20.選び直す刃
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
グラフの想い人
ルミナス・エフェメール
グラフの兄
グレン
グレンの妻
マリー
グレンはグラフを連れ、自宅へと夜の集落を並んで歩く。
「……お前を家に連れてくるのは、いつぶりだ?」
「さあな……覚えてねぇな」
「はは、だろうな。昔と変わらねぇな、その口調」
グラフは何も返さない。ただ前を向いたまま歩く。
自宅前に着き、足が止まる。
「着いたぞ。ここだ」
「ああ……」
自宅の扉が開くと、柔らかな声が奥から聞こえる。
「あら、お帰りなさい」
グラフの視界に、一人の女性が映る。
「……兄貴……これは……」
思わず言葉が詰まる様子を、グレンは呆れたように笑った。
「お前、俺がずっと一人だと思ってたのか?」
何も言えなず立ち尽くすグラフを、グレンが軽く手で促す。
「ほら、突っ立ってねぇで入れよ」
「あ、ああ……」
部屋に通され、椅子に腰を下ろす。だがどこか落ち着かないグラフ。
そんな中、グレンが口を開く。
「先に紹介しておく。妻のマリーだ」
「初めまして。グレンの妻のマリーです」
穏やかな笑み。
グラフは遅れて口を開く。
「……グラフだ」
「よろしくお願いしますね、グラフさん」
マリーの優しさが、少しだけ胸に刺さる。
そんなマリーにグレンもまた優しく口調で話す。
「酒と、何かつまめるものを頼む」
「はい」
マリーは静かに奥へと下がっていった。
────────
グレンは煙草に火をつけ、紫煙がゆらりと揺れた。
「……で?
わざわざ来たってことは、理由があるんだろ」
グラフは一拍置いて、口を開いた。
「……ああ、俺に武器を作ってほしい」
グラフの言葉に、グレンの眉がわずかに動く。
「俺が扱える、“一番しっくり来る武器”をだ」
部屋に沈黙が沈み、煙草の煙だけが揺れている。
「……どういう風の吹き回しだ?俺たちクロスリーパーに、武器なんざ必要ねぇだろ」
その通りだった。
だが──グラフは静かに語り始める。
アリスの研究。
クロスリーパーの“進化”。
自分がその先へ進むために必要なもの。
すべてを。
「……そんなことが、可能なのかよ」
「ああ。可能だ」
迷いなく言い切る。
「そのために、武器がいる」
グレンはしばらく黙り込む。
「お前の話は分かった……で?何を作る。両手斧か?」
その問いに、グラフは首を横に振った。
「……違う」
一拍置き、しっかりとした口調で言い切る。
「片手で扱えるギリギリの重さの片手剣だ」
その瞬間、グレンの口から煙草が落ちた。
「……なんだと?」
グラフの言葉とは、到底思えない事態に間が抜けるグレン。
「……お前……正気か?」
「ああ、正気だ」
即答。
「……あれだけこだわってた斧を、捨てるのか?」
グラフはわずかに目を伏せ、すぐに上げた。
「……俺の知るルミはもういない。それに今の俺に必要なのは、こだわりじゃねぇ」
重く落ちる言葉。
「……もう、戻るつもりはない。それだけだ」
グラフの覚悟を目の前で知るグレン。
「……それは、お前自身の答えか?」
「そうだ」
一切の迷いはなかった。
その時──マリーが酒と料理を運んできた。
「こちらに置きますね。
おかわりは奥にありますので、ご自由にどうぞ」
静かに並べる。
「……お話の邪魔になりそうなので、私は外しますね」
「すまないなマリー」
「いいえ、大丈夫よ」
柔らかな微笑みを残し、部屋を出ていく。
何気ない夫婦の会話がグラフには刺さる。
静寂が戻る。
グレンはグラスを取り、酒を一気に流し込んだ。
「……なあグラフ。お前の中で一体何があった」
真っ直ぐな視線。
グラフはゆっくりと帽子を外し、テーブルに置いた。
そして──グレンを見据える。
「話す前に、一つ約束しろ」
「……なんだ」
「俺のための武器を作ると」
グラフの言葉にグレンは、ふっと笑った。
「なるほどな……なんとなく分かったよ。お前が“戻ってきた理由”がな」
ワイングラスを持ちながら話すグレン。そしてテーブルに置き口を開いた。
「ああ、いいぜ」
二人視線を合わせる。
「約束してやる」
その一言で、すべてが決まった。
グラフは小さく息を吐く。
そして──語り始めた。
ジェシカとの出会い。
四代厄災との戦い。
ミネルバ王国での出来事。
出雲の国。
アリスへの依頼。
そして──ルミのこと。
夜は更けていく。
その語りは、止まることなく続いた。
グラフの過去と、覚悟をすべて吐き出すように──。




