表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅月のクロスリーパー 〈血を武器に変える少女と世界の真実〉  作者: ルーツ
第四章 争いの果てに何を想うのか

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/94

22. 悲狂の起源

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


魔法国家アルカナン

国王 ルーク・アルカナン

アリスの姉 クレア


四代厄災

悲狂のアン・フォリー

アリスはしばらく黙ったまま、ジェシカを見つめていた。

その視線はどこか遠くを見ているようで、今ここにいないようにも感じられる。


やがて、小さく息を吐く。


「……長くなる話だけど、いいかしら」

「もちろん、聞くよ」


即答するジェシカに、アリスはわずかに目を伏せる。


テーブルの上の紅茶に手を伸ばし、持ち上げかけて──やめた。そのまま、そっと置き直す。

陶器が触れ合う、かすかな音がやけに耳に残った。


「魔法国家アルカナン……あそこは元々、アンソルスラントという名前だったの。私たちサキュバスが住んでいた国よ」


部屋の空気が、わずかに重くなる。


「……元々、ってことは……」

ジェシカの声が、わずかに低くなる。


「ある日、城外で一人の男が見つかったの。瀕死の状態でね……名はルーク・アルカナン」


その名を口にした瞬間、アリスの指先が微かに震えた。


「それまで私たちは、男と関わることを禁じられていたのだけど……」

「禁じられてた……?」


ジェシカの眉がわずかに動き、アリスの言葉が途切れ、視線がほんのわずかに揺れる。


「……その日を境に、すべてが壊れたわ」


静かな断言だった。

ジェシカは何も言わない。ただ、視線を逸らさずに聞いている。


「男という存在は、私たちサキュバスにとって……抗えないものとなった瞬間だったわね」


アリスの唇が、わずかに歪む。


「理性なんて、簡単に崩れるくらいにね……そして一人の男を、国中で奪い合ったわ。

ふふ……笑えるでしょう?」

「……いや……笑えないよ、そんなの……」


ジェシカは小さく、絞り出すように言う。

しかしアリスの手が白くなる程に、無意識に強く握られる。


「でもね、サキュバスたちの欲望は外へと広がっていったの。男を求めて国を出る者もいたわ……でも」

「……帰ってきたんだよね?」


ほんのかすかな期待を含んだ声のジェシカ。


「いいえ、帰って来られた者は、ほとんどいなかったわ。死者に襲われた者、子を産むために捕らえられた者……」

「え……」


喉が詰まりアリスの言葉に、具体的な光景が浮かび上がり、ジェシカは思わず視線を落とした。


「そんな中、力を持った者がいた。名はアン・フォリー。そして、私の姉クレア」


アリスの声が、ほんの少し低くなる。


「サキュバスの中でもフォリーは、誰よりも魔術に長けていて、クレアは……誰よりも美しかった」


続けて、


「そして、誰よりも“執着”していたのよ」


その言葉だけが、やけに重く響く。


「……嫌な予感しかしないんだけど」


ジェシカが小さく呟く。


「ルークアルカナンに?」


ジェシカの問いに、アリスは静かに頷いた。


「ええ。愛していたのよ」


そこで、ほんの一瞬だけ言葉を区切る。


「……歪むほどにね……」

「そんなの……」


言葉が続かない。


「ルークはそれを上手いこと利用したの。クレアの心も、権力も、全部」

「そんなの……最低だよ」


吐き捨てるように、ジェシカが言う。


「ええ、そうね。だけど気づいた時には、国の名前は変わっていたわ。アンソルスラントは消えて、アルカナンにね」


アリスの瞳がわずかに細められる。


「ルークは王となり、クレアはその隣に立っていた。

そして……フォリーも……彼女もまた、ルークと関係を持っていたわ」

「……そんなの、正気じゃないよ」


ジェシカの低い声がアリスの耳に届くが、話を続ける。


「でも、それは……クレアが仕組んだ罠だったのよ」

「……罠?」


────────────


「ええ……フォリーを壊すためのね」


────────────


「え……何それ……」


息を呑む音。


「ある日、フォリーはルークに誘われて外に出たの。そして帰り道……日が沈んだ後、二人を乗せた馬車が襲われた」


その一言で、場面が切り替わるようだった。


「当然、ルークは無傷で、フォリーは……全身、血だらけだった。

その後、フォリーは地下牢に落とされ、手足を縛られて身動きが取れず、床に伏せていた……」

「……なんで……」


ジェシカは思わず言葉が漏れ、アリスは思い出したように目を伏せる。


「だけど……どんなに傷ついても、瞳だけは綺麗なままだったの……

近くにいたクレアは、笑いながらナイフを持って、フォリーの髪を掴んで」


アリスは目を閉じ、横に顔を向ける。


「……瞳にナイフを当てがい……掻っ切ったのよ」

「……ひどい……」

「……その時の悲鳴は、今でも覚えているわ……」


部屋中が、重く、無音になる。


「その日を境に、毎日が地獄のような日々を過ごすフォリーだったけど……ある日、彼女は姿を消したわ。

魔法に長けていたこともあってか、地下牢からいなくなったの」


アリスの声が、ほんのわずかに低くなる。


「でも、ある日の夜に事件が起こったの……私の周りにいた人たちが、急に頭を押さえ始めて、悲鳴を上げたの……何の前触れもなくね」


アリスの指先が、わずかに震える。


「すると、どこからか声は聞こえきたのよ。

──叫び。

──悲鳴。

ちがう、狂ったような叫び声が……まさに悲狂だった」


アリスの話にジェシカは下を向く。


「そして──音が、消えた」


思わずジェシカは両手で耳を閉ざす。しかしアリスは続ける。


「次の瞬間、一人、また一人と私の目の前で頭が破裂し倒れたわ」


ゆっくりと両手を耳から外し、膝に手を置く。


「肉片は床に散らばり、血は床を流れていたわ……でも、それはフォリーにとっては、ただの“遊び”だった」

「なによそれ……」


ジェシカのかすれた声。

アリスはゆっくりと顔を上げる。


「私は思わず外に出たわ。そして視線の先には三日月を背に、空に浮かぶ影があった。


──全身、包帯で覆われて

──目も見えないはずなのに……笑っていた」


アリスの言葉に、ジェシカはただ黙り込む。


「それが、“悲狂のアン・フォリー”よ。彼女はね、声だけで、心を壊すの」


言葉が、静かに落ちた。

長い沈黙のあと、ジェシカが口を開く。


「……なんでアリスはそんなに詳しいの?」


アリスはすぐには答えなかった。ほんの少しだけ、視線を逸らす。


「……見ていたからよ。全部、クレアの隣でね。それに私は、フォリーの元で魔術を教わっていたの。


そして、ルーク・アルカナンに魔法の基礎を教えたのは……私なのよ」

「……え?」


ジェシカは理解が追いつかない。アリスの衝撃的な告白に。


「……そんな……でも、アルカナンって歴史がある国じゃないの?」

「いいえ、まだ50年も経っていないわ。それに、フォリーが死者となり覚醒し、さらに厄災へとなったのも、この50年という短い期間なの……

それだけで、“悲狂のアン・フォリー”の恐ろしさが分かると思うわ……」


沈黙。


「……アリス」


ジェシカが、低く名を呼ぶ。




アリスの告白によって、悲狂のアン・フォリーの事とアルカナンの情勢は分かった。

しかし、アリス自身の過去、そして抱える問題など、様々なことが露呈したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ