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俺が、『勇者ゴリラ』だ……

メーロッパ森林内


白い少女は、ゴリラである俺に向かっていう。

「色々練習したし、今日は……酒場に行ってみましょう!」


酒場か……あのオウムが何やら人の歌を覚えてきたところか。


今の俺は人の言葉を話せるようになっていたから、

人の言葉を話し尋ねる。

「それで、酒場に行ってどうするの?」


「うーん、そうね……まずは人馴れね。あなたが仲良くなった人は多分……私一人だけでしょ?仮に勇者として活動するならパーティを組む必要があるのよ。」


「……パーティ?」


「魔王チンパンジーを倒すには一人だけでは無理ってことね。一緒に戦うための仲間の群れをパーティって呼ぶのよ。」


「そうか……?それがパーティか……」


俺はしばし思案してから尋ねる。

「……正直に言うと俺は今でもまだ人が怖い……パーティは森の動物ではだめなのか……?それはどうしても人でないと……ダメなの……?」


俺の情けなく悲しい顔と言葉を聞いて白い少女は急にくるっと体を翻しあちらを向いて吹き出す。

「……!……!……うっ!くっ、ひっ、ひひひひっ……」

その尖った耳はピン!と上に動き、ぴくぴく震える。

俺には何が可笑しいのかわからんが……

こみあげてくる笑いをなんとかこらえているようだった。


しばらくして少女は落ち着きを取り戻し、こちらに向き直る。

「ひーはー……そうよね……あなたはゴリラ……だもんね……でも……勇者になるには……私以外の人との交流は避けて通れないわよ……」


「……そうなの?」


「そうよ。魔王チンパンジーは強力な魔法を使ってくるわ。それにあなたと同じ『知性』の『加護』持ちだから人並みの知性を持っている。つまり森の動物だと残念ながら、戦力としては力不足ね……返り討ちにあうだけだわ!」

そう言うと白い少女はやれやれと言ったように肩をすくめる。


「ええ……」


「……パーティの話は一旦置いときましょう……今日の目的は……他人に慣れることよ!酒場で他人とお話をしたり、交流ができたらそれだけで充分、上出来だわ。」


「そういうものなの……?」


「そうよ、行きましょう!……おっと、酒場にいくのは夜にしたほうが人目につきにくいわね」


俺たちは日が暮れるのを待った。


森林を移動し、そこの目の前には道路と酒場が見える。

あたりはすでに日が暮れてから時間がたち暗く、

道路を通る人間もすっかりいなくなり静寂が広がる。


俺と白い少女は森林をぬけ、道路を横断し、目の前の酒場へと向かう。

とうとう酒場のドアの前に立った。

俺は拳をつけた四つ足の姿勢で立っている。


少女は確認するように言う。

「……いい?ここから直立の姿勢を保ち、室内では二足歩行するのよ。第一印象は大事だからね!」


……そういうものなの?


「いきなりテリトリーに他の獣が入ってきたら周りの人がびっくりしちゃうでしょう?」


ふーむ、それはそうかもしれないな……?


「それともう一つ、もし名前を聞かれたら『勇者ゴリラ』と名乗りなさい……!」


勇者ゴリラね……?まだ俺は勇者になると決めたわけじゃないんだが……

俺は心配そうに白い少女の顔を見つめる。


「いいのいいの。あなたがゴリラという種族であることはまず間違いないんだし、勇者志望であることには変わりないんだから!」

「だから……簡単に縮めて言えば……それは勇者ゴリラよ!」

少女は自信たっぷりに言う。


「……心の準備はいい?いくわよ?」


「いや……まだだ……まだ待ってくれ……」

俺はドアを前にして立ちすくむ。


白い少女はやれやれとため息をはき、尖った耳が垂れ下がる。


やがて、俺は覚悟を決め、直立姿勢をした。

白い少女はそれを見るとおもむろにドアを開けた。


白い少女は元気よく声を挙げる。

「やあやあ、酒場のみなさん、こんばんわ!」


目の前には図体の大きい人の男性が何人かの集団で、

それぞれテーブルを囲み、椅子に座っていたり、立ったりしているのが見える。


俺はそれをみて心拍数が上がる。

人間の男性がこんなにたくさん……

生前では一度も目の前にしなかった光景だ……

俺は何とか心を落ち着けようと深呼吸をする。


あたりはさっきまでわいわいしていたのがおさまり、

やや静まる。しばらく沈黙が訪れる。


そのうち図体のでかい男性の一人が声をかける。

「嬢ちゃん、……もしかしてエルフか?こんなところに来るとは珍しいな……」


「それで、隣のこいつは……なんなんだ……こんなの見たことないぞ……?」

その目は俺の姿をみて明らかに動転しているようだった。


白い少女は自信たっぷりに言う。

「この人はね……遠い遠い異国の地からやってきた巨人よ!」


酒場の男たちがざわざわし始める。

「きょ、巨人だって……?!」


「そうよ、巨人よ!遠い遠い異国の地からやってきたから世間知らずなことも沢山あるけど仲良くしてやってね!」

少女は俺の顔を見上げると言った。

「ほら、自己紹介して!」


俺は息を吸い込み、事前に打ち合わせたとおりに人の言葉ではっきり言った。

「……俺は、勇者ゴリラ!勇者ゴリラだ!」


酒場の人たちはざわざわしている。そのうち白いフードを纏った者が言った。

「まさか魔物……?いや魔物のオーラは全く感じないな……確かに巨人なのか?……それにしては妙にずいぶんと毛深いな……?」


白い少女はそれでも自信たっぷりに息を吐くように嘘を重ねる。

「ええそうよ!この巨人は残念ながら生まれつき体中が毛深くなる病気を患っているのよ!でも健康でその巨人のパワーは人よりも何倍もあるわ!」


酒場の人たち

「本当か?」

「巨人だって?」

「人よりもパワーが何倍もあるって?」

「……ゴリラって何?ずいぶんと変わった名前だな……」


ざわざわはまだ続いていたが、

そのうち勇敢そうな屈強そうな体をした男性が近寄ってくる。

「面白い……俺はこう見えても肉体には自信があるんだ……腕相撲勝負と行こうではないか……」

そう言って腕で力こぶをつくりこちらに見せてきた。


これが人間流の誇示行動……なのかな……?

……ウデズモウショウブ?


白い少女は言う。

「ああ、この巨人は世間知らずだからね。腕相撲のルール教えてやってね!」


屈強そうな体の男性は驚きと呆れが混じりつつ言う。

「……おいおい?そこまで世間知らずなのかよ?しょうがねえな、いいだろう……テーブルのほうへ来い……」


俺は男性に言われるがまま、

屈強そうな肉体の男性とテーブル越しに向かい合わせにし、椅子に座った。


「そんでな、思いっきり腕に力を込めるんだ。それで腕だけの力で、相手の腕を押し倒したほうが勝ちだ。」

そう言って、さらに隣に座っていた別の男性と腕相撲をし、デモンストレーションをした。

「で、押し倒されたほうが負け、押し倒したほうが勝ちだ。……簡単だろ?」


大体わかったけど?……俺は不安げに隣にいる白い少女の顔を見やる。

白い少女は何も心配ないよとでも言うな顔をしてうなずいている。


数分後


屈強そうな男性は信じられないような顔をしていた。


何故なら俺が言われるがままに腕に力を軽く込めただけで

屈強そうな男性の腕をすぐに押し倒してしまったからだ。

何度も勝負をしたが、何度も俺の勝ちだった。


……?俺はこの人たちは何がしたいのだろうか?……と考えている……


「くそ!信じられない!今度は三人がかりだ!お前ら来い!」

「マジか?!やるぞ!」

「うぉぉぉぉ!」


今度は屈強そうな男性が三人がかりで俺の腕をつかみ、

再度腕相撲をする。前よりもちょっと力を込める必要があったが、

これも俺の勝ちだった。


男性たちは唖然として呆けている……

最初に声をかけてきた屈強そうな男性は言った。

「嘘だろ……?俺が今まで鍛えた肉体は……努力は……何だったというのだ……?」

続けて言う。

「それで、君が、勇者ゴリラ……か……?」


俺はただ聞かれたのでオウム返しのように答えた。

しかし人の言葉ではっきり、答えた。


その時の俺は悲しい顔をしていたが、

相手の目には極めて真剣な顔に映ったのかもしれない。


「そうだ。……俺が、勇者ゴリラ……だ……」


酒場はざわざわの度合いが高まる。

そのうちなぜか歌の合唱が始まった。


「勇者ゴリラ!」

「勇者ゴリラ!」

「勇者ゴリラ!」


「打倒!魔王チンパンジー!負けるな人間!」

「勇気!振り絞れ!俺たちゃ敵なし!」


こうして、白い少女と俺は酒場を後にした。

白い少女は俺の頑張りを褒める。

「今日は他人と少しだけ交流出来たね!よくできたね!えらい!えらい!」


俺は拳をつけた四足歩行に戻り、少女と目線を合わせて聞く。


……ところで、きみってエルフだったの?

「あー……言ってなかったっけ?こんな風に耳が尖ってる人はエルフって言うのよ。」

「ここのあたりの丸耳の人間とはよく似ているけど、厳密には違う種族ね。」

そう言うとその尖った耳をピコピコと動かして見せた。


「ふーん……エルフねえ……?」

俺はその尖った耳を改めて不思議そうにみつめる。


そうして俺たちは森林へと戻っていった。


……


この世界で一つだけ確定したことがある。

それは……後世の人間の中に『勇者ゴリラ』と

本気で名乗るものがたった一人も現れなかったということだ。

なぜならば、ガチの動物のゴリラが勇者を名乗っていた時代があったからだ……

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