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紅月のクロスリーパー 〈血を武器に変える少女と世界の真実〉  作者: ルーツ
第四章 争いの果てに何を想うのか

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16.最期に残った言葉

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


グラフの想い人

ルミナス・エフェメール

グラフは椅子に腰を落とし、両肘を膝に乗せ、前屈みのまま口を開いた。


「……いないはずのルミの声が、聞こえたんだ」


グラフの低く、掠れた声だった。


「咄嗟に振り向いた……そしたら──血だらけのルミの姿が視界に入った」


ジェシカの指先が、わずかに強く握られる。


「……あの惨劇の中で、ルミは……俺のところまで来た」


絞り出すような声。


「……だがな」


一拍。


「来た時にはもう──死者どもに囲まれて、どうすることもできなかった」


沈黙が落ちる。空気が重く沈む。


「その時だ。ルミは……静かに口を開いた」


かすかに震える声で、言葉をなぞる。


「“私の血を飲んで、そして生きて”」


ジェシカの喉が、小さく鳴る。


「分かるか……囲まれてるんだぞ。これから何をされるかも、全部分かってるはずなのに……」


グラフは目を閉じる。


「それでも……あいつは微笑んでいたよ」


長い沈黙。


「……俺はもう限界だった。渇きに蝕まれて、身体は傷だらけで……立つこともできなかった」


拳が、わずかに震える。


「それでもルミは……俺だけは逃がそうとした。限界を超える覚悟でな」


ジェシカが、小さく息を呑む。


「……気づいてたんだろうな。俺が、何を考えてるか」


苦く笑う。


「ルミは……俺の顔を、自分の首元に押しつけてきた」


一瞬の沈黙。


「……牙を立てれば、飲める。そう思った。あの時の俺は……衝動を止められなかった」


声が、わずかに揺れる。


「だがな……ルミは、そんな俺を抱きしめたんだ」


優しく。


「笑いながら、涙を流していたよ……」


静かに、言葉が落ちる。


「震える身体を堪えながら……ルミは俺を見つめて言った。“グラフ。愛してる”ってな」


その一言だけを残して──


長い沈黙。


「ルミは、ゆっくりと俺から離れて──そして、後戻りできないほどの力を解き放った」


空気が張り詰める。


「周りの死者どもは、一気に消えていった……その時、俺は思っちまったんだ」


かすかに笑う。


「……帰れるってな。二人で」


一瞬で、空気が冷える。


「──だが」


沈黙。


「それを、全部踏みにじるように……“あいつ”が来た」


「空から、黒い影が降ってきて──ルミの顔を踏みつけて、立っていた」


ジェシカの呼吸が止まる。


「さっきまでの勢いは……一瞬で消えた。限界を超えたルミの身体は……もう、死者と変わらない姿になっていた」


低く。


「それを見て、あいつは笑った」


「"あはは! 面白いなお前!"」


嫌悪が滲む。


「ルミは踏みつけられながらも……それでも抗っていた」


一拍。


「だが、フードを外した顔を見た瞬間、分かった」


「……あいつだ。さっきまで俺を“遊んでた”奴だってな」


空気が凍る。


「そいつは、ルミを片手で持ち上げた。骨が軋む音がして……ルミは苦しんでいた」


拳が強く握られる。


「……そのまま、腹に手を突っ込んで──貫いた」


短い沈黙。


「……引き抜いた」


「……内臓が地面に落ちる瞬間。

俺の目に映り、視界は赤に染まった」


グラフの拳に、さらに力がこもる。


「俺は、何もできなかった。ただ……“やめてくれ”としか言えなかった。

あの光景は未だ脳裏に焼き付いている」


歯を食いしばる。


「だが、あいつは笑ってた」


「あはは! 面白いのはこれからだよ!」


──狂気。

──絶望。

──畏怖。


「そいつは、自分の指を噛み千切り、血を垂らして……それを、ルミの身体に押し込んだ」


ジェシカが息を呑む。


「最初は……痛みで暴れていたルミも、途中から様子が変わった」


低く。


「……何かに“抗っている”」


一拍。


「あいつは、笑った」


「“無理無理。抵抗しても絶対無理だから”」


沈黙。


「……その直後だ。ルミは、ぴくりとも動かなくなった。

そして……ゆっくりと立ち上がり……あいつの隣に、当たり前のように立った」


その言葉が落ちた瞬間。


ジェシカの口から、かすかに漏れる。


「……眷属契約……」


グラフは帽子を深く被る。


「ああ……その通りだ」


低く。


「ルミは……あいつの“もの”になった」


沈黙。


「俺は……ただ、見てることしかできなかった」

そしてあいつは満足そうに笑って、言ったよ……」


「“今日は楽しませてもらったから、命は助けてあげるよ”ってな」


吐き捨てるように。


「そして……ルミを連れて去ろうとした。だが──」


わずかに顔を上げる。


「最後に、奴は振り返って……名乗った」


グラフの顔に、怒りが浮かぶ。


「“我が名はアブソリュート”ってな」


長い沈黙。


誰も、言葉を発しない。


気づけば、外はすっかり暗くなっていた。


昼だった空には、もう星が浮かんでいる。


その静けさだけが、二人の間に残っていた。


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