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紅月のクロスリーパー 〈血を武器に変える少女と世界の真実〉  作者: ルーツ
第四章 争いの果てに何を想うのか

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23. 悲狂のあとに

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


魔法国家アルカナン

国王 ルーク・アルカナン

アリスの姉 クレア


四代厄災

悲狂のアン・フォリー

アリスの話を聞いたジェシカ、そしてアリスは無言になり、リビングには遠くから鉄を叩く音だけが響き渡る。


「……ねえ、その後のアリスはどうしたの?」


ジェシカの問いに、さっきまでの表情とは違い、いつものアリスが戻っていた。


「うふふ、私の過去も知りたいの?ジェシカ」

「……うん。聞いておきたい」


「別にいいけど、大したことはないわよ?」

「それでもいいから、聞かせてほしい」


ジェシカの目は真剣だった。


「……そうね、さっきの話の続きになるけど、私だけは何事もなくフォリーの声に苦しまなかったの」

「……どうして?」


アリスは首を横に振る。


「分からないわ。あの時の私は自分のことでいっぱいいっぱいだったから、周りのことなんて気にする暇はなかったの」

「……そう、だよね」


アリスは何かを思い出したように微笑していた。


「うふふ、でも一つだけ、私にとって運命的なことが起こったわ」

「……運命的?」


「アンディよ」

「……アンディ?」

「そうなのよ」


アリスは紅茶に手をかけ、口に含み、一息つく。


「あれから私は、アルカナンから逃げるように城外へと出て、目的もなく走ったわ。

森に入ると複数の視線を感じたの……」

「……それって」


「ええ、死者たちよ。……私たちサキュバスは魔術に長ける種族な分、体力が極端に少ないのよ」


アリスの話に、ジェシカは無言で耳を傾ける。


「それでも必死に逃げたわ。でも……どれだけ逃げても死者たちとの距離は縮むばかり。

暗闇の森を走っていた私は木の根に足を取られ、つまずいたの」


ジェシカは唾を飲み込み、わずかに身を乗り出す。


「すぐ近くから死者たちの声が聞こえ、振り向いた時には暗闇なのに複数の赤い目がすぐそこまで迫ってきていたわ。

もうダメ、殺される……そう思って目を閉じたの」


一瞬、間が落ちる。


「……でも?」

「ええ、死者が私に触れることはなかったわ」


ジェシカの瞳が、わずかに揺れる。


「……どうして」


アリスは、ほんの少しだけ息を吐いた。


「死を覚悟した私の耳に、一人の声が聞こえたの。“平気か?”ってね」


その一言に、空気がわずかに変わる。


「その声に私はゆっくり目を開けたわ。そこには返り血を浴びて、私に手を差し伸べるアンディがいたの。

なぜか……不思議と、怖くなかったの」


ジェシカは何も言わない。ただ静かに聞いている。


「……助けてくれたんだ」

「ええ」


アリスはわずかに視線を落とす。


「……あの時は、本当に救われたと思ったわ」


短い沈黙。


「アリスは本当にアンディのことが好きなんだね」


少しだけ、空気を和らげるように。


「……ええ。あの時の出会いから、ずっとよ」


袖で口元を隠しながら、アリスは小さく笑う。


「そこから、私はアンディたち──クロスリーパーに保護されて、しばらく一緒に行動を共にしたの」

「……そうなんだ」


強くは言わない。ただ受け止めるように。


「まあ、私の話はこんなところかしらね」


アリスとアンディの出会いの話を聞いたジェシカは、どこか静かに息をついた。

そんなところにアリスが話しかけた。


「ほら、もう今日は話は終わりにしましょう」

「……うん」


「あ、そうそう。一つジェシカに渡す物があるから」

「……何?」


「うふふ、ジェシカの武器が完成して、みんなが揃った時に渡すわね」

「……分かった」

「ええ、それじゃお開きにしましょうか」


そう言うとアリスは茶器を持ち、リビングを出て行った。


リビングに一人になったジェシカは、グラフの過去、アリスの過去を聞いて、信頼している仲間にも色んなことがあるのだと改めて感じたのだった。


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