あの方を迎え入れると聞いた時、私はここを出て行こうかと思いましたの」
「エリナが出て行くなら私も一緒に出て行く!」
「ふふ。でも、あの方とお話しして『この方も悪い方ではないな』と思いましたの」
「ええ、そうかなあ。私はまだ分からないや」
「お母さまを早くに亡くされていたそうですから、父一人子一人だったのですわ。そりゃあ、恨みも募るでしょう。リィナ、私が誰かに殺されたらどうします?」
「絶対許さない!復讐する!」
「ほらね、オルゲン様も同じだったのですわ」
「そうか……。あいつにはあいつの立場があるもんね」
そう話している横で、雄二は居心地悪そうにしていた。
下手をすると、自分がエリナを殺していたところだった。
そうすると、間違いなくリィナに殺されただろう。
「本当にごめん!」
と雄二は再び深々と頭を下げた。
「もしエリナに万一のことがあったら、操られていたとはいえユージを許せなかっただろうなあ」
しみじみと言うリィナの頭をエリナが撫でた。
「オルゲンさん、ここで働くことになるのか。普通に接することができるかなあ」
「でも謝罪された時は、本当にあれをやった人なのかな、と思うほどしおらしかったよね。まあ会ってすぐ『父上』とか言われた時は気持ち悪かったけど」
「あの時は僕もびっくりしたけど、リィナはお父さんが召喚したんだってわかったからだったんだね」
「それに思ったより若かったよね」
「少し年上のお兄さんって感じだったな」
エリナも、オルゲンに会った時のことを思い出しながら言葉を挟む。
「頼りになるお兄さま、という感じでしたわ」
「あ、そう言えばあいつ、私たちより先にエリナと会ってるんだよね。ズルい!」
「でもオルゲン様が治癒魔法をかけてくださったから会えるようになったんですのよ」
「そっか、忘れてた」
こうして三人は、以前のような屈託のない会話を楽しんだ。
オルゲンの言葉がなければわだかまりが残っていただろうな、とエリナは思った。




