過去
リィナが振り下ろした木剣を、僕は真っすぐ受け止める。
さすがに単純な力だけなら、男の僕の方が強い。
リィナは後ろに飛び退き、僕の胴を狙う。
僕は剣を縦に構えてリィナの剣を受けつつ後ろに下がる。
僕の方からリィナの胴を払いに行くと、リィナは身軽にこれをかわす。
リィナの動きを追おうと体を反転させたが、そこにリィナの姿がない。
僕は咄嗟に体を地面に落として腹ばいになる。
その上を、リィナの剣が通り過ぎる。あのまま立っていたら胴を払われていただろう。
地面を転がって間を取ってから立ち上がり、僕は真っすぐリィナに向かっていった。
リィナは、それを待ち受けるように剣を上段に構えている。
そのまま振り下ろすしかないような姿勢のリィナの剣に備えて、僕も自分の剣を頭上に構えた。
その次の瞬間、リィナの剣は曲線的な動きで僕の剣を避けて胴に到達した。
「!」
それほどの痛みがないよう手加減してくれたのだろう。
まだまだ僕は、リィナに勝てる領域にはない。
「随分頑張ってるじゃない」
とリィナが僕に笑いかける。
女の子にあっさり負けたうえにこんなことを言われたのに、不思議と悔しさはない。
「いつか絶対勝って見せる」
と僕はリィナに言った。
「じゃあ、私も負けないように稽古しないとだね」
それからリィナは、うつむき加減に呟いた。
「もっと強くなれば……」
そして、リィナは顔を上げた。
「ねえ、ちょっと話聞いてくれる?」
***
リィナは、僕の部屋に入ってきた。
少し前まで、リィナはこの家に僕と一緒に住んでいた。
カイウス様を害する者かもしれない僕の素性を探るために。
あれから少し壁を感じていたが、久しぶりに2人きりで話すことになった。
僕が少し緊張していると、
「ユージは、地球から転移してきたんだよね」
とリィナが聞いてきた。僕が頷くと、リィナは言った。
「私も、ユージと同じなの」
「……え?」
「だから、私も昔は地球に、日本に住んでいたの」
そう言われて、少し腑に落ちるところがあった。
初めて名前を書いた時、漢字を見ても普通に「それじゃここでは通じない」と言われた。
トイレに関しても、町の人は家の中の壺に用を足していたのに、リィナは外に穴を掘っていた。
「初めて会った時は8歳って言ってたよね。本当は何歳なんだ?」
「わかんない。こっちの時間の進み方は向こうとは違うみたいだから、数え方が分からないや。私がこっちに来た時……向こうで死んだ時は、10歳だった」
「そんなに小さいのになんで……」
「私は、死んでよかったよ」
あまりな言葉に僕は何も言えなくなる
「私ね、ずっとお父さんに殴られてたの。お母さんも庇ってくれなくて、服なんかもあまり買ってもらえないし汚くてみすぼらしくて、学校でもいじめられてた」
「……」
「私の誕生日は12月24日だったの。学校でみんながケーキやプレゼントの話してて、すっごく羨ましくて。お父さんに「今日、誕生日なの」って言ってみたの。そしたら、いつもよりたくさん殴られて、お水ぶっかけられて、ベランダの外に出されて……」
「……」
「痛くて、怖くて、寒くて、悲しくて……。全身が震えてるんだけど、涙が出るところだけが少し暖かいの。でも、やがて涙も冷たくなって、出なくなって、何も感じなくなって」
リィナ……。
「ふふ、誕生日が命日になっちゃった。あれ、日にちは変わってたかもしれないな。真夜中に死んじゃったから。それから長い間眠ってた気がするけど、急に光のトンネルを通り抜けて、気が付いたらここにいたの」
光のトンネル……僕もそれを通った気がする。
「ほとんど同じ時期にエリナと一緒にカイウス様に拾っていただいて、その時どう見ても私と同い年くらいのエリナが『5歳です』って言ってたから、私もそれに合わせたの。エリナはご両親を亡くしたみたいで、誕生日も言ってたけど、私はわからないって言った。こっちの暦がわからないし……思い出したくないし」
それから、リィナは少し笑った。
「私、向こうでは里菜って名前だったの。でもエリナとリナじゃ似過ぎかなと思ってリィナにしちゃった。エリナも日本にある名前だから転移者じゃないかって思った時もあったけど、全然違ってた」
リィナの声が、震え始めた。
「エリナはね、とっても優しいの。私が向こうのことを夢に見て、怖くてうなされていると、私の部屋に来て抱き締めてくれるの。エリナは、すっごくいい子なの」
「うん」
「ユージは、エリナが好き?」
「……え?」
急に話が飛躍したので、僕は狼狽した。
「エリナに……幸せになって欲しいの……エリナが……大好きだから……」
リィナの目からは、涙が溢れている。
「でも、エリナがいなくなるのが怖いの……エリナを取られたら……私……」
「リィナ……」
「こんなこと言うつもりじゃなかったの!エリナを幸せにしてあげてって……でも、一人になるのが怖いの……私、私……」
リィナは、顔を覆って泣き出してしまった。
僕は、リィナを抱き締めた。
「……私、嫌な子だ……エリナに幸せになって欲しいのに、自分のことばっかり……」
リィナは、泣きじゃくりながらそう呟いた。
「早く強くなって……エリナがいなくても大丈夫になるの……」
父親の暴力に負けない自分になれば呪縛から逃れられると思っているんだろうか。
リィナには、守ってくれる人が必要なんじゃないか。
……。
「エリナは、リィナが地球から来たことを知ってるの?」
「ううん、まだ言えてない……。何となく、怖くて……」
それからリィナは「ごめんなさい!」と言って部屋を飛び出していっ




