魔王チンパンジーと魔導新聞
魔王城内
魔王チンパンジーは魔導新聞を読みいらだっていた。
「なんだこれは!巨人・勇者ゴリラって一体なんのことだ!?」
ダン!と思わず机をたたいたが、今度の机はシンプルな作りで
装飾よりも頑丈性を優先して作られていたので壊れなかった。
机上のフクロウ型の魔族はその振動に驚き、その場で飛び跳ね羽ばたき着地すると言う。
「……はっ。メーロッパの辺境の地にて、最近、森林より現れた全身が毛むくじゃらの巨人でございます。なんでも傍らにはよく白エルフを従えているようですが」
魔王チンパンジーは身を乗り出す。
「それで、その巨人とやらはどんな姿をしているのか?丸耳の人間の仲間か?」
「えっと、今しがた、映像を用意します……しばしお待ちを……」
壁に魔法陣が長方形の角を作るように四つ並び、
魔術で、現地のカラスに擬態した魔族が直接見た映像が映し出される。
そこには、直立し、二足歩行し、
町の人と普通に談話をする全身が毛むくじゃらの生き物が映っていた。
魔王チンパンジーは頭をかしげ、怪訝そうな顔をしている。
「なんだ……これは……?われによく似ているが……明らかに違う生き物だな……」
「どうみても丸耳の人間ではないな……」
フクロウ型の魔物が答える。
「どうやら、あなたの居た異世界では『ゴリラ』と呼ぶ生き物のようでございます。」
「どういうわけか巨人として人になりすまし、丸耳の人間のエリアで活動をし始めたようです。」
「ふむ……そういえば思い出した……われの居た群れと時折遭遇するが
体躯は巨大なものの争いを好まず避ける臆病な種族が居たな……」
「それはゴリラっていうのか……しかしなんでまたよりによって憎き人間の真似をしているんだ?」
魔導新聞のスタッフであるカラス型の魔族が答える。
「はっ。我々の現地調査によると、勇者志望であるらしく、勇者を目指すべく……人間社会に慣れようとしているようでございます。しかしどうも性格が非常に臆病らしく丸耳の人間の一挙手一投足にいちいちビビっている有様でございます。」
魔王チンパンジーはその丸耳の人間にビビりちからす巨人の映像を見ながら、話を聞いて笑い出す。
「これは笑えるな……とんだ臆病者だ。これでは勇者志望どころかここに来るまでの魔物にすら勝てないだろう……」
魔王チンパンジーはチンパンジーの出す笑い声をあげた。人間の笑い声は気に入らなかったからだ。
フクロウ型の魔族が尋ねる。
「それでどうします?臆病者とはいえ後々……魔王チンパンジー様の脅威になるやもしれませんぞ……」
魔王チンパンジーは眉間にしわを寄せ、牙を見せて言う。
「それは……聞き捨てならんな……だが、もしこっちに来たら返り討ちにしてやるまでだ……それに今の様子を見る限り、何の脅威もない……赤子の手をひねるくらいたやすい……そのまま放っておけ……」
手を振り続けて言う。
「それより……われの勘では、そのゴリラより傍らの白エルフが厄介になるかもしれない……くれぐれもそいつの観察を怠るなよ……」
フクロウ型とカラス型の魔族は同時に答えた。
「はっ。承知いたしました。魔王チンパンジー様。」
魔王チンパンジーはふと何かに気づくかのような顔をして話を変える。
「ところで魔導新聞って人型魔族が発行しているようだが……なんで丸耳の人間のエリアまで範囲を広げて発行しておるのだ?」
魔導新聞のスタッフであるカラス型の魔族が答える。
「はっ。それはもちろん、各地の情報収集のためと、丸耳の人間との戦いにおいては、有用な情報を先に握るものが有利になるからであります。それと、発行すれば当然買う人も居る……貴重な現金収入の一つでもあります……」
魔王チンパンジーは目を見開き尋ねる。
「憎き……丸耳の人間から現金収入を得て……一体どうするのだ?」
フクロウ型の魔族が答える。
「それは……魔王チンパンジー様の食事代や遊興費、魔王城の家具やインフラ……もろもろに使わせていただいております。そのおかげで魔王城も清潔になり利便な暮らしができているというわけでございます。」
「ふむ……ならば現金はせいぜい搾り取っておけ……だが本来の目的である丸耳の人間の絶滅計画は忘れていないだろうな?」
フクロウ型の魔族が答える。
「も、もちろんでございます!現状、本日も魔王城に向かっている勇者のパーティを殺戮しました。そのうち丸耳の人間は合計13人かと」
魔王チンパンジーは首をかしげる。
「今日はたった……13人か?おかしいな……どうも丸耳の人間同士で殺しあい、死亡した人数のほうがはるかに多いようだが?……そっちは154人だぞ……?」
カラス型の魔族が答える。
「丸耳の人間はどうも好戦的な種族のようで、町によっては、日々盗みや喧嘩を繰り返しそれがエスカレートして殺し合いに発展するケースもあるのです。要するに……治安が悪いってことですな。」
魔王チンパンジーは何か思案してからしかめづらで言った。
「それはそれで人口が減るから結構なことだがじつに気に入らんな……ふむ……チンパンジーの群れ同士の争いでも死者数が出ることがある……場合によっては群れごと殺戮することもある……これではまるで丸耳の人間は……われの種族、チンパンジーみたいではないか……」
「もうよい……大体わかった……二羽とも……もう下がってよいぞ……われはこれから夜のお楽しみをといきたいところだからな……」
机の下には、チンパンジーのメスの姿に変身する術を身につけ遠く遠くのジャングルの奥地から帰ってきたサキュバスが、チンパンジーのメスの姿で控えていた。
フクロウ型の魔族は顔ごと横に向け両目で、カラス型の魔族は横顔で片目で顔を見合わせていたが、ここでうかつに発言してしまうと魔王チンパンジーの世にも恐ろしい手刀によってその場で粛清されるのを予見していたから、お互い考えているであろうことについては何も言い出せなかったのであった……
フクロウ型とカラス型の魔族は答える。
「はっ……承知しました。魔王チンパンジー様。これにて失礼します。」
バリアを開け閉めし、二羽の鳥型の魔族はトコトコ歩きその場を後にする……




