魔族、海底人に遭遇す
二人の人型の魔族が海底を歩いている。
しかし、水の抵抗をうける海中であり、
また鎧を着ているためその歩みはどうしても地上よりも鈍くなる。
二人の後方をやや遠くから離れてついてくる者が居た。
若造の魔族が気づいて言った。
「ね、ねえ……何者かが後ろからついてくるんだけど……」
年配の魔族
「うん?……」
二人は後ろを振り返り歩みを止め立ち止まる。
黒い影は近づくにつれ徐々にその姿を露わにす。
二足歩行をしており一見すると人間に近いシルエットをしているが、
地上の動物とも海中の動物とも異なる異様な容貌。
顔は人間にほぼ似るが、顔や腹以外は全て厚そうな外骨格で覆われ、暗いやや青緑色をしている。頭からは一つの突起が伸び、その両端には長い触覚が伸びている。両腕はロブスターのように太く、先端はカニに似た大きくて太いハサミがあり、首の根元にはもう一対の小さなハサミがある。脚はロックシュリンプのように太く、しかし人のように直立している。足は潰れた楕円形に近い。尻尾はエビのような形をす。一言で言うと、十脚目の特徴をあわせ持つ人型の何か……だ。
その何かがのし、のしと海底を踏みしめ歩いてくる。
その歩みは鎧を着た人型の魔族と同じくらい鈍い。
若造の魔族は見たことのない化け物を見たような顔をしている
「なにあれ……?こわ……」
年配の魔族は言った。
「ふむ、あれは……この世界の……海底人じゃな……」
「か、海底人ですか……?!」
その異様な容貌をした海底人は二人に近づいていく。
とうとう手を伸ばせば届くような距離まで近づくとたちどまる。
そして何やら言葉らしきものを発したが若造の魔族にはわからない。
「な、なんて言ってるんですか……」
年配の魔族は若造の魔族に向かって言う。
「やれやれ、お前さん、ちょっとこちらにこい。互いの角と角を合わせよ。」
「はい……?」
向かい合わせに角を合わせて二分ほど経過すると、それは終わった。
「ふむ、これでお前さんもこの海底人の言葉が分かるじゃろう……」
科学のアナロジーでたとえると、これはコンピューター通信であり、
特定のデータを渡しインストールするようなものである。
この場合は、海底人の言語のデータだけに限定し、インストールをした。
海底人は言葉を発するが、その言葉は途切れ途切れで流暢ではない。
「……お前ら 同族かと 思ったが 違うな? 鎧か? まったく 紛らわしい……」
二人の様子をしげしげと眺めるとまた言葉を発する。
「それに…… よく見たら お前らは 地上の 魔族か? 動物ですら ない……」
「これじゃ エサにも ならないな アーア ハラヘッタ……」
若造の魔族は驚いて言う。
「えっ?!え、エサ!?」
海底人はその言葉を聞くとしばらく沈黙してからまた答える。
「……エサ? 俺が 食べるのは 動物の 魚介類だ……」
海底人は海面のほうを仰ぎ見ると大きなハサミのある腕を万歳するように挙げ、ハサミをカチカチ鳴らすように動かす。
若造の魔族はやや怯えている。
年配の魔族は微動だにせず、
しかし緊張感を持った顔で若造の魔族に向かって言う。
「ふむ……海底人か……うかつに敵対するべきではないな……
何しろこの者のパンチは打撃型のシャコのように力強く、威力だけなら
魔王チンパンジー様の究極攻撃魔法のはめつのかわらわりに匹敵するぞ……」
「えっ……そうなんですか!?」
「ああ……だが幸いこやつは魔法を使えぬ。決して頭が悪いわけではないが、魔法を使えるほど情報を処理する速度が速くない。なに……パンチが届く近接の間合いに入らなければ大丈夫、大丈夫じゃよ……」
だがその年配の魔族の顔は強敵に対峙したかのように緊張している。
海底人は再び沈黙するがまた口を開く。
「……魔法? 魔法など いらない 俺は この体一つで 生きてきた!」
「でも ハラヘッタ…… お前ら 魔族なら 魔法つかえる 動物の 魚介類 狩れ……」
「ふむ……魚介類か……魚介類なら狩ってやるからその体にたまってる魔力を分けてくれんかね?」
海底人は沈黙後、また口を開く。
この沈黙は相手の言っていることを理解するのに必要な時間のようだ。
「魔力いらない 俺には不要 いくらでもやるから 魚介類を 狩れ ……パンチ するぞ?」
その顔はちょっといら立っているようだ。
年配の魔族は得心すると、手をのばし、その海底人から魔力を吸い取った。
そしてその魔力で頭上に向かって電撃の攻撃魔法を放った。
頭上を群れていた魚がしびれ、動きを止め、舞い降りてくる。
「ほらよ、これでいいじゃろ?」
海底人はそれをみるとハサミを両手に掲げちょっとした屈伸運動をしている。喜びの意らしい。ゆっくりと落ちてくる魚に向かってのしのしと駆け寄る。そしてハサミでキャッチすると、夢中でむさぼっている。大きなハサミで大まかにちぎると、首の根元の小さな一対のハサミでさらに細かくし、口に運ぶ。咀嚼をしている。
若造の魔族は不思議そうにして言う。
「ところで、なんで海底人が魔力を体にためていたんでしょうか?」
「ん……?ああ、魔法を使えぬ動物はたまった魔力を体外に発散せずため込むんじゃよ。奇妙な外観をしているが、海底人も一応動物の一種じゃ……。」
「魔物や魔族の魔力の源となる謎のパワーは定期的に降り注ぐとはいえ、降り注がない間は長い……その時はどこから魔力を調達すればいいと思うか……君は考えたことがあるかね?」
「……え?」
「……周りにいる動物じゃよ、いわば動物は生きた魔力の蓄電池じゃな……」
「蓄電池……ですか……」
「……?お前さんは以前、黒髪の丸耳の人間と仲良くしていたと言っていたな……知らず知らずのうちに周りの人間たちから漏れ出る魔力を吸い取っていたはずじゃよ……。」
「えっ……私が……?いや確かに一緒に人間と暮らしていたときは魔力で火をおこしたり家事をしたりしていましたけど……?」
「ふむ……丸耳の人間は誰もが魔法を使えるわけじゃない……人間は魔力を渡す。お前さんは魔力を用いて家事をする。しかも人間に友好的ときた。それはさぞかし便利な家電製品でもあったというわけじゃな……」
「家電製品……」
若造の魔族は情けなさそうな顔をしている。
海底人はまだむしゃむしゃと魚をおいしそうにほおばっている。




