ゴリラ 人の言葉を話し、お使いに成功する
メーロッパ森林内
二か月後、俺、ゴリラはとうとう風を起こす魔法を習得した。
そして白い少女のもとで舌の動きの特訓を重ねた。
更に風を起こす魔法を喉からだしそれを慎重に調節する術も身につけた!
その結果……
俺……ゴリラは異世界に来て初めて、
ようやく異世界人の言葉を発音することができた!
……「ゴリラ!」「オレは、ゴリラだ!」
喜びのあまりその場で飛び跳ね、ドラミングをする。
オマーキも俺が上手く発音できるようになったのを嬉しく思い
その場をグルグル走り回る。少女の真似をして拍手をする。
白い少女はそれを見てうんうん頷いて笑顔を浮かべている。
そして俺に向かって号令を発する。
「タテ!」「アルケ!」
俺はそれに従って背筋をピンと伸ばし……
それから人のように二足歩行をする。
以前から並行して後ろ足のスクワットや
二足歩行のウォーキングの特訓も重ねていた。
今では数分間続けて二足歩行ができるようになった。
しかし、俺は疑問に思う……
……なぜゴリラである俺が人の真似をしなきゃならないんだろうか……
直立姿勢のまま人の言葉で白い少女に問いかける。
「オレはゴリラだ、何故……人の真似をしないといけない?」
白い少女は間をためてからつぶやくように言った。
「騙す……この世界を騙す……」
不敵な笑みを浮かべている。
その目は……いつもと違ってヘビのような感じがした。
え……世界を騙す……?どういうこと……?
さらに白い少女は続けて意味不明な発言をした。
「ゴリラは人である」「ゴリラは猿ではない」
……?!
……??????????
いきなり何言っているの……?この少女……?
俺は困惑した表情を浮かべ、
何やら不穏そうな発言をしだした少女を見下ろす。
少女は俺を見上げてさらに言う。
「『知性』の『加護』のあるゴリラは……もはや人と同じ!」
え……?
いや……ちょっと……??
「今のあなたならきっと……ユウシャになれる!」
「『加護』を持った者は……たいていユウシャだったからね!」
そう言うと少女は胸をドンと叩いた。
……ユウシャってなんのこと?
白い少女は腕を組んで言う。
「魔王を……討伐するもの」
「それが勇者……ってことね」
……ああ、思い出した。
そういえばこの世界に来る前に、謎の光が言っていたな……
「できれば魔王チンパンジーを討伐してほしい」と。
え……?俺はそれを期待されているの?
白い少女にも……?しかし白い少女の目はらんらんと輝いている。
ちょっと待って……?そんな無茶苦茶なこと言わないでよ……
俺はおびえ、悲しそうな顔を浮かべ、拳を地面につけ四つ足に戻り、
「近づかないで」の意味のドラミングをし、ゴリラの鳴き声をあげ、
寝転がり自分自身は紛れもないゴリラだとアピールする。
白い少女の眉はハ字になり呆れた顔をしている。
やや失望したかのように尖った耳は下がっている。
「やれやれ……まだ早かったかな……?」
「……いいわ、話を変えましょう……」
「あそこを見て、果物店があるでしょ?」
ああ、あそこね?俺が以前、目に見えている果物が欲しかったけど、
「あの果物が欲しいが俺は人ではなくゴリラだから無理だろう……」
と思っていたあの場所ね。
白い少女は口角をあげ、まるで悪魔のようにささやく。
「そこで、あなたはゴリラではなく……人のふりをすれば……」
「果物が手に入るわ……」
!!!!!!!!!!!!!
そ、それは本当か?!
俺はがぜんやる気が出てきて鼻息が荒くなる。
「でもその前に、オカネの概念を覚えないとね」
……オカネって何?
「ちょっとその場に座ってくれる?」
俺はその場に腰を下ろした。
少女はオマーキを呼び出すと、
その場で、ベリーと食べられる葉っぱを並べた。
少女の傍にはベリーが一個、オマーキの傍らには葉っぱの山がある。
「コウカン」
そう言うと白い少女はオマーキにベリーを渡す。
オマーキはお返しに葉っぱの山を丸ごと渡す。
「コウカン」
白い少女はオマーキに今度は葉っぱの山を渡す。
オマーキはお返しにベリーを渡す。
これがコウカンか……?
「そうそう、これが交換、それで、これがオカネ」
白い少女は身に着けている服とやらから
何やらキラキラ鈍く光る丸いものを持ち出した。
少女はオマーキにそのオカネとやらを渡す。
オマーキは葉っぱの山を渡す。
オマーキはそのキラキラしたものを不思議そうに眺めている。
そのうち、試しにオカネをかじりつくが
これは硬いしそれにどうみても食べ物じゃない!と不満そうな顔をする。
それでも少女は、次はベリーを用意して、
オマーキにその持っているオカネとやらを交換してと要求する。
オマーキは喜んでオカネを差し出し、ベリーを受け取る。
俺はその様子を眺めている……
交換……オカネ……俺は白い少女に問いかける。
「人の世界は……オカネで物を交換するの?」
「そうそう!理解が早くて助かるわ!」
白い少女は拍手をしつつ、尖った耳がピンと上に向かう。
「それで……人のように歩いて、オカネを差し出して」
「『そのバナナを一つくださいな』と言えばいいのよ」
……本当に?訝し気な顔をする。
「じゃあ先にオマーキにやらせるわね」
「いい?アルケ!コエマネ!そのバナナを一つくださいな!」
そう言って、オカネをオマーキに渡して、視線を果物店のほうに見やる。
オマーキはその意図を理解した。
オマーキは二足歩行で歩き、森林から道路へと堂々と踏み出し、
目の前にある果物店へと歩み寄る……
そして、オカネを差し出し……
「ソノバナナヲヒトツクダサイナ!」と
果物店のなかにいる人の前で言い放った……
そこの丸耳の人間は信じられないものを見聞きした……
という顔をしつつも……オマーキにバナナを一つ渡した……
オマーキは得意げそうな顔をして
二足歩行のままバナナを持ちあるき、
こちらのいる森林内に戻ってくる……
白い少女は白い歯をみせ体育すわりで微笑んで言う。
「……ほらね?オマーキにできたことが……あなたにできないわけないでしょう?」
俺はそのバナナを掲げたオマーキを唖然とした顔で見つめている。
オマーキは、俺なんかやっちゃいました?って顔をしている……
その日は結局、勇気が出なくて出来なかったが……
数日後に同じようにして、俺もバナナを一つ手に入れることができた。
これはきわめて小さな一歩だったかもしれないが、
俺にとっては人とやりとりができた成功体験となった……




