異変
僕は、剣術の修業に精を出している。
強くなって、大事な人を守るため。
守られるだけの自分ではいたくない。
この世の中には、悪い奴もたくさんいる。
そう言った連中に屈しないために、僕は剣術の修業をしている。
僕にはテレパスしか能力はない。
だが、多くの人はそもそも能力をもっていない。
僕は、選ばれた人間なのかもしれない。
だからこそ、能力に胡坐をかかずに強くなるんだ。
悪い奴——カイウスのような奴から大事な人を守るために。
僕は、権力に屈したりしない。
あっちの世界にいた時の僕は、何の力もないただの高校生だった。
それでも、僕は田中や渡会と一緒にクラスのカースト上位の連中に立ち向かった。
こっちでも、その勇気を活かせる時が来るはずだ。
だから、僕は剣術の修業に精を出している。
***
今日も、雄二の修業を見にエリナがやってきた。
リィナに「誰かに取られるかもしれないよ」と言われてから、雄二を訪れる頻度が高まっている。
どんどんたくましくなっていく雄二に、エリナの気持ちは高まっていった。
恋をすると、相手がとても魅力的に思えるものだ。
そして、周りの異性も放っておかないのではないかと危機感を持ってしまう。
だから、つい毎日のように雄二の練習を見に来てしまうのだ。
だが、残酷なことにいつも恋する者とされる者は鈍感なものだ。
雄二と一緒に修業をしている周りの人はエリナの気持ちに気づいているが、雄二だけは気づいていない。
そして、エリナも周りの人に気づかれていることを察していない。
そんな健気なエリナに、雄二が声をかける。
「いつも来てくれてありがとう。エリナに応援してもらうと、力がみなぎってくるよ」
普段とは違う堂々とした言葉に、エリナの胸が高鳴る。
「い、いいえ。先日は助けていただきましたし、何かとお世話になっておりますし……」
少ししどろもどろになりながら、エリナが言葉を紡ぐ。
「僕は、君を守りたい」
エリナの目を真っすぐ見つめながら、雄二は言った。
エリナは、顔を赤くする。
「え、え、それは……一体……」
「君だけじゃない、虐げられている人たちを救いたいんだ」
……?。
エリナは、首をかしげる。
——《虐げられている?》誰が、誰に?ユージ様は何を言っているのだろう——
エリナの頭は混乱した。そして、雄二の顔を覗き込む。
——何かが違う。
普段の穏やかで優しい顔ではない。
憎しみに憑りつかれたような顔だ。
「ユージ様?どうしましたの?誰も虐げられてなんかいませんわよ?」
カイウスの父である前の領主の時は、民衆が虐げられていると言っても良い状況だった。
だが、今は違う。カイウスの治世に、ほとんどの者が満足しているのだ。
「済まない、声が大きかったな」
雄二は、声を潜めてエリナに謝る。
「だから何を言っているんですの?ユージ様、何か変ですわよ?」
その時、エリナの頭に言葉が響いた。
「カイウスは、僕が倒すから」
それは、雄二からのテレパスだった。
今のエリナは間違いなく雄二のことを考えているので、送ろうと思えばテレパスを送れるのは当然のことだ。
今までもそうだが、大体近くにいるのでわざわざテレパスを使うことはなかった。
雄二からの初めてのテレパス、それはエリナの恩人に対する言葉。
エリナは何かを言い返そうとしたが、言葉が出てこない。
目の前にいる雄二は、昨日までの雄二とは違う。
ハッキリどこが、とは言えないが、雰囲気が違うのだ。
エリナは、どうしていいのかわからなくなった。
この場で雄二と言葉を尽くすべきか、カイウスやリィナに相談するべきか。
今のエリナにわかるのは、ここにいるのが自分の好きな雄二ではないということ。
最近カイウス様の前ではおかしな態度を取ることもあったけれど、二人でいる時はカイウス様への感謝を語り合えた。
カイウス様の力になれることを嬉しく思い、それが幸せだと思うことができた。
雄二に負けないように自分もカイウス様の役に立ちたい、雄二とリィナと三人でカイウス様を支えていきたい、それが自分の生きる喜びだと思えた。
それなのに——。
エリナは、修行に戻る雄二の背中を呆然と見送ることしかできなかった。
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