18.振るう者、振るわれる者
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
グラフの想い人
ルミナス・エフェメール
アリスの言葉に、グラフは息を呑む。
「先に聞きたいのだけれど、グラフのブラッディローズで作られる大きな斧。
それは、あなたと適合していると思っているのかしら?」
「……どういう意味だ?」
グラフの低い声に、アリスは肩をすくめる。
「いいわ。今ここで適性を見てあげる」
アリスは畳まれていた天球儀を取り出し、左手のひらに浮かせる。
それはゆっくりと展開し、円を描くように広がっていく。
「グラフ、こっちを見なさいな」
右手の指を軽く揺らし、視線を誘う。
次の瞬間──天球儀が淡く光り出した。
光はやがて強さを増し、空間そのものを包み込む。
「──っ!」
思わず目を細め、グラフは息を詰まらせた。
やがて光は静かに収まり、天球儀は再びアリスの手元でゆらゆらと揺れている。
沈黙。
「……分かったわ」
その声は、わずかに重い。
アリスの表情には、微かな苦さが滲んでいた。
「あなたの気持ちは分からないでもないわ。
でもね……無理して扱うのは違う」
言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。
「私の言っている意味……分かるわよね?」
「……ああ」
短い返事。だが、その奥にわずかな揺れがあった。
「なら、次の話を聞いてから判断しなさい」
一拍。
「ふふ……まさかクロスリーパーのあなたに、武器の適性の話をするなんてね」
小さく息をつき、アリスは続ける。
「武器とは何か、考えたことはあるかしら?」
「……なんだそれは」
「本来、武器は“身体の延長”よ」
一歩、言葉を踏み込む。
「手で握り、地に足をつけて、力を乗せて振り抜く。
自分の動きと完全に一致して、初めて“武器”になる」
静かに、しかし確信を持って。
「でも、グラフの戦い方は違う」
「……」
「あなたのブラッディローズで作られた斧は大きすぎる。遠心力に頼って、振り回しているだけ」
言い切る。
「それは“扱っている”んじゃない。“振り回されている”のよ」
その一言が、深く突き刺さる。
グラフの指先が、わずかに強く握られた。
「……そうか……」
小さく、漏れる声。
「……やっぱり、そう見えるか」
視線を落とす。
これまでの戦いが、一瞬だけ脳裏をよぎる。
「それもある。でもね──」
アリスは天球儀に視線を落とす。
「私は“見た”のよ。あなたの適性を」
静かに顔を上げる。
「……だから分かる」
グラフはゆっくりと顔を上げた。
「……聞かせてくれ」
低く、しかし逃げない声。
「俺の適性は……何なんだ」
一瞬の静寂。
そして──アリスは、はっきりと告げた。
「“片手剣”よ」
その言葉は、重く落ちる。
「片手で扱える、限界に近い重さの剣。
あなたの力と速度、その両方を活かせる形」
グラフの瞳が、わずかに揺れる。
斧ではない。
今までの自分を、否定する答え。
だが──
「……そうか」
静かに息を吐く。
「……やはり、そうか」
否定はしなかった。
ただ、受け入れる。
「分かった」
その一言に、迷いはなかった。
グラフは顔を上げ、アリスをまっすぐ見据える。
「話の途中で悪いが……アリスの話を聞いて一つ行くところを思い出した」
その目には、確かな意志が宿っていた。
アリスは一瞬だけ見つめ──静かに頷く。
「ええ、分かったわ。
でも、アンディたちの作業が終わるまでには戻ってきなさいな」
「分かっている」
短く答える。
「……すまないが、それまでジェシカのことを頼む」
「任せておきなさい」
それだけで十分だった。
グラフは踵を返し、リビングを後にする。
扉を抜け、屋敷の外へ。
夜の空気が、肌に触れる。
静かな夜空を見上げ──小さく、呟いた。
「……ルミ」
その名に、迷いはなかった。
次の瞬間。
赤い花びらが舞い、ブラッディローズが形成される。
そして──
グラフの姿は、夜の中へと消えていった。




