14.刃は語り、心は応える
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
──魅惑のアリュール廃城跡。
「──ブラッディローズ」
赤い花びらが手の周囲に広がる。
次の瞬間、瞳が赤く染まり、身体解放が発動する。
グラフの手には、ブラッディローズで形成された赤黒い両手斧。
それを強く握りしめ、地を抉るように踏み込み、ジェシカとの距離を一気に詰めた。
その動きを、ジェシカは静かに見据えていた。
「……分かったよ、グラフ。その気持ちに応える。
──ブラッディローズ」
真紅の花びらが、嵐のようにジェシカの周囲で咲き乱れる。
一瞬、踏み込んだはずのグラフが、逆に間合いを外す。
その意図を悟りながら、ジェシカはただ一言。
「……来い」
その言葉に、グラフの視界から世界が消える。
残ったのは、ジェシカただ一人。
蒼い瞳は、完全に真紅へと染まっていた。
「ふっ……ジェシカ……」
息を吐く。
腰を落とし、重心を沈める。
そして──踏み込む。
空気が弾けた。
一瞬で間合いを潰し、両手斧を振りかざす。
「──ッ!!」
全身の力を乗せた一撃が、ジェシカへと振り下ろされる。
轟音。
地面が砕け、衝撃で砂塵が爆ぜ上がる。
「──くっ!!」
だが、漏れたのはグラフの声だった。
砂煙が、ゆっくりと晴れていく。
その中に立っていたのは──片手で両手斧を受け止めている、ジェシカだった。
左手で刃を掴み、微動だにしていない。
「……っ」
軋むのは、グラフの腕だ。
その瞬間。ジェシカの右手に、真紅の短剣が現れる。
次の瞬間には──懐に入っていた。
視認できない速度。
「くっ……まだだ」
一瞬の隙にジェシカの刃は、グラフの眼前──
わずか一ミリで止まっている。
だが、その瞳は死んでいない。
「ねえ……何でこんなことを……」
「……」
グラフは、その短剣を自らの手で握り締める。
刃が食い込み、血が滴る。
それでも、離さない。
「ねえ、グラフ……」
ゆっくりと、刃が顔から離れる。
その一瞬の隙を逃さず、グラフは後方へ跳ぶ。
着地と同時に膝が沈む。
「はあ……はあ……」
荒い息遣い。視界が揺れる。
だが──口元だけが、笑っていた。
「ふっ……よく分かったぜ……」
その瞬間。
空気が、凍りつく。
「俺の全力だ!!」
グラフの身体から、異常なまでの圧が溢れ出す。
──身体解放。
──ブラッディローズ。
その両方を、限界を超えて維持していた。
血が焼ける。
意識が削れる。
このまま続ければ──確実に死ぬ。
それでも、止めない。
(このままじゃ終われねぇ……!!)
その覚悟を、ジェシカは理解した。
「……分かったよ、グラフ」
今にも涙で溢れそうな瞳を閉じ、一筋の涙が、頬を伝う。
「──スカーレットローズ」
次の瞬間。世界が、紅に染まる。
血の薔薇が咲き乱れ、風を裂いて舞い上がる。
「身体解放」
青白いオーラが、その身を包み、紅い羽も風に煽られ舞う。
静かに瞳を開く。
その視線は、ただ一人に向けられる。
グラフだけに。
その姿に、グラフの表情がわずかに緩む。
「……ありがとうよ、ジェシカ」
深く息を吸う。
「──行くぞ!!」
踏み込む。
地面が砕ける。
全てを乗せた一撃。
だが、ジェシカには届かない。
「……くっ! まだだ!!」
斬る。叩く。振り抜く。
何度も。
何度も。
何度も。
だが、そのすべてが弾かれる。
(当たらねぇ……!)
そのとき。
ジェシカの手には金色に輝く刀が現れた。
その輝きが、視界を焼いた。
その刹那──音が消え、世界が止まる。
心臓の音だけが、やけに大きく響く。
ドクン。
気づいた時にはジェシカの姿は、視界から消えていた。
「……なっ!?」
グラフの声が漏れた瞬間。ジェシカの声が、グラフの耳にしっかりと届いた。
「……これが終わったら、ちゃんと話、聞かせてね」
その言葉と同時に。
グラフの力が、完全に抜け膝が崩れ落ちる。
地面に、手と膝をつく。
その視界の先に、ジェシカが立っていた。
完敗だった……。
──────────
「……グラフ」
差し出される手。
「ああ……分かってるさ」
その手を握り、引き寄せられてる。
「血、使いすぎたよね。
結晶を使いすぎるのはよくないから……」
そう言うとジェシカは、自らの首元を差し出す。
「……飲んで」
グラフは一瞬の迷いった。しかし何も言わず牙を立てた。
温かい血が、流れ込んだ……。
ドクン。
渇きが潤い、心音が落ち着いて行く……。
するとグラフはその場に座り込み、ゆっくりと口を開いた。
「今度の依頼──俺、アンディ、クロードは同行しない。
……いや、今のままじゃ、できない」
「どういうこと!?」
グラフは、アリスとの話を隠さず語った。
「……そうだったんだね。進化なんて……
確かに、私だけっていうのもおかしな話だよね」
小さく笑う。
「それなら、仕方ないか!」
「だが、研究が終わって進化の兆しが見えたら、すぐに駆けつける」
「えへへ、ありがとう。
リベリオンとアルカナンのことはなんとかやるかさ、心配しないでよ。
それに、免罪符もどうにかするからさ!」
「……分かった」
「それよりクロスリーパーの進化なんて、よく思いついたね!」
「まぁな……俺にはどうしてもやり遂げたいことがある。そのために、全部捨ててでも──」
グラフの重い言葉。
「それって……」
顔を上げジェシカを見るグラフ。
「……いい機会だ。俺の話……聞いてくれるか」
「もちろんだよ!」
「ふっ、少し座るか」
廃城の周辺を見渡すと、壊れかけた椅子が視界に入り、二人は腰を下ろした。
静寂の中──
グラフの過去が、語られようとしていた。




