15.届かなかった声
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
グラフの想い人
ルミナス・エフェメール
──魅惑のアリュール廃城跡。
太陽が真上に見える、ちょうど昼下がり。
ジェシカとグラフは、アリュールとの戦いがあった城跡の一室で、椅子に腰を下ろしていた。
先に口を開いたのはジェシカだった。
「グラフの過去って、確か……同族の命を奪ったって話してくれたこと?」
ジェシカの言葉に、グラフは帽子を被り直し、少し空の方へ顔を向けて語り始める。
「……そうだ。俺はやってはいけない行為をやってしまった。いわゆる罪人だ」
視線を落とすグラフ。その様子は、過去の行いを悔いているように見えた。
ジェシカは何も言わず、ただ耳を傾ける。
「俺がまだ集落でくすぶっていた時期に……一人の同族と語り合っていた。
……その名は……ルミ。
いや……ルミナス・エフェメール」
一拍。
「……俺は……強くなってルミを振り向かせることだけを考えていた。
そんなある日、俺に一つの話が舞い込んできた。
……死者狩りとして、同族たちから声がかかったんだ。
飛びついたさ。これで俺の力を誇示できる、そう思ったからな。
出発の前日、俺はルミにこのことを話して、強さをアピールしたんだ。
……それだけが、俺に振り向いてくれる唯一の方法だと、当時は思っていた」
わずかに息を吐く。
「その時だ。俺がアンディたちと出会ったのは」
グラフの話に、ジェシカは少し前のめりになって耳を傾ける。
「へー、そうなんだ! それってアンディもグラフと同じくらいってこと?」
「……そうだな。ただ、あいつは当時から期待されていた存在だった。
俺とは正反対だったよ」
小さく自嘲気味に笑う。
「そんな俺は死者狩りに向かい、成果を上げた。
それからも遠征に行くたびに成果を出して、俺はもっと自分の実力を周りに示したいと思うようになっていた」
一度、言葉を切る。
「そんなある日だ。覚醒者の依頼が来た。
当時の俺は負け知らずで、周りが見えていなかった。
いつものように、その依頼も受けたんだ」
わずかに声が低くなる。
「まだ覚醒者の怖さも、強さも、異質さも知らないままな……」
ジェシカは黙って頷く。
「その日の夜、話を聞きつけたルミが、焦った様子で俺のところに来た。
……危険な依頼だから、行くべきじゃないってな」
苦く笑う。
「だが俺は、この依頼を無事に終わらせることができれば、ルミも俺のことを認めて、一緒になれると思っていた」
言葉が一瞬詰まる。
ジェシカは何も言わず、ただ真剣な眼差しで見つめている。
「……出発当日、俺たちクロスリーパーは六人で覚醒者狩りに向かった。
目的地までの道のりは、普段の遠征と何も変わらなかった」
静かに続ける。
「だがな……遠征に出てから三日が経った、雲一つない満月の夜に、事は起きた」
空気がわずかに張り詰める。
「一人の仲間の断末魔が、森に響いたんだ。
その声に、全員が身構えた。心音を探った……だが、何も感じない。
心音どころか、気配すらなかった」
ゆっくりと語る。
「まるで最初から、そこに何もなかったみたいにな」
低く、続ける。
「俺は叫び声の聞こえた方へ向かった。……仲間を助けるために」
一瞬の沈黙。
「だが、そこにあったのは──顔は半分喰われ、四肢はなく、腹は裂かれ、乱雑に貪られた仲間の姿だった」
ジェシカの指が、わずかに強く握られる。
「……その光景を見て、俺は腰が引け声も出た」
目を細める。
「そして、暗闇の中──小さな影が、俺の前に現れ、低くはっきりとそいつは言ったんだ」
「“……ボクのこと、怖いかい?”ってな……。」
空気が、冷える。
「その瞬間、俺は死を覚悟した」
一拍。
「だが、仲間が俺を助けに来てくれた」
わずかに安堵が滲むが──すぐに消える。
「……次の瞬間、そいつは笑ってたよ。
一瞬だったよ……四人の同志は血の海と化した」
ジェシカの息が止まる。
「暗闇の中で、何が起きたのか分からなかった。
ただ、気づいた時には……仲間はもういなかった」
低く、続ける。
「そんな俺を見て、そいつはまた言ったよ……」
「“──ほら、早く逃げないと、殺しちゃうよ”」
わずかに震える声。
「俺は……逃げた」
拳がわずかに震える。
「振り返ることもできず、ただ必死に走った」
「だがあいつは、笑いながら俺との距離を保ち、死なない程度に傷を与えて遊んでいた」
歯を食いしばる。
「気づけば、自分がどこにいるのかも分からなくなっていた。
その頃には既に、夜が明けていた」
わずかに視線を上げる。
「その時だった。奴は、俺じゃない方向を見た」
そして──笑った」
短い沈黙。
「次の瞬間、そいつの姿は、俺の前から消えた」
息を吐く。
「……助かったと思ったさ」
だが、すぐに表情が曇る。
「……だがな」
静かに続ける。
「遠くから、確かに聞こえたんだ……
"ルミの声"がな……」




