謎の輝きとゴリラの決意
真っ暗なのか、光り輝いているのかよくわからない空間。
シルバーバックは頭を下にして落ちていく。
物理的に落下運動をしている光景。
だがいつまでたっても落ちていくままで地面に激突する気配はない。
「……?」
シルバーバックは疑問に思った。
自分は死んだはずだ。ねむるはずだ。
何が起こっているのだ。
そのとき、シルバーバックの体は回転し通常の姿勢に戻った。
なお、ここでいう通常の姿勢とは、前足の拳と後ろ足を地面につけて立っている姿勢である。
この状態で歩くのはナックルウォークと呼ばれる。
謎の輝きが遠くから近づいているのが見える。
それは、まるで蛍の光のようなものといえるが、
それと比べると明らかに強い光で異様な感じがする。
太陽のような形容しがたい色で強い何かを感じる。
シルバーバックはおびえた。
謎の輝きは言った。
「恐れることはない」
しかしシルバーバックは人間の言葉が分からなかった。
……それは言葉ではなかったかもしれないが、
どちらにせよ高度な概念を理解することができなかっただろう。
だからおびえたままだった。
謎の輝き「……」
「仕方ないね。一時的に言葉が分かるようにしてあげよう。」
「恐れることはない。」
ようやくシルバーバックは恐ろしくてそむけた顔を向け、閉じていた目を開けた。
「俺は……何故言葉が分かる?おまえ、何者だ……?」
「この世界の人は私のことを神と呼んだりすることもあるが……、ゴリラであるあなたにはあまり意味のないことだろうね」
「ふむ?それで…何が起きている?ここはどこだ?」
「あなたはしんだ。」
「やはりそうなのか。」
「ここは魂の回廊とでもいえばいいのかな、適切な語彙が見当たらない」
「ほう?」
「これから深い穴に行くのか?ようやく眠れるのか?」
謎の輝きは言った。
「いや、、このまま眠ってもよいのだが……もう一度生のチャンスを与えようと思ってな」
「???さっぱりわけがわからない。」
「理解する必要はない。人間だってそれに直面したらわけが分からない。」
「それで俺はどうすればいい?」
「選択。再びの生か、眠りか。」
「その前に聞かせてくれ。再びの生で家族にもう一度会えるのか?」
「それは無理だ。そこの世界にあなたの想像するゴリラの家族は居ない。」
「……偶然、運よく魂が巡り合えば、、再び会うこともあるかもしれないが」
「その家族はゴリラの姿をしていないので十中八九あなたは気づかないだろう……。」
「そもそも俺という生き物はゴリラだったのか?」
「そうだ。すくなくとも人間はあなたの種族をそう呼ぶ。」
「ほう。俺はゴリラだったのか。人間の言葉ではゴリラだったんだな。」
「そうすると、再びの生はおれはゴリラとは別の姿になるということか?」
「いや。ちがう。あなたはゴリラのまま。シルバーバックの姿のまま。」
「そこで第二のゴリラの生を送ることとなる。」
「ふむ。」
「それだけではきついかもしれない。だから特別に何か加護を一つだけ与える。」
「ほう?」
「何がいい?何を望む?」
「その前に聞かせてくれ。俺はなぜ人間に負けたんだ?それが知りたい。」
「了承した。単純なことだ。あなたの種族、ゴリラは人間よりはるかに知能が劣る。
いや、、言い方が悪かった。。人間の知能がチートレベル並みに良かったのだ。
フィジカル、、筋肉の力ではゴリラのほうが何倍もまさっている。」
「また、生前に人間の言葉を理解できなかったり、人間の行動や人間の持つ武器の原理が理解できなかったのはそのせいによる。」
「ふーむ、、では、俺の家族や同胞のゴリラに似ているがちょっと小さい黒い毛皮のライバル、、何と呼ぶか分からないが、、あいつらも人間と比べると知能が劣っていたのか?」
「そうだ。あなたの頭の中のイメージを読み取った。あいつらは、、人間からはチンパンジーと呼ばれている。」
「ほう?チンパンジーとな。これまた変な名前だな。人間は奇妙な名前を付けたがる生き物なのかな?」
「それで、、俺の再びの生に何を期待する?」
「できれば、魔王チンパンジーを討伐してもらいたい。だが、君は元々種族的に臆病で神経質なゴリラだ。無理強いはしない。」
「魔王?」
「そうだ。第二の生は魔法のある世界。」
「少々言いにくいのだが……」
「なんだ?言ってみろ。」
「了承した。以前、あなたと同じように殺されたチンパンジーがいた。」
「そりゃ気の毒に。それがどうしたのだ?」
「だから、そのチンパンジーに加護を与え、再びの生を歩ませた。」
「それ自体はなにか問題のあることなのか?」
「問題ない。しかし、結果が問題だった。」
「チンパンジーは人間と同等の知性を与える加護を求めた。
彼は必死に努力した。そして魔王となった。」
「ふーん?」
「でも魔王となったチンパンジーは今や人間の絶滅をたくらんでる。」
「ほお?」
「え?」「まさか……その魔王チンパンジーとやらを俺に討伐せよというのか?」
「できれば。人間が絶滅すると私にとって少々都合が悪い。でも無理強いはしない。
どう生きるかは自由だ。仮に君が敗北したとしても、仮に君が初めから戦闘を避けゴリラとして一生を終えたとしても、責めることはない。」
「ふーむ。。。」「考える時間を与えてくれ。」
「了承した。」
三時間後
「なあ、光よ?」
「なんだ?ようやく決めたのか?ゴリラにしては早い決断だったな。」
「そのチンパンジーと同じ加護をあたえてくれ。人間と同等の知性を持つようになるという加護だ……」
「了承した。だが一つ弱点もある、それをあらかじめ伝えなければならない。」
「なんだ?」
「極度に怯えたり、怒ったり、要するに……あまりにも感情が高ぶりすぎると一時的にその加護は効力を失う。そのきは、あなたは一時的にもとのゴリラに戻る。ただ、言葉や複雑な感情、人間並みの高度な理性が失われ、ゴリラ並みに戻る。しかし、記憶だけは決して失われないので安心してほしい。」
「……えらい弱点じゃねえか……」
「そうだ。しかし人間の知能それ自体がもう、、チート並みなんでな、、これでも加護で実現するにはそもそもかなり無理があるのを頑張ったほうなんだ。どうせなら猿人の頭を、、いや何でもない。。」
「まてよ、、?それはさっき言っていた魔王チンパンジーも同じなのか?」
「ゴリラにしては聡いな。そのとおりだ。だが少し違う。チンパンジーは度胸があるのでゴリラよりは多少弱点をさらしにくいかもしれない。たとえば、、チンパンジーはゴリラよりも怯えにくい。そういう生物学的な理由だ。」
「ふーむ。。。」「考える時間を与えてくれ。」
「」(ゴリラだしな、、無理もあるまい……)
三時間後
「決めた。その第二の生とやらに挑戦する。」
「な、なるべく魔王チンパンジーとやらを討伐するのを目指すよ。」
しかしその腕と脚は明らかにがくがくふるえている。
「了承した。だが、何度も言ったように無理はしなくていい。
それと、もし討伐に挑戦をするのならまずは仲間集めをするのがセオリーだ。
詳しい内容は、、それは運よく出会いがあれば、異世界の住人たちがいずれ教えてくれるだろう。。
大丈夫、大丈夫……人間並みの知性とそのゴリラのフィジカルがあればなんとかなるさ。」
「では、異世界の穴を開く。気楽にしていい、、もとよりあまり期待はしていないからね。。」
突然、シルバーバックの目の前が明るくなったかと思うと、
体は地面にドスンと激突した。異世界の地に到着したのだ。




