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その人型の魔族は例えるなら犬だった

人型の年配と若造の魔族は体を大の字にして仰向けで海上を漂っていた。

まわりは海スライムがぽつぽつと点在して同じように海上を漂っていた。


若造の魔族が言う。

「……ボート壊されちゃいましたね……」


年配の魔族が答える。

「ああ……そうじゃな……まったくサメ型の魔物め……獲物とボートの違いすら気づかんのかね……もっとも我々が人型の魔族だと気付くと恐れをなしてあわてて逃げておったがな……やれやれじゃ……」


しかし若造の魔族は青空を見上げどこか感慨深げな顔をしている。

「でもこうしてプカプカ浮かんでいるとなんだか懐かしい感じになってきますね。海スライムが私たちの遠い遠い原初の魔物に最も近い現生種……という話には大変驚きましたが……今では腑に落ちる気がしますよ……」


「じゃろ……」


「それでこれからどうしましょうか?魔法でも使って移動しますか?」


「いや……それには及ばん……魔力の無駄遣いじゃ……このまま海流に乗って漂っておればそのうちどこかにはつくじゃろう……」


「海流?」


「海には大きな流れがある。超巨大な風のようなもんじゃ。さしずめ、我々は風に乗った風船と言ったところじゃろう。」


二人は一週間ほど漂っていたが、巨大な嵐がおとずれた。

荒波はおおきくうねり、強風が吹きすさぶ。


若造の魔族はあわてるように体をバタバタして言う。

「あわわわわ!溺れちゃう!私は泳げないんだ!うわああああああ」


だが年配の魔族はおかしなものを見るような顔をして冷静沈着にしている。


巨大な嵐は半日ほど続き、鎧を着た二人を海の底に沈めた。



「ゴボ……ガボ……ブクブク……」

若造は空気を吐き出すとそのまま動かなくなった。

体はぐったりとし海底へと沈んでいく。


年配の魔族はそのまま目を開き、何事もなかったかのように

腕を組み、直立の姿勢で沈んでいく。


二人の体が海底に着き、しばらく時がたった。


若造の魔族は死んだかのように海底に横わたっていたが目をさました。


「うーんむにゃむにゃ……おはようございます……あれ……?」


年配の魔族が立っており腰をかがめて言う。

「ようやく起きたか。」


「あれ……私……溺れたはずじゃ……?」


「溺れる?何を寝ぼけておるのかね?そもそも魔物や魔族は地上の動物のように大気の酸素に頼って生命を維持しているわけでははおらん……ゆえに溺れることはまずありえぬ……」


若造の魔族は目を丸くしている。

「え……?そうだったんですか?!」


「だから、以前に言ったじゃろう……仮に船が大破したとしても何とかなる……と……」


「まったく……それにしてもお前さんは身も心もまるで丸耳の人間そっくりじゃな……本当に人型の魔族なのかね?人型の魔族が聞いてあきれるわい……」

そういって若造の魔族の頭に生えている角をしげしげと眺める。


そして何かに気づいたかのように言う。

「……ああ、お前さんはそっちのタイプの人型魔族じゃったか……年の割には角はやけに小さくて丸みを帯びているし、メーロッパでは珍しい黒髪だし、口調も丁寧だし妙に可愛げのある顔だと思っていたが、それならまあ合点も行くか……」


「……?」


「ふむ……たとえ話をするぞ……人型魔族は基本的に狡猾で知性に優れる……それを動物で例えると狼だとしよう……」


「……うん?あーはいはい動物の狼ですね。」


「しかしお前さんは狼ではなく……」


間をためてからまた言う。


「犬じゃな……」


「い、犬……?かつての狼から分かれて、人間と友好関係を築き、いつしか家畜化されて従順になったとされるあの犬……?」


「そうじゃな……さしずめ愛玩型人型魔族といったところか……」


「ありえませんよ……だいいちそれなら丸耳の人間がまるで人型の魔族を飼いならしたみたいじゃないですか……?」


「……では、聞くがね……お前さんは最初は門番じゃったな……そこに赴任する前はどこにおった……?」


「えーと、どこなんでしょうか……?地理には疎くてわかりませんね……でもたぶんメーロッパよりも遠くから来たというところだけは確かだと思います……何しろある時魔法陣でいきなり召喚されたと思ったら風景も街並みも全然違うし……」


「ふむ……それでお前さんは周りの丸耳の人間とは仲良くしておったのかね?」


「……?はい。それはもう。メーロッパのように魔族や人間といった厳しい区別はとくになかったですよ。」


「ふむ……その周りの丸耳の人間は……黒髪じゃったか?」


「……?そうですが、それが何か?」


「以前……遠い遠い島国の話をしたな……赤エルフと黒エルフをぞれぞれ天狗やカラス天狗と呼び文化がだいぶ異なる丸耳の人間のはなしを覚えてるかね……」


「うん……」


「それで、そこにおる丸耳の人間は、園芸の技術に長けておってな……メンデルの遺伝の法則こそ知らんが経験的に植物の播種と選抜を意図的に行っておった……またネズミの交配もして家畜化もしておった……」


「……ん?」


「人型魔族は明らかに頭部の角があるため簡単に人間と見分けがつくし、魔術に長けておるし、それに魔族と人間は決して交わらぬ。ゆえにそこの人間は魔族をおそらく妖怪の類か、もしくは鬼と呼んでいたじゃろうな……」


「鬼」


「……『泣いた赤鬼』という訳ではないが、過去に似たようなことがおそらくあったんじゃろうな……」


「一体何の話をしてるんです?」


「まあ、平たく言うと、お前さんのような人型魔族の生まれ故郷はその島国だろうなってことじゃよ……

しかし、お前さんが天狗やカラス天狗を詳しく知らなかったってことはその島国とは違う地域から来たんじゃろうな……だとすると島国の隣にある大陸かもしれんな……あそこも黒髪の丸耳の人間がおるからな……他にも黒髪の丸耳の人間が暮らす地域は結構あるぞ……」


「へぇ……」


「まあよいわ……今度は海底を歩いていくぞ……歩いてゆけばそのうちどこかにつくじゃろう……」


「え?は、はい!」


二人の魔族はあてもなく海底を歩き始めた。

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